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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第十四話

 修二は夜になると次第に口数を減らしていった。またリックと修二の夜警の時間になると、修二は突然意識を取り戻した。


「リック…。お前の相棒についてだが…」


 リックは気分よく喋っていたのを中断されて、驚く。


「修二さん。意識が戻ったのか。相棒って丈一のことか?」


「そうだ…。あいつには悪癖がある…」


「悪癖って?」


「あいつは命を軽く捉えすぎている…。このままだとお前ごと死ぬぞ…」


「そんなの百も承知だよ。この世界だとあんくらいぶっ飛んでるほうがちょうどいいんじゃないか?」


「丁度良い訳あるか…。いつだって生き残るのは臆病ものだ…」


「それは分かったけど、それを丈一に直接伝えてやってくれよ」


「無駄だ…。ああいう馬鹿は一度死なないと分からない…」


 納得がいっていない様子のリックに修二は説得するように話しかける。


「リック…。お前は丈一から離れるべきだ…。真に弟のことを考えるならばな…」


 リックは煩悶する。闇の中で二人の視線が交錯する。リックはゆっくりと自分の考えを整理するように言葉を紡いだ。


「俺にとって丈一は---」


 そこに現れたのは丈一だった。


「おっと。やっぱり修二は起きてたんだな」


 ぬらっと刀を抜いた丈一はそのまま修二に襲い掛かった。リックが反射的に盾を出して修二を守ろうとしたが、修二は片手でそれを制すると、二本の指で丈一の刀を抑えた。


「なんのつもりだ…。丈一…」


「見ての通り下剋上だが」


 リックが真面目腐った様子の丈一を見て呆れる。


「いやいや、ホントに何してんだよ…」


 丈一は刀を消し、再形成して再び襲い掛かるも防がれる。修二がため息を吐いた。


「はぁ…。教えを請いたいならちゃんとそう言え…」


「おや、案外素直に応じてくれるんだな」


「野良犬に毎晩じゃれつかれるくらいだったら、俺も餌くらいはやるさ…」


 丈一は予想はしていたが、修二に刃もたたないことがわかると、瞬時に教えを乞うスタイルに切り替えた。リックがその変わり身の早さに呆れを通り越して感心する。


「丈一…。強さとはなんだ…」


「己のやりたいことをやれる能力だ」


「わがままにふるまうこと…それが強さか…」


「そうだ。弱い奴は搾取されるのみ」


「それを比べあってどうなる…。絶対的な強者以外は塵か…?」


「そうだ。それを分かりやすくしているのがこの世界の仕組みじゃないか。絶対的な強者。素晴らしい響きじゃないか」


 修二は二度目のため息を吐いた。


「はぁ…。絶対的強者…。なんてくだらない言葉を使ってしまったのか…。リック、お前にとって強さとはなんだ…?」


 リックは突然向けられた矢印に驚きながらも答える。


「強さ?考えもしなかったな…。まぁ弟を守り切れるだけの力が俺にとっての強さかな」

 修二はそれを聞いて満足すると、丈一に向き合った。


「丈一…。俺とお前では求めるものがまるで違う…。お前の師に俺はなれない…」

 

 丈一はそれを聞いて再び刀を抜く


「そうか。なら…」


「かといって、毎晩じゃれつかれるのも困る…。なので、お前には体験させてやる…」


「ほぅ」


「絶対的強者たるものがなんたるかを…。それもきっと意味はないがな…」


 修二は立ち上がった。丈一は素早く距離をとる。丈一は修二を侮るつもりはなかった。しかし、ポーラが言った修二の強さにいまいち実感が掴めなかった。


 明らかな源力の差、いまなら【怜悧な直感 C】を通して知覚できる力の差は、ジョンやハンマーに比べると、修二とはほとんどないように見えた。侮ってはいない。だが、易々と負けるつもりもなかった。修二が丈一に歩み寄る。


「指一つ…。そのくらいが妥当か…」


 丈一は源力を足に集中させて、常人ではなしえないスピードで斬りかかった。


「速さ任せの上段。破れかぶれの蹴り。避けられたことへの焦り」


 修二は丈一の上段を半身でかわすと、丈一は足に込められた源力のまま修二に蹴りかかった。修二はそれも躱す。丈一の額に汗が浮かんだ。リックが唖然として呟く。


「丈一の行動が完全に見切られてるのか?」


 修二は次に斬りかかる刀の側面を中指で軽くたたくと、攻撃の軌道を捻じ曲げ、丈一の行動を完全にコントロールした。丈一の飛ぶ斬撃はデコピンで破壊され、丈一が肩で息をするようになっても、修二は退屈そうなままだった。


「次はチャンバラごっこでもするか…?」


 修二は落ちていた木の枝を拾った。


「ぐっ。完敗だ…」


 丈一は絞り出すように敗北宣言した。完敗した悔しさよりも、力の差が最後まで理解できないままだったことに対する己への失望のほうが強かった。


 シンプルな戦闘技術の圧倒的な差。それだけではない。修二は源力操作もスキルも使っていないのだ。あと何段積み重ねればそこにたどり着けるかすらわからないまま積み木を重ねるような気分に丈一はなった。修二が告げる。


「お前の師にはなれない…。それでも、キューブの裏技だったり、ある程度の常識は教えてやれんこともない…」


 リックは驚く。


「裏技!?そんなの聞いてないぞ!」


「言ってないからな…」


 丈一が頭を下げた。


「頼む。強くなるためならなんだってする」


 そんな丈一を修二は見下げた。


「強さは手段であって目的ではないんだがな…。まぁいい…」


 丈一は修二の一言を無視して尋ねた。

 

「強い奴は源力量が俺よりも明らかに上なんだ。どうすれば源力量を増やせる?」


「その答えは簡単だ…。百点をとればいい…。百点をとれば源力量は増える…」


「やっぱりそうなのか。なら源力量的に少なくともポーラは二回以上百点をとってるな。となると【転移 B】っていうのも嘘か」


 リックがため息を吐く。


「はぁ。帰るためには百点が必要で、百点をとるためには強くなる必要があって、強くなるためには結局百点が必要なのか」


「そう嘆くな…。簡単に源力量を増やす方法もある…」


 丈一が尋ねた。


「それは一体どういう裏技なんだ?」


「スキルを捨てるんだ…。丈一なら【怜悧な直感 C】。リックなら【ブレイブハート D】を…」


 リックが目を剥いた。


「スキルを捨てる!?」


「あぁ…。感知系のスキル、精神系のスキルはある程度使ったら捨てていい…。無意識のうちに源力のリソースを無駄遣いしている…」


 丈一が反論する。

「だからといって捨てるのはもったいない気がするぞ」


「大丈夫だ…。もうすでに君たちは源力操作の基礎を学んでいる…。スキルの補助輪を外しても、似たようなことがいずれできるようになるはずだ…」


 リックが不承不承といった様子だ。


「あとは、ガチャで捨てたスキルの上位スキルが来る可能性が高くなる…。こっちの効果を狙ってガチャ前にスキルを捨てる者が多いな…」


「なるほどな。帰ってくるなら別に今はいらないか」


 丈一がキューブを操作すると、あっさりとキューブはスキルを捨てるか尋ねてきた。


スキル【怜悧な直感 C】を破棄しますか?

YES/NO


 丈一はYESを選択すると、ステータスを表示した。



ステータス【人間】

職業 なし

スキル なし

武器 【名前を失った刀 B】

魔法 なし



「えっ!丈一、もう捨てたのか?」


「あぁ」


 丈一は源力操作で直感を強化してみた。すると、確かにスキルがなくても、頭がすっきりするような感覚があった。


「えぇー。俺の【ブレイブハート D】が破棄されるのかぁ。俺はいつかこいつが覚醒して無双すると思ってたんだけどな」


「まぁ、別に残しておいても良いが…」


 リックは腹をくくった。


「まぁいいよ。そこまで出番なかったしな!」


スキル【ブレイブハート D】を破棄しますか?

YES/NO


「YESだ」


 リックがステータスを確認すると、確かに【ブレイブハート D】は消えていた。何かがなくなってしまった感覚をリックは強く感じた。


「武器は捨てないのか?」


「物質創造で武器を作るのはコスパが悪い…。それに武器に付随した効果は再現しづらい…」


 そう言いながら、修二は手からシャボン玉を創り出した。


「こんな小さなシャボン玉一つでも、一パーセントは持っていかれる…」


 丈一がそのシャボン玉を割ろうと手で叩くと、シャボン玉は弾力をもって手を押し返した。


「不用意な…。丈一、お前には中途半端な先入観がある…。シャボン玉は安全…。初撃は通りやすい…。自分よりも強い相手でも隙を突けば勝てる…。この世界はお前の持つ勝手な世界観とは大きく乖離しているぞ…」

 

 そう言って修二はシャボン玉を棘で覆う。丈一は言い返さなかった。思い当たる節があったからだ。しかし、丈一はそれを直すつもりはなかった。


 修二の言い分は強者の理論だと考えていた。この世界で弱い自分が強くなるためには常にリスクを取り、ハイリターンを獲得し続ける他にないと丈一は信じていた。


 気まずい沈黙にリックが言葉を発する。


「で、でも、源力ってほんとにすごいんだな」


 リックがそう言っていると、どこからともなくシャボン玉が飛んできた。


「これは…」


 シャボン玉の出所を探すと、そこにはサイレントがいた。丈一が、そのシャボン玉を切ろうとすると、そのシャボン玉は棘を纏って、硬化し、森の奥へと吹き飛ばされた。


「フッ…。俺に勝負を挑もうというのか」


 サイレントは続けて、両足を肩幅まで広げると、ふわりと宙に舞った。修二もそれに合わせて宙に舞う。


 サイレントは人差し指を修二に指し、レーザーを放った。修二はそれに一瞬驚くも、源力を展開した。


「疑似武器【鏡 E】発動…」


 すると、修二の前に鏡が現れて、サイレントのレーザーがはじき返された。サイレントはそれをレーザーで撃ち落とし、もう一度放とうとしたとき、バランスを崩して空から堕ちた。修二は源力の出力を上げてサイレントをキャッチすると、地面に緩やかに落下した。


 修二はサイレントに諭すように言った。


「色々できるからやってみたい気持ちはわかるが、君の場合は【手袋 E】をメインに戦うほうが良いだろう…」


 サイレントは無言を返す。


「…」


 修二は無言のサイレントに戸惑いながらも、続ける。


「君の場合、シャボン玉を作る時の源力のロスがまだ多い…。その分スキルは源力効率が一番良くて、無駄なく源力を力に変換できる…」


 リックがその会話に首を突っ込んだ。


「でもサイレントの手袋はEなんだろ。さっきみたいにレーザーだしたほうが多少効率悪くても良いんじゃないか?」


「Eだから弱いというのは間違っている。あのランク付けの意味は源力の使用量を表しているにすぎない…」


「源力の使用量…?」


「源力量を百とするなら、Aは百、Bは八十、Cは六十、Dは四十、Eは二十まで源力を込めることが可能で、ランクの差は出力の差であると考えていいだろう…。ランクが上がるほど込められる源力に遊びが出始めるから、能力の幅が広がる…」


 丈一はザインやシェリーの出鱈目な能力を思い出して納得した。


「特殊な能力なしで武器の純粋な強さだけなら、二十でもAに匹敵する…。Aも百あるうち二十しか武器の強化ができず、能力に八十使っているということだ…」


 丈一が質問する。


「武器を二つ使ったらどうなるんだ?」


「武器が合体でもしない限り、それぞれ二十だ…。そして俺は一つしか合体する武器を知らない…。残りの八十は空を飛ぶなり、レーザーを放つなり好きにしたらいいが、おすすめは貯蓄だ…。八十を切り崩し、切り崩し戦うだけで君はAの五倍は戦える…。継戦能力は能力は大きな武器だ…。」


「しかしサイレント、君の一番の武器はそのセンスだ…。経験を積み、発想の幅を広げたらいずれ、俺の本体を超える力を発揮できるだろう…それまでは地道な努力をゆめゆめ怠るなよ…」


丈一はそれを聞いてサイレントがドヤ顔しているのが見えた。

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