第五話
キューブは宙に浮いたまま映像を投射した。
【生存】
ランドルフ 43点
丈一 10点
リック 0点
シェリー 0点
【死亡】
ファーム
ヘンゼル
謙太
崇心
100点報酬
死者を復活させる。
新しい力を得る。
元の世界に戻る。
リックは譫言のようにつぶやいた。
「100点報酬…。元の世界に戻れる…?」
シェリーがその隣で突然嘔吐した。シェリーはその場に蹲り、両手で自分の身体を抱きしめた。
「私は何もされてない、私は何もされてない、私は何もされてない」
下を向き、自己暗示をかけるかのようにシェリーは同じ言葉を繰り返した。リックが駆け寄り、背中を擦ろうとするのをシェリーは強く制止した。
「待って!私は大丈夫だから、近づかないで!」
リックは少したじろぐと、シェリーから少し離れた。丈一はキューブの表示を手でなぞった。
「丈一、10点」
その様子を見ていたランドルフが驚く。ランドルフが丈一に近付いていった。
「一回目から10点取ったのか。逸材が来たな」
丈一はキューブから素早く情報を抜き取れると43点の横にある名前を読み上げた。
「ランドルフ」
「そうだ。俺がランドルフだ。よろしくな丈一」
二人が握手をすると、リックがランドルフに食って掛かった。
「あんた、早々に消えやがって。一体これは何なんだ!知ってること全て教えろ!」
ランドルフは不愉快そうに眉を顰める。ランドルフはリックを見定めるような目つきで見下げると告げた。
「お前、それが人にものを頼む態度か?」
「知るか!人が死んでるんだぞ!それも大勢!」
ランドルフは自身に残されているわずかな善意を使い、リックに戒めるように言った。
「ガキ、長生きしたければ、死に慣れることだな。この世界は理不尽な死で満ちている」
そういうとランドルフはリックを無視した。早々にガキの相手はしないと決めたらしい。無視されたリックはランドルフが自分の相手をしないことを知ると、昂った感情をそのまま丈一にぶつける。
「何人殺した!なんで平気な顔をしていられるんだ!お前は人を殺したんだぞ!」
丈一は腕を組んで黙っていた。真剣な面持ちで何かを考えていて、リックのことなど眼中にないようだった。
丈一は指を一本突き立てる。リックは僅かに動揺した。丈一はそのまま二本、三本と指を立てていく。それは何かを数えているようだった。丈一は答え合わせをするように呟いた。
「ゴブリン1点。ホブゴブリン5点、か」
丈一は点数の内訳を考えていた。子供のようなサイズのゴブリンは五匹。逞しい体のゴブリンが一匹。それが丈一にとってのキル数だった。
丈一は100点報酬の中の新しい力について思考を巡らせた。それにはモンスターに対する恐れや未知の環境への驚きなどは含まれておらず、純粋な愉悦のみで構成された思考だった。
(モンスターを倒せば倒すほどポイントが手に入る。100点貯めたら強くなる。さらにモンスターを倒せるようになる。面白い…)
丈一は胸の高鳴りを抑えられなかった。丈一はホブゴブリンに殴られた腹を無意識のうちに撫ぜた。不思議と痛みは感じなかった。
それどころか丈一の身体は頗る快調だった。どうやらミッションが終わると生きている限り傷は治るらしい。服もべっとりとついた血液が消えて、前に戻っていた。丈一はその時リックのことを思い出した。
「あ。リック、すまなかったな。鎖骨を折ってしまって。でも多分もう治ってるだろ?」
リックがその様子を見て絶句する。丈一はリックの昂った感情に一ミリも関心を払っていなかった。ランドルフは顔を真っ赤にしたリックを見て吹き出す。ランドルフは顔を真っ赤にしたリックを宥めた。
「そんな必死になるなよ。たかが三人だろ?お前らはラッキーな方だって。元々六人だったよな?」
それを聞いたリックが声を張り上げて、噛み付くようにランドルフに言った。
「違う!九人だ!少なくともな!」
ランドルフは辻褄が合わない死者数に一瞬疑問符を浮かべたが、すぐに気が付いた。
「お前まさか、モンスターも換算してるのか?」
「当たり前だ!」
ランドルフはその時点から明確にリックのことを下に見て、嘲笑した。丈一が呆れたと言った様子でため息をついた。
「リック、お前は殺されかけたんだぞ」
「関係ない!お前は人殺しだ!」
丈一は言い放たれたその言葉に深い失望を感じた。その失望は無意識に抱いていた共に謎の状況に陥った協力者という関係値から、自分の邪魔をする口だけの男という関係値に大きく降下したことに起因した。
丈一は失望の色を隠さず、リックに現実を突きつけた。
「お前はなにもしていない」
リックは不意を突かれて狼狽した。丈一の言葉は正しかった。それでも、とリックが言い返そうとしたとき、丈一は淡々と続けた。
「もう面倒だ。俺のことを人殺しだと思うなら俺と関わるな」
その言葉を最後に沈黙が広場を包んだ。シェリーは体の震えを抑えるのに必死だった。リックは黙り込んでしまい、丈一は刀を取り出したり、ステータスの確認をしたりと忙しくしていた。三者三様な様子を見届けたランドルフは確認すると、満足げに頷き、キューブを操作し始めた。
「じゃあ、もういいな?」
ランドルフはそう確認したが、返事をする者はいなかった。ランドルフはポリポリと頬をかくと、キューブを強く握った。
「俺たちはお前らを歓迎する!イカレた世界にようこそ!俺たちは勇者一行だ!」
四人の意識が途切れると、目覚めた先には待ち構えていた者たちがいた。
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