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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第二十八話

 丈一はクラウディアを信じることにした。


「ポーラ、俺は帰らせてもらう」


 ポーラはその決断を鼻で笑った。


「ふん。世界と彼女を天秤にかけて彼女を選んだのね。力づくでも連れて帰るって言いたいけど、あなたも相当強くなってるから、それは無理そうね」


 ポーラは諦観した。


「クラウディアが、いや仲間がそうさせたのね」


 ポーラはその時、悪魔的な閃きを思いついた。クラウディアがその閃きで変更された未来を見て、青ざめる。


「ポーラさん!それはダメ!そんなことをするくらいだったら、世界が滅んだ方がましよ!」


 ポーラは驚く。


「へぇ、そんな風になっちゃうの。これをやると」


 ポーラが唐突に村井とザインに呼びかける。


「村井壮太。長年のお勤めご苦労様。あなたは今日でクビよ。ザイン、あなたには仕事があるから残ってもらうわ。残業よ」


 クラウディアが声を張り上げる。


「お願いだから!やめてください!ポーラさん!」


 丈一が戸惑いながらクラウディアに尋ねる。


「一体何が起こるんだ?」


「さて、あなたたちは帰っていいわよ。もちろん丈一もね」


 ポーラが解散解散といって手を叩く。丈一たちは意見が一気に変わったポーラの様子に戸惑う。


「あら、あなたたち、歩いて帰る気?送ってあげるわよ…。ただし地獄にね!」


 丈一はポーラのすることが分かり、背筋が凍った。ポーラの【転移 B】の凶悪さを思い出し、白煙で転移を防ごうとする。


「遅いわ!【座標指定 N】【空間転移 N】!発動!」


 丈一は最後にポーラが機嫌よさげに手を振っているのが見えた。


「いってらっしゃーい」



 丈一の目に一番最初に入ったものは真っ黒な太陽だった。踏みしめる地面は紫で、血痕のようなものがそこら中にあった。


「あ、あ、あ、ここは…」


 クラウディアが呆然としたまま呟く。


「魔界…」


 丈一は安藤に言いかけた。


「安藤、ゲーーー」


「だ、誰か、キューブを持ってないか!?」


 誰も持っているものはいなかった。それはザインと安藤が持っていたはずのものだからだ。丈一は恐る恐る尋ねた。


「ないのか?」


「な、ない。キューブだけ転移させられなかったんだ」


 狼の遠吠えが遠くで聞こえた。丈一は敵の反応がこちらを包囲してくるのが分かった。


「来るぞ!全員構えろ!」


 オーク、赤の妖精、サラマンダー、人狼、グリフォン、鉄の巨人、首なし騎士。丈一たちは千を超えるであろう魔物たちに補足された。サイレント、ウィンクは戸惑いながら戦闘態勢を取る。安藤が【パソコン E】を抱えながら絶望する。


「お、終わった。こんなの出口のない迷路に閉じ込められたのと同じだ。せめてザインが居れば…」


 シェリーは安藤のその様子をみて一喝する。


「しゃんとしなさい!何とかするのよ!」


「む、無理だ。キューブのないパソコンなんてただの板だ」


「無理でもやるのよ!私たちはまだ生きてる!」


 安藤はその言葉に自分を取り戻すと、パソコンを開いて打開策を探した。


 丈一たちは全方位からくる敵に対して輪になって戦った。安藤、シェリー、クラウディアを囲って守っていた。丈一、サイレント、ウィンクで前線を保持していたが、ウィンクが徐々に敵に押し込まれるようになった。


 丈一とサイレントは目の前の敵に忙殺されてフォローに行けない。その時、透明な何かがウィンクの背後を取った。ウィンクはそれに気づいていない。それは背後から、ウィンクの心臓を突き刺した。


「ゴフッ…」


 パララッと響いた銃声は虚ろに響いた。銃弾は敵を捉えず、土を抉った。シェリーが回復するが、間に合わない。


 ウィンクは勇猛に戦い死んでいった。村井はウィンクの死を見ても呆けたままでいる。三人で担っていた前線が崩壊していく。敵味方が入り乱れる中、村井は懐かしさを感じていた。


(そうだ。僕はこうやって血だまりの中で戦ってきたんだ。懐かしい)


 シェリーが前線で立ち回り、丈一とサイレントが傷つくそばから回復していく。


(僕は何かを求めてた。それすらも忘れていたのか)


「おいっ!師匠!村井壮太!いつまで呆けているつもりだ!」


 丈一の声は村井の鼓膜を揺らしても届きはしなかった。村井の頭の中にはある一閃が思い描かれていた。


(仲間が死んでいく。あの時と状況は同じだ。僕はあの時確かに見たんだ。次元を斬り裂く究極の一閃を)


 村井の胸が高鳴る。


(きっと、このまま待ってれば、予言通りもう一回、あの一閃が見れるんだ!)


 敵の肉が裂ける音。血だまりを踏む音。煌めく白刃。村井はその時をずっと待っていた。しかし、待てど暮らせど、その時はやってこない。


「村井さん!」


 ドンッと背中を押されて振り向くと、そこには村井を庇って、首を刎ねられるシェリーがいた。丈一の絶叫が響く。


「シェリィィィィィィ!」


 シェリーの首のない身体が、村井に倒れ掛かる。村井は不思議な顔でそれを見つめる。


(なんでシェリーさんが倒れてるんだ?ちょっと待って…。このままだとみんな死ぬんじゃない?)


 村井は焦りだす。村井は丈一に期待を寄せる。


(僕が刀を教えた彼ならもしかして…)


 しかし、丈一はシェリーの死に取り乱し、わずかに残していた源力を使い果たしてしまう。丈一は敵の波に飲み込まれる。村井に敵の攻撃が向かった。村井は究極の一閃を諦めてしまった。


(あぁ。次は僕の番か。なんかもう別に死んでも死ななくてももうどっちでもいいな)


 村井は敵の攻撃を受け入れようとしていた。しかし、敵の攻撃は弾かれて村井に届かない。村井が怪訝に思い目を開けると、半透明のバリアが張られていた。

「これは…」


 それはシェリーが新しく得た力【シールド N】だった。シェリーは今わの際に自分を守るのではなく、村井を守ることを選んだのだ。村井はシェリーの源力がこもったバリアをみてすべてを察する。


「あのバカ…」


 村井は自分のうちに湧いて出た正体不明の感情に名前を付けることができなかった。村井は刀を抜く。襲い掛かってくる人狼を目にもとまらぬ速度で斬り刻むと、丈一に群がる敵を最速で片づけた。丈一は敵に飲まれても辛うじて致命傷は避けていた。


「一体全体僕は何してんだ…」


 村井は必死の形相でパソコンを叩く安藤に声をかけた。


「安藤君、僕が次元を斬り開く。それを人界に繋げてくれ」


 村井は驚く安藤を他所に、目を瞑った。


(思い出すんだ。あの時見た一閃を。刀に生涯をささげた者がたどり着ける到達点を僕はあの時すでに見ている)


(僕はあの一閃をみて修行を積んできた。今の僕なら出せる!)


 村井は目を見開いた。自分の持てるすべてをもって空間を斬り裂こうとした。しかし、何度やっても空間は斬り裂かれない。村井は動揺する。


(なぜだ!なぜできない!)


 その時、サイレントが敵の死体に躓き、地面に転がった。


「あ…」


 それを好機と捉えて、魔物たちがサイレントに群がる。それを見た村井は激昂した。


「僕の仲間に触るなぁ!」


 村井は斬撃を飛ばし、サイレントに群がる敵を斬り飛ばした。その斬撃は空気中に吸収されると、ひし形の次元の割れ目を創り出した。


 斬撃は時間すら超越して、村井壮太が目撃した場所に到達する。村井は次元の先の目を輝かせて斬撃を見つめている自分を見て苦笑いをした。


(一ミリもこっちに気づいてないね。なんでこの一撃が出せたのかは結局分からないままだったな)


 安藤が次元の接続先を無理やり廃村に繋げる。


「み、みんな!飛び込むんだ!」


 一番近くのサイレントが飛び込み、次に安藤、クラウディアが続き、丈一が入ろうとしたところで、村井を振り返ると、村井は刀を振り切ったまま、敵に体を貫かれて死んでいた。丈一はその死に様を脳裏に焼き付けてから、飛び込んだ。

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