第十八話
Aランクミッションが終わってから一週間。丈一たちはつかの間の休息を味わっていた。もちろん訓練はしていたが、長期間のサバイバル生活を終えて、丈一の心を一番癒したのは柔らかい枕だった。
思い返せば、得るものが多かったと丈一は考える。いや、多すぎたともいえるだろう。クラウディア、修二、ポーラの予言は何度も頭を巡ったが、結局考えたところで意味はなかった。
それよりも、丈一は源力操作の技術とAランクの武器を得た。どちらも拙いが日々の訓練で少しずつできることが増えている。
訓練は主にザインとしていたが、ザインとサイレントの強さは集団の中で頭一つ抜けていた。【フォース N】は制限時間付きとはいえ、破格の力をザインにもたらした。
丈一はザインに差をつけられたことをまた悔しがったが、ザインよりも強い奴らを山ほど見てきたせいか、感情に振り回されることはなかった。
リックは愚直に武器の強化の源力操作を鍛えている。身体能力で丈一やザインに勝てないと悟ってから、己の得意を生かすことに決めたようだ。しかし、それでも丈一との差は開いていった。
サイレントは時折訓練に混ざり、【手袋 E】だけで丈一を圧倒した。ザインとの戦いは長引けば、サイレントが勝ち、ザインの【フォース N】発動中はザインには勝てなかった。それから、サイレントは瞑想を取り入れ、源力の質を向上させる事に勤しんでいる。
ウィンクは積極的に訓練に参加しに来た。彼女の【銃 B】と【物質創造 N】の無限弾薬コンボは源力で強化した体を削り取り、致命傷を与える寸前まで丈一たちを追い込んだ。
シェリーは遠隔での回復を修行で手に入れた。その指導にはクラウディアがついた。どこから得たか本人すらもわからない謎知識でシェリーを指導すると、シェリーの回復は応用の効くものとなった。
クラウディアとシェリーは次第に仲を深めていくこととなった。村井は時折、クラウディアとシェリーとお茶会を開くなどのんびり過ごしていたが、ある時から丈一に目をつけられるようになった。
丈一は村井の奇妙さを言語化しようとしていた。
一見するとただの白髪のぼけかけてる爺だが、よくよくみると源力操作が神がかっている。人間は意識しようがしまいが、生きているだけで放出される源力のロスがあるはずなのだが、この爺さんにはそれがない。
それは天性のものなどではなく、長い時間たゆまぬ訓練をして、身も心も武に捧げ切ったものが到達できる境地であると、丈一は分析した。しかし、村井はもともとこの世界の住人で、ミッションに参加したことすらないという。
また丈一が気になっていたのは名前だった。村井壮太という名前は明らかに地球出身者の名前であり、偽名だ。よくよくみればみるほどわからなくなるこの爺さんを周囲の仲間は村井さんだから、と、一括りにしている。
考えてもわからないことを悟った丈一は単刀直入に村井に聞いた。
「爺さん。あんたいったい何者だ?」
「爺さんって僕かい?僕はただの村井壮太だよ」
丈一は真面目な顔をしている村井に埒が明かなくなった。丈一は白刀を抜いた。
「抜けよ。その腰に差してるものは飾りじゃないだろ?」
村井は丈一の白刀に見惚れているようだった。
「ホワイトアウトさん…。そんなところにいたんですね」
丈一はまたもや刀絡みのゴタゴタがあると推察し、今日という日は徹底的に問い詰めようとした。
「って。あれ…ホワイトアウトって何だっけ?」
丈一は村井のボケに追及の手を緩めなかったが、どうやら本当に忘れてしまったらしいことがわかった。
「ええい!切ってしまえばわかる!」
丈一は思考を止めて、斬りかかることにした。すると案の定剣技も達人級であることが判明した。地面に寝転がされた丈一は笑ってしまう。彼の刀捌きに丈一はすっかり魅せられてしまったのだ。
「一体全体何だっていうんだい?急に斬り付けてきて」
丈一は正座で村井に正対した。
「突然の無礼をお許しください。そして弟子にしてください」
丈一は額を地面につけた。
「えぇ!いきなり!?訳が分からないよ…」
それから村井は丈一を立たせようとしたが、丈一は頑として譲らなかった。村井は困り果てて、一つ問いを投げかけることにしてみた。
「丈一君…だよね?君はその、強さとは何だと思う?」
丈一はこの質問が来た時の答えをすでに用意していた。
「はいっ!他人を思いやる心です!」
丈一は修二に強さとは何かを問われた時の模範解答をすでにリックから得ていた。多少嘘つくことにはなるが、まずは懐に入ることが必要だと考えた丈一は白々しい顔で嘘を吐いた。そして村井はその答えを唾棄すべきものとして扱った。
「違うね!ハイ!破門!」
「えぇ!」
丈一は用意していたとっておきが通じないことに驚き、逆に質問した。
「じいさ…ゲフンゲフン。村井さんはなにが強さだと思うんですか?」
「爺さんでいいよ。敬語もいらない」
村井は興味なさげに丈一を見さげると、つよさとは、と言いかけた。
「強さとは、圧倒的な個の力の強さだよ。他人を思いやる心なんてくそくらえだね」
丈一は、修二に言い放った自分の言葉が他者の口からそのまま出てきたことに驚いた。続けて尋ねる。
「その強さを比べあった先にはいったい何があるんですか?」
村井は心底丈一を馬鹿にした様子で答える。
「そんなの一番になった後に考えればいいじゃない。やってもないのにそんなこと考えちゃう君はセンスないよ」
丈一は足早に去ろうとする村井の足にしがみついて言う。
「非礼を許してくれ!爺さん!俺は嘘をついてたんだ!」
「えぇ!今度は嘘!?弟子より前に、君まず人間としてどうかと思うよ!?」
それから紆余曲折ありながらも、丈一は村井の弟子となった。村井の剣術はまさに丈一にとって理想の剣術で、いままで独学でやってきたことのすべてが理論で裏付けされていくようにすら思えた。
村井も丈一も向上心の塊のような存在であったから、一週間寝ることなくぶっ続けで修行が行われることもあった。そして丈一は飛躍的に成長することとなった。修行中、白刀は一言も喋ることはなかった。村井曰、自己修理中らしい。
ある時、村井が丈一に剣術の教え以外で語りかけてきた。
「丈一、君は僕の剣の師匠にすごく似ている。もう顔も思い出せないけどね」
丈一はそれを聞いて喜んだ。
「ということはこのままいけば、俺は爺さんより強くなれるのか?」
村井は意地っ張りな性格で丈一の質問をごまかす。
「まぁ…。それはないとおもうけど…。まっ。若いからねー」
「ってそんなことが言いたいわけじゃない。似てるけど君と師匠には決定的に違うところがある」
「それは…?」
「君の刀は命を軽く見ている。師匠のはもっと命を大切にしてた」
「はっ…?命を大切にって、相手の命を奪うことが剣術では?」
「そうだね。矛盾している。だから君はそのままでいい。理に反することなんて忘れてしまいなさい」
丈一は釈然としないまま村井の話を聞く。
「師匠並みのポテンシャルを持った男を僕の理論で教え込めるんだ。わくわくするね。今までの君は死の
淵に飛び込んで、そこから戻るための技量がなかった。今からの君は死の淵をさらに斬り開いて、もう一歩踏み込む力を得る」
丈一は生唾を飲み込んだ。
「どうだい?きっと楽しいよ」
村井の顔は愉悦で歪んでおり、見るものをおぞましく感じさせる凄みがあった。丈一は喜んで、死神の手解きを得た。
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