第十三話
それから、時折近づいてきた妖精を狩りつつ修行の日々は続いた。丈一は源力自体は認識しているものの刀に源力をまとわせることができないままでいた。クラウディアとは険悪な仲のまま、時間だけが過ぎていく中でもどかしい日々が、丈一にとって続いた。
「…なるほど。空気中の水分を使って索敵をするわけですね」
「そうよ。それからあなたの場合は身体強化に源力を回すよりも、新しく水を創り出す方に源力を割いたほうがいいわ。水を使ったアグレッシブな動きができれば、もっと強くなるわよ」
ロッシーはポーラの言葉を一言一句たがわず正確に覚えようとしていた。集団の中でみるみる成長したのはロッシーだった。ポーラの的確なアドバイスと素直な性格が合わさり、飛躍的な成長を遂げていた。
リックは徐々に身体強化を覚えていき、狭い範囲ではあるものの、源力で索敵をすることが可能になった。奴隷一号とサイレントは相変わらず黙りこくっていたが、奴隷一号が敵の接近に反応することが分かってから、リックと組んで夜警をするようになった。
「奴隷一号…。いや、修二さん、あんたはなんでしゃべらないんだ?」
奴隷一号はリックの話などはなから耳に入っていないようだった。
「まっ。喋っても喋らなくても別にいいさ。あんた元々すごい強かったんだろ。ポーラさんとクラウディアの話、聞いちまったんだ」
「俺には弟がいてよ。ニックっていうんだ。リックとニックでバカみたいな名前だろ?親がいないから自分たちでつけたんだ」
「丈一とは今でさえ親友だが、最初のころは目を合わせただけで殴り合いになるくらい仲が悪かったんだぜ」
リックの一人語りに奴隷一号は何の反応も示すことはなかったが、リックは根気強く話しかけ続けた。
イレギュラーが起こったのはミッションが始まってから九日目だった。妖精の別個体と鉢合わせてしまったのだ。
その別個体は人間の男の身体をした体表が緑色の妖精だった。妖精に特有の半透明さがなく、額に翡翠の宝石のようなものを埋め込んだその個体は丈一たちに接見すると真っ先にポーラに狙いを定めて襲い掛かった。
弾丸のようなスピードで背中についている羽をはためかせるとポーラは森の奥へと連れ去られてしまった。残された丈一たちはその日の散策を取りやめ、キューブのある広場へと退却を決めた。
その道中、どの道を通っても妖精とエンカウントしてしまう状況に見舞われた。丈一たちは腹をくくって道を進むと、運の悪いことに四体の妖精とエンカウントをした。
「外れを引いたな…」
妖精たちは一斉に光線をチャージしだした。
「「「「キィィィィィ!」」」」
リックが盾を取り出し、号令をかける。
「全員集まれ!」
「いや逆だ!散らばって避けるんだ!レーザーが集中しないように避けろ!」
レーザーがたまるまでのほんのわずかな間、ただ一人を除いて全員が回避行動をとった。その一人が奴隷一号だった。そしてレーザーが放たれた。
丈一は【怜悧な直感 C】にリソースをすべて割き、辛うじて避けきった。ロッシーはレーザーが放たれた瞬間、大量の水を生成し、自身の体勢を崩すことで無理やり避ける。残り二本のビームはリックと奴隷一号に向かって発射された。
リックは最初盾を構えていたが、奴隷一号が防御行動を取っていないことに気が付くと、一か八かで奴隷一号に飛び込んだ。二本のレーザーは一か所に集中し、リックの盾を貫通すると、リックの体を焼いた。
「ぐぁぁぁ!!!」
リックのうめき声が響く。
「リック!」
丈一は反射的にリックを呼んだが返答はない。妖精たちは二本目のビームをチャージしている。
(まずい!リックがやられたか!?このままだとジリ貧だ!)
丈一は考える。
(一匹でも妖精を倒さなくては!だが、そもそも妖精たちは空を飛んでいて間合いの外だ。それに源力をまとわない俺の刃は通用しない)
丈一はその時、やぶれかぶれに刀を振るった。練習ではできなかった刀に源力をまとわせる技。丈一は刀を自身と隔絶した異物だととらえるのではなく、自身の体の一部としてその時初めて捉えた。
それはこの世界に来てからの丈一のたゆまぬ鍛錬の賜物であった。
「いける!斬撃だ!」
刀から出たのは白い斬撃だった。その斬撃は的確に妖精の実体をとらえ、一匹を仕留めた。虚を突かれた妖精たちが丈一に照準を合わせる前に、丈一は二匹目を飛ぶ斬撃で撃ち落とす。残りの二匹はチャージ時間を短縮したレーザーを丈一に放った。
丈一は無情にも降り注ぐレーザーを前に初めて目を瞑った。その窮地を救ったのは、奴隷一号と呼ばれる男だった。目にもとまらぬ速さで、丈一を抱えレーザーから救い出した。
妖精たちは一瞬の間に獲物を見失い、照準を別に移し替える。移し替えた先はサイレントだった。サイレントに降り注がれたレーザーは彼女を焼き尽くすかのように見えた。しかし、レーザーが消えた先には無傷のサイレントがいた。
サイレントは拳を突き出しており、その拳でレーザーを打ち砕いたようだった。サイレントは末恐ろしい身体能力で妖精の位置まで高く飛びあがると、空を飛ぶ二匹の妖精の頭をポーラのようにねじ切った。ロッシーはパーティーが崩壊しそうになった瞬間でも、着実に己の仕事を果たしていた。
丈一が斬り飛ばした妖精二体を水で覆い、サイレントが両手に持つ頭二つをまとめて一つの水球に押し込んだ。妖精たちがもがき苦しみ消滅するまで見届けると、丈一たちはやっと緊張の糸を解いた。リックは患部をロッシーの水で冷やし、水を纏わせることで手当とした。
奴隷一号は状況を今、初めて認識して、ぽつりと呟いた。
「また生き返ったのか…」
丈一は奴隷一号と意思疎通ができるようになったこと、自身の飛ぶ斬撃のこと、サイレントの隠されていた異常な強さを知り、情報過多になり、軽くめまいがした。奴隷一号がそんな様子の丈一を気遣う。
「いろいろと面倒をかけた…。まずは安全な場所まで移動しよう…」
丈一たちはエンカウントを避けながら、キューブの広間へと退却した。そこにはすでにポーラが待ち構えていた。
「無事だったのか?」
「えぇ。もちろん。あの程度の雑魚に負ける私じゃないわよ」
奴隷一号はポーラを見て、言葉を漏らした。
「ポーラ…。蝶になったんだな...」
「えぇ、修二。年は取りたくないものね。あなたはあの頃のまま」
二人の醸し出す雰囲気に一同は圧倒された。修二の背負っているリックのうめき声だけがその場に残された。
「うぅ。痛てぇよ…」
ポーラが負傷したリックに気が付き、手を患部に当てる。失われた皮膚が徐々に再生していくが完治とまではいかなかった。
「私の他者再生の技術だとこの程度ね。あとはロッシーに任せたほうがいいでしょう」
「了解しました」
丈一はサイレントに話しかけた。
「サイレント。お前めちゃくちゃ強いじゃないか」
サイレントは無言を貫き通す。
「…」
「まぁいい。また力を貸してくれ」
サイレントは分かるか分からないかくらいの頷きを丈一に返した。丈一は先ほどの感覚を忘れないうちに、もう一度刀に源力を通してみた。すると刀は白いオーラを出した。ポーラはそれを見ると満足そうにうなずいた。
「どうやらその刀の潜在能力を引き出す形で源力を扱っているようね。補助輪ありで成功といったところかしら。あとは修二に教えてもらいなさい」
修二が丈一の刀に目を奪われる。
「それが、一日で正気を保っていられる時間はそれほどないようだ…。しかしその刀…。もしや…。いやそんなわけないか…」
丈一がなんとなしにポーラに尋ねた。
「修二はどれくらい強いんだ?あまり力の差を感じないんだが」
「当然私より強いわよ。なんてったって-------」
「よしてくれ…。今の俺にはそんな力はない」
「でもあれを使えばまた戻れるんでしょう?」
「まぁ、それが俺の役割だからな…。」
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