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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第十話

 丈一は混濁した意識の中でリックに肩を支えられて暫くたつまで、状況が理解できなかった。 


 ザインはボロボロの身体で、シェリーの治療を待つ前に自分で回復魔法をかけていた。丈一たちは集会所に集まり、いつにもまして静かな村で黙って座っていた。


 ザインがシェリーが何時まで経っても来ないことに痺れを切らして、集会所を出ようとしたとき、安藤が顔を真っ青にして、集会所に転がり込んだ。


「いない…」


「は?」


「シ、シェリーとランドルフがいない」


 ザインが苛立たし気に安藤に詰め寄る。


「いないって…どういうことだ!」


「や、やられたんだ!こっちが転移した隙に向こうもこっちに攻め込んできたんだ。そしてそのままシェリー

とランドルフは連れ去られて…」


「連れ去られてどうなるんだ!」


 リックが言った。


「わ、分からない…」


 安藤が肩を落として、そう告げた。丈一が刀を持って安藤に尋ねる。


「敵がこちらに転移してくる可能性は?」


「そ、それはない。キューブにはプロテクトを掛けたからこちらの許可のない転移はできないようにした」


「そうか…」


 ザインが椅子を蹴り飛ばした。


「くそっ!」


 丈一は未知の敵に対して完敗した事実を認めた。主力であるザイン、丈一、リックはたった敵1人に抑えられ、命辛々生き延びたと思ったら、その隙に仲間二人が攫われた。ザインは心底不愉快な様子で吐き捨てた。


「俺の判断ミスだ」


 安藤が鬼気迫る表情で【パソコン E】を叩き、敵の情報を画面に表示させていた。

 

「じ、ジョン・F・ケネディ。さっきの黒人の男の情報だね。総獲得ポイントは102点。100点プレイヤーだ」


 リックは唖然とする。


「100点で新しい力を得たのか」


「ち、力の内容は【テイム N】。自分で決めた能力みたい。能力は自分がとどめを刺したモンスターを召喚し操る能力だ。あとは【極楽の鞭 C】を所持している」


 丈一が驚きの声を上げた。

「あれがNなのか」


「あれがNなのか、じゃないぞ丈一。あの女は誰だ」


 ザインが人差し指で机をたたきながら、丈一に詰問する。


「知らん」


 丈一が短く答えると、安藤がパソコンに画面を表示させた。


「サラ、総獲得ポイントは12点。スキルが【■%△₀ S】?なんだこのスキルは?プロテクトがかかっているのか」


 安藤がパソコンを叩き続けたが、それ以上の情報を得ることはできなかった。


「そもそもなんでこんなことになったんだ?」


 リックが頭を抱える。安藤が淡々と答えた。


「僕がキューブを使って発信してたんだ。他のコミュニティがいる場合協力できるように呼びかけてたんだけど、まんまとやられたね」


「怪しいのは百も承知で突っ込んだんだ。結果は最悪だったが、プラスに考えれば4人は生き残ることができた。最悪俺が死んでも安藤がいればこのグループは続いている」


 ザインが続ける。


「それよりもだ。丈一、クラウディアだか、サラだか知らないがあの女はお前のことを知ってたみたいだぞ」


 ザインが眉を顰める。言葉の端々から丈一に対する不信感を隠せていないようだった。


「いやだから知らん。向こうはどうやら俺らと同等かそれ以上のキューブ操作ができるんだろ。だからまんまと留守を襲われたし、俺の情報だって抜かれたんじゃないのか」


 ザインが机をたたく。


「なんでお前の情報だけ抜かれるんだ!お前が裏であの女と繋がっているんだろ!」


「俺以外は言及されなかっただけだろ。疑うなら追放でもなんでも好きにすればいい」


 丈一は興味なさげにザインを見たが、その視線はひどくザインの癪に障った。


「あぁ!追放だ!出てけ!」

 

 丈一は席を立ち、外に出ようとする。リックがそれを見て必死に止めようとする。


「待ってくれ!ザインさん!丈一さんは頭のネジが飛んでる変な奴だが、不義理はしない奴なんだ!」


 丈一がリックの物言いに思わず呆れる。


「リック、俺のネジは飛んでないが…」


 ザインが被せて言う。


「リック。お前の盾は丈一にこだわる必要はない。これからは俺と安藤の盾となってくれ」


 リックが強く反発する。


「そういうわけにはいかないだろ!それに丈一さん!今一人になってシェリーさんはどうするんだ!?」


 丈一が頷いた。


「無論、助ける。ランドルフはただのおっさんだが、シェリーは仲間だ。リック、どうしたいかはお前の好きにしろ」


 リックは僅かに悩んだが、初めから答えを決めていたかのように堂々と答えた。


「俺の捧げた魂は一つだ!俺が信じた悪魔は丈一さんだけだ」


 ザインはそのリックの様子を見て、愕然とした。丈一が小さくつぶやいた。


「丈一でいい」


「え?」


「呼び方だ。丈一でいい」

 リックは予想外の言葉に驚いたが、破顔して笑った。リックは丈一の右手を無理やり掴み、告げた。


「これからもよろしくな!丈一!」


 丈一は億劫そうに生返事を返した。


「あぁ」


 言葉を失ってるザインを見かねた安藤が場を取り仕切った。


「じ、丈一が黒か白かは置いといて、戦力を分けるのはあり得ないよ。僕たちの目的は仲間の救出で一致している。ザイン、今は感情的になってる時じゃないだろ」


 ザインは舌打ちをして、頭を掻いた。


「分かった。全員倒して全部吐かせれば良いだけだな」


 安藤がパソコンをキューブに接続して画面を表示した。


「み、皆、聞いてくれ。僕たちは強くならなければならない」


 安藤は4人の点数を並べた。



【ポイント】

ザイン 83点

丈一 48点

安藤 35点

リック 12点



「と、取りうる選択肢は二つ。一つは個々の力の強化だ。ザインは残り17点。あと一回のミッションで新しい力を得ることができる。丈一は上手くいけば後二回で新しい力だが、流石にそこまでは待ってられない」


 リックが口をはさむ。


「丈一か、安藤さんがザインに得点を譲渡するのはどうだ?」


 ザインはその提案を聞いてすぐに却下する。


「安藤からポイントを搾取するのは駄目だ。優先順位を間違えるな。逆なら検討してもいい」


「逆ってことは安藤さんに100点を集めるってことか?」


 安藤が首をふる。


「い、今更僕を強化しても単純な暴力には敵わないだろう。ザインを強化すべきだ」


「だから、駄目だ。俺が死んだ時に安藤のポイントを無駄にすることになる」


「じゃあ丈一のポイントを使うのはどうだ?」


「もちろん断る。ただでやるつもりはない」


「だよな…」


 議論が煮詰まっていく。安藤が手を叩いた。


「み、みんな、まだ僕の話の途中だよ。選択肢はまだもう一つある、それは新しい仲間を集めることだ」


 リックが首を傾げた。


「新しい仲間…?」


「そ、そう!僕たち以外のコミュニティを探すんだ。そこと同盟を組んでシェリーとランドルフを助ける」

ザインは訝し気に尋ねる。


「当てはあるのか?」


「あ、あぁ。さっきあいつらのキューブに接続できたから、二つのキューブを使って他のキューブの位置を測定できるようになった」


「場所は?」


「こ、ここから西の方向にある。砂漠とはかなり距離が離れてるから、同じグループではないと思うよ」


 ザインが議論をまとめた。


「よし!そいつらには俺が100点取ったら接見する。さっきの二の舞になったら話にならんからな。安藤はキューブの解析を、丈一とリックは次のミッションで可能な限りポイントを稼いでくれ。俺はしばらく回復に努めることになるだろう。シェリーとランドルフの無事を祈りつつ、全員最善の行動をとろう。意見のあるやつはいるか?」


 ザインの問いかけに手を挙げる者はいなかった。


「じゃあ解散だ」


 ザインがそういうとリックと丈一は外に出た。二人は互いに無言で摸擬戦の準備を始めた。仲間を奪われたこと、新しい敵に手も足もでなかったこと、それらは丈一とリックを突き動かす要因となった。

 

 しかしいくら焦ってもミッションが来るペースは早まらなかった。ミッションは前回と同じだけの期間が経つのをじっくりと待ち、丈一とリックを焦らした。


 そして、真昼間に丈一とリックは満を持して呼び出された。

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