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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第二十九話

 丈一たちが戻った廃村は死んだように沈黙していた。丈一が震える声で確かめる。


「おい…。いったい何人死んだ?」


 丈一は指折り数える。


「ウィンク…。師匠…。シェリー…」


 確認したところで死んだ者は蘇らない。そう知りながらも、丈一は数えずにはいられなかった。


「く、くそっ!」


 安藤がパソコンを殴りつける。


「安藤、気持ちはわかるが…」


「そ、そうじゃない!」


 安藤はひどく取り乱していた。まるで受難はまだ終わっていないかのように。


「じ、時間がない!僕のパソコンで僕らのポイントを全部丈一に集めるんだ!サイレント、残りの点数

 は?」


「…七十」


「ぼ、僕のと合わせて百五点だ!サイレント、いいね!?」


 サイレントは黙ってうなずく。パソコンの画面上でポイントが渡される。



 丈一 105点


「き、キューブがないから新しい力は得られないけど、これで少しでも源力を回復してくれ!」


 丈一が安藤の焦り様に戸惑い不安になる。


「安藤、一体何にそんな慌てているんだ?」


 安藤が震える身体を自分で抱きしめながら、答える。


「じ、次元の移動をやりすぎたんだ…。僕らはキューブに目をつけられた…!」


 広場に突如黒いキューブが現れる。


「く、来る…!魔界のハンターたちが!」


 キューブは映像を投射する。



 モンスター 禁則破りの人間たち

 ランク   E

 報酬    一点



 その横には安藤の顔写真が表示されていた。喪服姿の男たちが次々とキューブから現れる。その中には天界で見た茶髪の魔人もいた。茶髪の魔人はボロボロの丈一を見つけると、下卑た笑みを浮かべた。


 丈一たちは喪服の男たちを相手に懸命に戦った。しかし、ボロボロの身体では万全の状態の男たちには叶わなかった。丈一はボロ雑巾の様にされ、意識を失った。再び目覚めたときには、全員が喪服の男たちによって制圧されている状態だった。


「目覚めたかぁ?ちょうどいいや。準備もできたしな」


 茶髪の魔人はどこからか持ってきた椅子に座りながら、地面に押さえつけられている丈一を見下ろす。丈一は目をぎょろつかせて、状況を素早く把握する。敵の数は八人。広場の中心にある黒いキューブを中心にして円形に椅子が並べられてあった。


 敵の中でも別格に強いのが一人。丈一から一番離れた席にいる男だった。横を見るとサイレントと、クラウディアが同じように抑えられていた。安藤は別格に強い男に踏まれている。茶髪の魔人は必死な様子の丈一をあざ笑い、言った。


「チャーンスターイム!あばばばば」


 茶髪の魔人たちが、別格の強さの男を持つ男の下に集まる。男の髪型はきれいに整えられたフェードで、サングラスをつけていた。サングラスの男はコインを弾いた。一枚目は裏だった。男たちは歓声に沸く。二枚目、三枚目は表。サングラスの男が呟く。


「今回のモンスターたちは中々運がいい」


 男たちはぞろぞろと丈一たちを取り囲む。茶髪の魔人が掌を合わせ、身体から刀を生成する。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」


 茶髪は刀をサイレント、丈一、クラウディアの間で往復させる。クラウディアが苦し気に訴えた。


「私を殺しなさいっ!」


 茶髪はそれを聞いて目を輝かせる。


「よしっ!じゃああんただ!」


 丈一が焦って声を出す。


「待て!俺だ!俺を殺せ!」


 茶髪はその様子を見て冷やかす。


「サルのカップルかよ。熱いねぇ~。熱すぎる。まぁ、先着順ということで!」


「待て、ヴァン。お前は何も分かっていない…」


 サングラスの男が、茶髪の魔人、ヴァンを呼び止めた。サングラスの男が告げる。


「こういう時は愛が深いほうを残すんだよ…」


 サングラスの男が丈一に歩み寄る。


「なあ、人間。お前、彼女を助けたいか…?」


 丈一は相手の狙いを推し量りながら、答える


「…あぁ」


「女、お前は…?」


「私が代わりに死ぬわ!」


「じゃあ、今からその覚悟を試そう。ここに六つの弾倉を持つリボルバーがある。お前ら二人に交互に渡していく。弾を一つだけ込めるから、自分に撃つか、恋人を撃つかは自分で決めろ…」


 そういってサングラスの男はじゃらじゃらと弾倉を回し、丈一にリボルバーを投げ渡した。丈一は右手だけ解放される。


(くそっ!こんな銃じゃ魔人たちは殺せない!どうする…!俺が当たりを引かなければ、クラウディアが死ぬ。六分の一か…!やるしかない!俺が当たりを引き当てて死ぬんだ!)


 丈一は迷わずこめかみにリボルバーの銃口をあてた。


(こいっ!)


 カチッ!


 しかし、無情にもリボルバーは空回るだけだった。丈一は悔しがる。しかし、希望はまだ捨てていなかった。


(次は五分の一だ。クラウディアが五分の一を外したら次は二十五%で死ねる。頼む…。当たるな!)


 丈一はリボルバーを奪われ、リボルバーはクラウディアに渡される。クラウディアはリボルバーを受け取ると、少し考えて丈一に謝罪した。


「ごめんなさい。丈一」


 ヴァンがその言葉を聞いて沸き立つ。


「きたきた!これだよ、このいつもの裏切りの展開!たまんねぇな!」


 クラウディアはいつもの笑顔で丈一に言った。


「元気でね」


 クラウディアはトリガーに指をかけた。


 カチッ!カチッ!カチッ!カチッ!パァン!


 乾いた銃声と共にクラウディアに血の華が咲いた。クラウディアは迷うことなく、五回トリガーを引いたのだった。クラウディアを中心に血だまりができる。


「うわああああああああああああああああああああ!」


 丈一は慟哭した。もがき暴れるが丈一の拘束は解かれない。丈一は地面に指を突き立て、土を抉り、怨嗟の声を放つ。


「ぁぁぁぁぁぁぁ…。殺す…。お前ら全員殺す!」


 サングラスの男は愉快そうに笑った。


「ハハッ。確かに一発だけとは言ってなかったな。これは面白い。狙ってたものとは違うが、まぁいいか…」


 サイレントの拘束が解かれる。サイレントは殺されずに広場の中央に呼び出される。


「今から命を賭して戦ってもらう…」


 サングラスの男がサイレントの相手を指名する。


「ヴァイロン、お前だ」


 二メートルはありそうな大柄の男が選ばれた。


「イエス、ボス」


 サイレントは円形に組まれたフィールドの中で相手と正対する。サイレントは敵を見上げると、ポケットに入れていたシェリーから貰ったゴムで髪の毛を縛った。人形のような端正な顔が出てくる。夕暮れ時に黒いキューブが広場の中心で怪しく光った。


「小さい人間。お前がこいつに勝てたら、お前は解放だ…」


 サイレントは短く息を吸い、吐くと、その場で軽く飛んだ。


「すぅ…。ふっ…」


 サイレントはボクシングの構えをした。ヴァイロンはにやりと笑う。


「いいだろう…。やってやる」


 同じくヴァイロンも構えた。戦いは合図なしに始まった。始まったのは乱打戦だった。お互い、ほぼノーガードで殴り合った。サイレントが敵の攻撃を避け、強烈なアッパーを打ち込む。ヴァイロンは尻もちをついた。喪服の男たちがブーイングをする。


「この、チビザル…!俺を怒らせたな」


 ヴァイロンの筋肉が隆起して、身を包んでいた服が破れ、荒々しい肉体が露になった。サイレントがジャブを放つが打って変わって、ダメージを与えられない。ヴァイロンは強引にサイレントの足を掴むと、地面に向かって何度も打ち付けた。


 サイレントは投げ捨てられると、素早く立ち上がり、独特のステップを踏んだ。丈一になじみのないその動きはカポエイラの技術だった。サイレントは敵の攻撃を受け流し、蹴りで着実にダメージを与えていく。


 ヴァイロンの渾身の一撃に合わせる形で振りぬいた蹴りにサイレントはすべての源力を込めた。その一撃はヴァイロンの頭を吹き飛ばした。喪服の男たちがどよめいた。サングラスの男がサイレントの勝ちを宣言する。


「不甲斐ない…。上澄みの一人がサルに負けるとはな。興が冷めた。さっさと終わらせるぞ。つぎはヴラドだ…」


 ヴラドと呼ばれた端正な顔立ちをした男はどこかホストのようにも見えた。


「待ってください、ボス!ヴァンにチャンスをくれませんか?一度、このサルに負けたどうしようもない弟ですけど、まだ見込みはあると思うんです!」


 サングラスの男は試すようにヴラドを見た。


「チャンスはやるが、万が一負けた場合はおまえもどうなるか、分かってるな?」


 ヴラドは生唾を飲み込んだ。


「もちろんです、ボス!」


 丈一の番が来た。相手は茶髪の魔人、ヴァンだった。


「おい、おサルさんよぉ。お前のせいで、あの後大変だったんだよ。マジで超だるかった。そういえば、あの時一緒にいた男は?ほらお前らゲイみたいにしてたじゃん」


 丈一は頭の中のパズルを一つずつあてはめていた。思考は怜悧でどこまでも冴えていた。ただ、こいつらを殲滅するという一つの目的のための機械になったような感覚だった。丈一は蝙蝠が耳元で騒ぐような不快感だけが人間らしい感覚だと思った。


「…黙れ」


「あ?キレてんの?ゲイは沸点が低いーーー」


 それがヴァンの遺言となった。沈黙が辺りを支配した。丈一は刀についた血のりを払い、ヴァンの体が縦半分にしっかりと分けられていることを確認した。サングラスの男を除いて、誰一人丈一の剣筋を捉えることはできなかった。茶髪の魔人の兄、ヴラドが弟の死を目の当たりにして絶叫する。


「貴様ぁぁ!」


 サングラスの男が、丈一の力量を知り、興味深そうに言う。


「人間がその領域までたどり着くとは。まぁいい。今宵のショーは終わりだ」


 サングラスの男は、そう言って生成したナイフで安藤の首を掻っ切った。血が噴水の様に飛び出て、男の足元を赤く染めていく。男は椅子から立ち、黒いキューブに触れて去ろうとした。しかし、それを丈一が呼び止める。


「待て」


 男は足を止めた。


「なんだ?人間。お前は解放だ…」


「俺、言ったよな。全員殺すって」


 サングラスの男が快活に笑う。


「フッハッハッ!俺を殺す気か、面白い。それにその強さ。気に入った。お前は熟成させてやる。お前ら!キューブに強制転移させられるまで、こいつと遊んでやれ!俺は先に帰る…」


 丈一が男が帰るのを阻止しようとすると、喪服の男たちが立ちふさがった。男の一人が言う。


「おい、サル。一時間前にボコボコにされたのをもう忘れたのか?俺たちは蝙蝠の魔人の中でも、上澄みだ。それを全員殺すって?馬鹿も休み休み言え」


 殺されたヴァンの兄、ヴラドが言う。


「お前を殺す…。ボスがお前を生かしたとしてもな!」


 丈一はこの一時間で回復した源力をすべて直感に充てていた。怜悧なその直感は状況を正確に理解し、唯一最善の選択肢を丈一に提示していた。丈一は静かに宣言を実行に移した。


「殺す」


 その言葉を皮切りに喪服の男たちが襲い掛かってきた。丈一はまっすぐ突っ込んできたヴラドを蹴り飛ばし、広場の中央にある黒いキューブを掴んだ。


「キューブ、新しい力だ!」



 丈一 5☆


 100撰シ千せ蝣ア驟ャ

 豁サ閠?r蠕ゥ豢サ縺輔。

 譁ー縺励>蜉帙r蠕。

 蜈??荳也阜縺ォ謌。


 譁ー縺励>蜉帙r蠕?

 Y8S/N0



 丈一は文字化けしたキューブの表示を見て、今までの経験から選択する。


「イエスだ!」

読んでくださりありがとうございます。


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