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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第十五話

 翌日、源力操作の実戦形式での訓練が開始された。リックは朝になると傷のことなどとっくに忘れてピンピンしていたため、訓練に参加し、丈一は心なしか嫌がっているサイレントを無理やり連れだした。


「リック。お前は俺の盾なんだ。昨日のような不用意な行動は避けるように」


「丈一に言われたくねぇよ」


「…」


 ポーラは二人のじゃれあいを修二は微笑ましく眺め、言葉を発した。


「三人とも、いつまでも私が見守ってあげられる状況じゃなくなってきてるわ。死にたくなければ一層の努力をすることね」


「もちろんだ」


「押忍っ!」


「…」


 三者三様の答えにポーラは満足した。


「まずは身体強化ね。リックが△、丈一が〇、サイレントが◎といったところかしら」


 リックが苦々しい顔で告げる。


「うへぇ…。△か。まぁ×よりましか」


 ポーラが続ける


「続いて武器の強化は丈一が△、リックが〇、サイレントが◎ね」


 丈一が思わずポーラの進行を止める。


「相変わらずサイレントが強すぎないか?」


 ポーラは満足そうに頷く。


「そうね。この子は下手したら修二よりも源力の取り扱いが上手な可能性があるわ。燃費はまだまだなようだけれど。修二は他者再生できなかったしね」


 サイレントは相変わらず何を考えているか分からない表情を浮かべている。


「…」


 丈一がツッコミを入れる。


「他者再生って傷の回復のことだろ?そんなのAランクスキルの領域じゃないか」


「あら、言わなかったかしら。源力はあらゆる力の源になる力よ。源力を分かりやすく表出させたのがスキルであって、その人の技量によってはスキルを介さずとも、あらゆる力を行使できるのよ」


 丈一は昨晩の戦いを思い出し、圧倒される。


「チートすぎるだろ…」


 ポーラはそんな様子の丈一を見て微笑む。


「安心しなさい。すべての力をスキルなしでできるのは神様だけよ。サイレントだって源力の絶対量は常人と同じだから、源力効率を向上させることが課題らしい課題ね」


 ポーラが纏める。


「全員まずは自分の課題に向き合いなさい。あなたたちは源力の真髄の初歩に立ったばかりよ。これから一生をかけて自分の源力を鍛えていきなさい」


 その後は妖精を前にして三人で格闘を重ねた。倒した妖精は放っておいたら再生していくため、訓練の相手としては最適であった。ポーラは三人に対して容赦のない指導をした。時には、妖精の集団に丈一たちを置いて行ったり、丸一日かけて妖精と戦わせあったりした。


 そして夜にはクラウディアが丈一を訪れては、世界が滅ぶだの、確証が欲しいだの、自分勝手な話を続けた。


 丈一は自分より才能があるサイレントに対する焦りや、修二に認めてもらえていないことへの漠然とした不快感を抱えながら、倒しても倒しきる手段がない丈一にとって一点にもならない敵を倒し続けることへの不満足が丈一の胸中に蓄積していっていた。


 次第に丈一はクラウディアを無視するようになり、いないものとして扱うようになった。クラウディアはそんな丈一の様子を見て失望を隠しきれなくなっていた。どれだけ熱意を込めて説得しても自分の考えを曲げない丈一の頑固さにクラウディアは辟易とし始めていた。


「はっきり言わせてもらう」


 丈一はクラウディアに告げた。


「俺には世界だなんだのにかかわるつもりはないし、かかわっている時間もない。俺は強くなりたいだけだ」


「よって、お前に確証は渡せないし、人質を解放しないというなら無理やり奪い返すのみだ。それが分かったら、もう付き纏うな。もううんざりだ」


 クラウディアは何度目かのそのやり取りに失望しきっていた。


「分かったわ。私もあなたがここまで話の通じない人だとは思わなかった。ミッションが終わり次第、人質は解放するから、あとは自由にしなさい。全部私一人で片づけるわ」


 そう言い切るとクラウディアは丈一に絡みに行くことはなくなった。


 ミッションが経過してから三週間後、森には異様な雰囲気が漂っていた。空を見上げると、翡翠のオーロラが太陽を隠し、森が薄暗くなった。妖精の出現率も上がり、夜も寝ずに全員で夜警に当たることになった。


 ある晩、それは風の停滞した静かな森の中だった。全員で源力を探知していたのにもかかわらず、それに気が付いたのは、足音が聞こえたからだった。全方位から一定のペースで何かが歩いてくる。丈一たちは戦闘態勢を取った。


 そこには以前ポーラを連れ去った男妖精が十体、丈一たちを取り囲んでいた、ポーラは瞬時に丈一たちを広場から転移させたが、どこからともなくまた十体の男妖精が現れ、丈一たちを包囲した。ポーラがため息を吐く。


「はぁ。正念場といったところかしら。修二、この子たちは任せたわよ」


 そういうと、ポーラは十匹纏めて、転移し、どこかに消え去った。


 修二がその場で源力探知をすると、ひときわ強い反応を示す個体が集団に近づいてきていた。


「全員…!来るぞ…!」


 木々をなぎ倒す音と共に二人の男が吹き飛んできた。


「ファック!」


「スマートじゃないねぇ…」


 その二人は初日で別れたハンマーとジョンだった。ジョンは丈一たちに気が付くと、舌打ちをして叫んだ。


「雑魚どもは引っ込んでろ!」


 丈一が刀を構えると、森の奥から女の人型の妖精が出てきた。


「ちまちまと生き残っていた人間が、ようやく出てきたようね」


 全員が戦闘態勢を取る。


「まとめて、おチビたちの餌にしてあげるわ!」


 女妖精が両手をふるうと、轟音と共に風の塊が一同を襲った。修二はクラウディアを守り、リックは丈一たちを守った。轟音が過ぎ去ると、丈一の後ろの木々は滅茶苦茶に倒されていた。リックが冷や汗を流す。


「源力で盾を強化してなかったら死んでたな」


 ジョンが【テイム N】で召喚した背丈が三メートルはありそうな筋骨隆々の鬼男はすでに満身創痍で片膝をついていた。ジョンはそのモンスターを【極楽の鞭 C】で引っぱたくと、モンスターは痛みを忘れて女妖精に向かっていった。


 それに合わせて、ハンマーが身の丈ほどありそうな巨大な戦槌を軽々と持ち上げ、女妖精に向かう。


「【重力操作 N】!重力十倍!」


 女妖精は煩わしそうにハンマーの攻撃を受け止めると、片手で鬼をはじき返した。丈一がその隙を突いて、飛ぶ斬撃を食らわせるが、全く効いている様子はなかった。サイレントも【手袋 E】をつけた拳で一気に肉薄し、女妖精を殴りつけるが、応えている様子はない。この集団で女妖精と戦うには、あまりにも実力が足りていなかった。


 修二はあれを使うべきか迷う。あれを使わなければこのままだとジリ貧のまま負けてしまうだろう。


 その時、丈一はこのミッションでの自分の不甲斐なさを嘆いていた。今までに獲得したポイントはいまだゼロ。源力操作も特段才能があるわけでもなく、自分の才能の限界に直面していた。


 丈一は強くなりたいと願った。強くなって、すべてを蹂躙する圧倒的な力が欲しい。そう願い、修二の言葉を思い出した。Bランクは本来八十まで出力がある。そこで丈一は今まではやってこなかった武器への百の源力投入をやった。すべての源力をつぎ込み叫ぶ。


「うおぉぉぉぉ!!!」


 丈一の雄叫びがあたりを支配した。今まで阻害されてきた刀への源力の流れが、圧倒的源力量で無理やり押し込まれると、刀は丈一の源力で満ち足りた。刀から白いオーラが噴出すると、そのオーラは丈一に纏わりついた。修二が信じられないものを見る目で丈一を見つめる。


「それは…。白刀か…!」


 丈一はあふれ出る源力を暴れさせたまま、女妖精に斬りかかった。女妖精は避けようとするも、足が白いオーラに取られて、移動できない。女妖精は両手でガードを重ねたが、丈一の一刀はガードごと、女妖精の頭を両断した。


「FOOOOOOOOO!!!」


 ジョンの痛快な叫びが丈一たちの勝利の雄叫びだった。丈一は源力を使い切ると前後左右不覚になって、地に臥した。それを見た修二が丈一に駆け寄り、丈一の源力の様子を見る。源力は一時的に膨れあがったものの、今は正常なレベルまで落ち着いている様子だった。修二が丈一に刀を持たせる。


「丈一…。よく聞け…。その刀の名前は白刀…。正式名称はホワイトアウトだ…」


 丈一は意識が混乱していて修二の言っていることが半分も理解できなかった。


「お前は…。勇者因子を継承した…。戦わなくてはならない…」


 丈一は朧げな意識のまま尋ねる。


「戦うって何とだ…?」


「そうだな…。己の運命…。抽象的すぎるな…。言ってしまえば世界と、だ…」


 丈一はそれを聞いて意識を手放した。リックは意識を手放した丈一を背負うと、キューブのある広間に寝かせた。ジョンが興奮気味に丈一の背中を叩く。


「なんだよ!さっきの一撃は!まるで隼人じゃねぇか!名前は、ジョーとかだったな!」


 ハンマーが丈一を見下ろす。


「ふんっ!くだらない。たまたま相手の特性に合う武器を持ってただけさ」


 リックが丈一を起こそうとするジョンを抑えながら、疑問を呈する。


「さっきのが、ボスだろ?なのにミッション全然終わんねえな」


 ロッシーが発言する。


「おそらくポーラさんの戦いがまだ終わっていないのでは?」


 突然現れたポーラがそれを否定する。


「いいえ、私の戦い待ちじゃないわ。これはまさか…」


 修二は肯定する。


「そのまさかだ…。ボスはまだ別にいる…」


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