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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
24/31

第二十四話

 敵は強さにムラがあったが、十分強かった。しかし、それ以上にリックと丈一は強かった。リックは盾を構えて、敵に突っ込むと盾で敵を殴り躊躇なく制圧していった。


「バット・パレット!」


 男たちは指を銃口に変えて、リックを狙ったが、銃弾はリックの盾に弾かれた。困惑する男たちをリックは次々となぎ倒していく。丈一はその様子を見て感激する。


「リック、お前…。強くなったんだな!」


 今までは丈一が前を走っていた。しかし、今度は丈一がリックに食らいつく番だった。丈一は源力量の少なさを白刀に注ぎ込んでカバーし、持ち前の剣技で敵を圧倒した。二人の戦いっぷりはまさに鬼神と呼べるものだった。男たちは暴れ狂う二人の鬼神から、攻撃対象を変えた。


「くそザルども!こいつら殺されたくなかったら大人しくしろ!」


 男たちは、ゲートに殺到する参加者たちを狙い始めた。


「うっ!」


「きゃあ!」


「いやぁぁ!」


 丈一は急いで参加者たちを守りにいこうとするが、リックに止められる。


「どうした?リックーーー」


「今の俺なら、守りたいものをちゃんと守れる!」


 リックが源力のすべてを解放すると、逃げ惑う参加者一人一人にリックと同じ盾が張られた。その盾は弾


 丸を弾き、参加者たちを守り抜いた。シェリーが声を張り上げる。


「けがをした人はこちらに!私が治します!」


 丈一とリックは圧倒的な強さで敵を殲滅すると、互いに讃えあうように手を叩きあった。


 丈一たちはその後、天界に残った人たちに声をかけて回り、戦闘の継続を希望する者以外を撤退させた。一人で戦っていたウィンクとアンブレラは撤退させ、その場のものでチームを組み戦闘していたザインはチームの意向に即して天界に残った。


 クラウディアは最後の最後に転移してきて、何もせずに人界へと帰っていった。最後の離脱希望者を見届けると、丈一たちは天界を去ろうとした。安藤が先陣を切る。

「じ、じゃ。お先に」


 丈一は続こうとしたが、足を止めたリックにぶつかる。


「どうした?リック。行かないのか?」


 リックは両の掌を何か確かめるようにじっと検分していた。シェリーが声をかける。


「リック?」


 リックは何かを悟ると諦めたように笑った。


「わりぃ。俺、ここまでみたいだわ」


 丈一は猛烈に嫌な予感がした。


「リック。お前の持っている盾、形も色も違うようだがそれの能力はなんだ?」


 リックはコンコンと盾を叩きながら答える。


「すげぇ硬さだったろ。こいつは【誓約の盾 B】。自分のたてた誓約を守ることで強さを得られんだ」

 丈一は足音をたてて近づいてくる最悪の事実が眼前にまで迫ってくるのを感じながらも、尋ねずにはいられなかった。


「それで…何を誓約したんだ…?」


 リックはシェリーに謝った。


「すまねぇ。シェリーさん。俺は自分の命を誓約にかけた」


 シェリーはそれを聞いて絶望した。


「おかしいと思ったんだ…。明らかにリックは強すぎた…。そもそも俺が死ななければ…」


 丈一は自責の念に駆られた。丈一はそこで初めて自分の判断の軽率さを呪った。


「リック、あの時言ったじゃないか…。足を引っ張る奴は切り捨てるって…。なんで切り捨ててくれなかったんだ!なんで命を犠牲にしてまで俺を助けたんだ!なんで…なんで…俺は」


「やめてくれ、丈一。これは俺の判断だ。自分を責めるような真似はしないでくれ」


 シェリーがうわ言の様に呟いた。


「また百点をとれば…そうすればいいのね」


 リックはそれを制した。


「それもダメなんだシェリーさん。アウラっていう女と契約して、死ぬときは魂ごとってことになってる

 んだ」


「つまりは蘇生できないってことか?」


「そういうことになる」


 リックの源力が急激に萎びていく。


「おい…。待て…。リック、俺はまだ…。リック!」


 シェリーは震えながらリックの手を握っていた。


「シェリーさん…。ありがとう。こんなバカな俺を最期まで面倒見てくれて。丈一。俺の言いたいことは

 わかるよな?」


 丈一がなんとか言葉を紡ぐ。


「弟のことだな…。任せろ。俺が必ずお前の遺志を引き継ぐ!」


 リックが笑う。



「バカだな!ちげぇよ!」


 リックの体がぼろぼろと崩れていった。


「俺はただお前に…」


 リックはそう言い切る前に塵となって消えた。リックの最後の言葉が分からなかった丈一はその後、それを一生の後悔として引きずることになる。


 呆然自失のままふらふらとゲートに向かって歩き、シェリーは帰還した。丈一は消えたリックの跡をずっと眺めていた。


 それは数時間だったかもしれないし、一瞬だったかもしれない。丈一はただリックの死を悼んでいた。丈一がそうしていると、男のうめき声が聞こえた。


「…お…い…。ガハッ…。ころ…せ」


 それは茶髪の魔人だった。丈一は反射的に刀を取った。相手が死にかけているのを見ると、丈一は魔人に向かって歩き始めた。


 抜刀し、寝転ぶ男に刃を差し込む直前、丈一はこいつを殺すことによって得られるポイントをいつもの癖で計算した。五十五点。丈一は命の重さをそう計ると、ふと自分が何をしているか分からなくなった。こいつを殺す。仲間が死ぬ。敵を殺す。リックが死ぬ。敵を殺す。シェリーが死ぬ。


(俺はそうやって積み上げてきた屍の上で、何に手を伸ばしていたのだろうか。俺は…)


 丈一は刀を降ろした。魔人は丈一の行動を見て睨んだ。


「おい…。何してる…」


 丈一は刀を鞘に戻すと、踵を返した。


「なぜだ!なぜ殺さない!」


 丈一は振り返りもせずに、言い捨てた。


「分からなくなった」


 男が罵る。


「ふざ…けるな!殺せ!俺を殺せ!」


 丈一は両手で耳をふさいだ。そうしないと気が狂いそうだった。怨嗟の声は丈一の脳裏にこびりついた。丈一はゲートをくぐった。

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