第十六話
その瞬間、大きな音を立てて何かが割れる音がした。ポーラが空中に転移して、その音の正体を確かめると、森を包んでいた結界が壊れた音だということが分かった。
瘴気がクエストエリア内に流れ込むと共に新しいボスの強烈な存在感をポーラと修二は感じ取った。修二が指揮する。
「全員、源力で瘴気から身を守れ…!」
「ポーラは…」
修二がそう言いかけたときにはポーラは既にいなかった。
「それでいい…」
結界が破られたことで、千体を超えるであろう妖精たちが森から解き放たれたことになる。リックが状況を理解できずに唖然としていると、修二が一本の刀を無から源力で形成した。
リックは息苦しくなるほどの重圧を群れの奥から感じると、それがボスであると悟った。それは今まで戦った敵の中で一番強いのはもちろん、未来永劫自分がどんな鍛錬をしたところで勝てそうにもない力の差だった。修二は妖精の群れの奥の一点を見つめながら言った。
「百点…。これが人界でのクエストの最高レベルだ…」
ジョンが修二のやろうとしていることを察して、強い口調で言う。
「おいっ!一号!俺はまだ許可してないぞ!」
それをハンマーが制した。
「まったくもってくだらない。ジョン。そいつは役目を果たす時が来たんだ」
「リック、サイレント…。最後の授業だ…」
修二は二人に向かい合うと、体から白いオーラをたなびかせた。リックが言葉を漏らす。
「これはさっきの丈一とは違うのか…?」
「そうだ。これをオーバーフローという…。これを使うと普段の源力が何倍にも増強される…。ただし、これを使ったものは死ぬ…」
「なっ!そんな技つかうなよ!」
「聞け…。俺の役割は元々これなんだ…。クエストの途中で手に負えないモンスターが出てきたときに、俺の命を使ってそのモンスターを倒す…。そのために俺は隼人から蘇らせられた…」
「そんなの奴隷じゃないか!」
「そうだ…。しかし実に合理的な考えだ…。百点を取って自分を強化するよりも、もともと強い奴を復活させる…。そしてその考えは人界中に広まり、今や万屋修二は至る所に存在している…」
リックが驚愕する。
「自分の使い捨てクローンが何体もいるってことか…」
「本体は魔王城の地下で戦っている…。俺はこの狂ったシステムを終わらせようとしている…。君たちには謝っても謝り切れない…」
「何を謝ることがあるんだ?」
「すまない…。ただの自己満足だ…。俺は俺の役目を果たす…。言いたかったのはそれだけだ…」
妖精の群れたちが今まさに世界に向けて飛び立とうとしたとき、その奥から現れたのは、体中に翠の巨大な宝石が埋め込まれて、翠の体表をした少年ほどの背丈のモンスターだった。
妖精たちの翠のヴェールははさみで裁断されたごとく、二つに分かれ、その間を妖精の王がゆっくりと歩いた。そしてその道の先には白いオーラを纏った修二がいた。ハンマーがその様子を見物する。
「さて、ランキング一位の万屋修二。お手並み拝見といったところか」
妖精の王は小手先の技術は使わずシンプルに殴り掛かった。己の源力を最も効率よく使えるのは身体強化だと本能的に理解していたからだ。修二は土埃を上げながらそれを受け止めた。
「疑似スキル【透明化 C】。疑似職業【アサシン B】。疑似魔法【闇属性 C】疑似武器【柊の剣 C】」
修二はあふれ出る源力をそのままにステータスを構築していった。
ステータス【人間】
職業 【アサシン B】
スキル 【透明化 C】
武器 【柊の剣 C】
魔法 【闇属性 C】
修二は透明化し、剣で一気に妖精の王を行動不能にしようとした。しかし妖精の王は敵の姿が見えなくなったことに気が付くと、直感に源力のリソースを割き、修二の攻撃をすべて避けた。
そのまま源力感知の術を覚えた妖精の王は、修二を補足した。大きく振りかぶった拳で修二を殴りつけると、確かに手ごたえがあった。しかし、修二は無傷であった。修二は何人にも分身して、王に迫っていた。
「疑似スキル【分身 C】。疑似職業【セロ弾き E】。疑似魔法【音属性 C】疑似武器【疾風のダガー C】」
ステータス【人間】
職業 【セロ弾き E】
スキル 【分身 C】
武器 【疾風のダガー C】
魔法 【音属性 C】
修二は分身+音属性で王を囲み、反撃は疾風のダガーのスピードアップ効果で避けた。セロ弾きによる音の攻撃は王の源力を着実に減らしていった。
だが王は変幻自在な人間相手に既に活路を見出していた。それは時間と共に敵の源力量が減少している点だった。確かにこの人間は強い。強いが、それは一時的なものに過ぎない。王の力に小細工はない。小細工が過ぎればこの人間はただのサルと同じこと。
王は一時撤退をすることに決めた。反転し、逃げようとした瞬間、ナイフが僅かに体をかすめた。
「疑似武器【欲求のナイフ C】」
一瞬、王のすべての力が消えた。その瞬間を見逃す修二ではなかった。
「疑似武器【エクスカリバー A】」
修二は黄金に光る剣を王に突き刺すと、王は事切れて霧散した。修二が片膝をついて、肩で息をする。立ち上る白いオーラはどんどん凪いできている。リックが駆け寄る。
「修二さん!やったな!」
敵を倒したというのに修二の顔色は暗い。よくよく見れば、修二たちを取り囲む妖精たちはまるで何かを待つかのようにその場にとどまっている。すでに王は死んだというのに。
「この規模のクエストだ…。魔界も相当なポイントを使っているに違いない…。だからこそ予想すべきだった…。王は二人いた…!」
妖精たちのざわめきの中から、体中に翠の巨大な宝石が埋め込まれた、翠の体表をした少女が現れた。その少女は修二の首をもぎ取ると、高らかに笑った。
「今のが、最高戦力であろう?お主らぁ?」
横になっている丈一以外の全員が戦闘態勢を取る。しかし武器を構えているものの中にこの新しい王に勝てるイメージを持っている者はいなかった。それほどまでに絶対的な差が丈一たちと王との間にはあった。王は醜悪な笑みを浮かべて言う。
「今から千の配下を人界に放つ。お主らが万が一、このわしに勝とうとも貴様らの変える場所はすでに蹂躙されておるだろう」
「だからどうした」
丈一が言い放つ。丈一は横になっていた状態から、気力だけで立ち上がり、武器を構えた。
「は?」
「たとえ全人類が滅びようとも、関係ない。これまでも、これからも、俺はただ目の前の敵を殲滅するだけだ」
リックは顔を上げた。そこにはいつもの丈一の顔があった。リックは思わず笑う。
「そうだよなぁ。それでこそ俺が信じた悪魔だよ」
リックがいつものポジション、丈一の左手側を陣取ると、盾を構えた。二人は同時に駆け出した。王はその二人の様子を見ると興がそがれた様子で告げた。
「つまらぬ。お主らは最後に殺してやろう。まずは女子供からだな」
そういうと、王は指を弾いた。するとロッシーの頭部が爆発した。ハンマーが次の最悪の展開を予想して、叫ぶ。
「サラーーー」
クラウディアの前に王が移動する。王が振り上げたその手を振り下ろそうとする。誰もがクラウディアの死を予測したとき、それは現れた。
次元を斬り裂き、そこにあった無から、飛び出してきたのは一人の男だった。その男は自分が出てきた場所があまりにも予想外で、一瞬困惑していた様子だったが、歴戦を感じさせる意識の取り戻し方で、瞬時に敵を見定めると、素早く、いとも簡単に王を斬り裂いた。
男は王を一瞬のうちに絶命させると、その隣にいるクラウディアに気が付いた。状況を理解できていないクラウディアと男は目が合った。その刹那、時が止まったかと思われるほど、二人は見つめ合うことに集中し、その空気は丈一たちにも身動きができなくなるほどの重い空気として伝わった。
男は口を開き、何かを呟こうとした。
「クラウーーー」
男はクラウディアの名前を言おうとして、何かを続けようとして次元の裂け目に飲み込まれた。けたたましい音が鳴り響き、全員がキューブのある広間に転移させられる。森を覆っていた瘴気が一気に解放された。
キューブは宙に浮いたまま映像を投射した。
【生存】
丈一 78点(+30)
リック 12点(+0)
サイレント 0点
ポーラ 221点(+220)
ハンマー 15点(+0)
ジョン 8点(+0)
クラウディア 18点(+0)
【死亡】
ロッシー
万屋修二
100点報酬
死者を復活させる。
新しい力を得る。
元の世界に戻る。
読んでくださりありがとうございます。
「面白い!」と少しでも思ってくれたら↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもお願いします!
よろしくお願いします!