第32話 授業に幸あれ!
最悪だ、俺としたことが物理の教科書を忘れてしまった。
これは見せてもらうしかないよな。隣の席は女子だけど。
「あの〜、教科書」
「忘れたの?慎也くん」
「……はい」
そして、女子は俺の机とくっつける。
はあ、何で忘れたんだろ。
そういや、初めて話した女子だよな。
未来……見なくていいか。来年までは彼女禁止なんだし。
ん、なんか後ろからこの後叩くぞという視線を感じる。
「んじゃ、そこの問題を去井と本坂、そして三重だ」
何故、俺。俺は黒板を見る。あ、今日、日直だったのか。
だが、なぜ斜めであてるんだ。本坂は良いとして、三重?とか言う人は可哀想だな。
ええと、ここの法則を使うとこうなるから、
「3≦a≦8です」
完璧だ。
「よし、不正解だ」
「な!」
教室から笑いがでる。ふざけるな。
どう見ても、法則使ったらそうなるはずだ。
「次、本坂」
「はい、±2です」
「よし、正解だ」
何でだよ!あれ5じゃないのか?
「続いて、三重」
「はい、5kWです」
「よし、不正解だ」
三重さんには悪いけど、良かった、俺以外に不正解者がいて。
「教科書の答え見せてくれない?」
「え、あ、いいけど……」
また視線が痛い。けれど、今回のはやばい気がする。
今にも俺を殺しそうな目線。
叩くとは次元が違いすぎる。
そして、授業が終わり、HRも終わる。
部室に俺は向かった。廃部とかまずいので。
本坂が普通にいるが、機嫌は良くなさそうである。
本坂の機嫌には1、2、3の3段階の機嫌度がある。
1がいちばん悪い。そして、今がその状態だ。
「去井くん、教科書わざと忘れたんでしょ!」
声がでかい。後キレすぎじゃない?俺も人間だぞ。
「そんなわけないでしょ、まあ出来るなら仲良い人に見せてもらいたかったけどね」
「ふうん、そうなんだね!やっぱデレてんだね」
え、俺おかしいこと言った?
「いや、俺的に本坂さんとの方が良かったって言ってるわけで……」
「へ、ありがとう」
お礼言う必要は無いと思う。
「けど、デレはダメだよ!」
だからデレてないっての。
「本坂さんに彼女禁止令されてるんだからデレない」
「去井くん、そういやそうだったね」
こいつ、忘れてたのか。
「あ、去井くんコーラいる?」
「え、いらないけど」
「受け取って!」
本坂は俺にコーラを投げる。おい、扱いは大事にしろと習わなかったか?
「あれ、冷えてる」
「去井くんの為に冷やしたんだよ」
俺の為に?
「あ、ありがとう」
「ねえ、去井くん」
「何?」
「正月空いてる?」
いきなり話が替わった。
「正月?」
今年は実家の人達がこっち来るとか言ってたからな。
あ、けど元旦は家族と初詣行くんだよな。
「2日以降なら空いてる」
「わあ、じゃあ、3日にだけど、神社どうしようか」
「あ、ここでいいんじゃない」
俺はスマホで探し、指を差す。
本坂は俺の指が邪魔で見えないと言い、俺の手をどかす。
「ここでいいね」
よかった、了承してくれた。
「雫さんも誘う?」
「去井くん、私不機嫌になるよ?」
既になっていただろ。
「分かったよ、誘わない」
よかったわ、今本人いなくて。可哀想だけど。
「じゃあ、帰ろっか」
「あ、うん」
……本坂、酒谷と同じ大学行ってしまうのか。
我ながら、本坂の誕生日に恋を自覚したの残念だったかもしれない。
そして、雨がポツリと降ってくる。
「冷た」
俺は折りたたみ傘を持っている。 本坂は持っているのだろうか。
あ、普通に持ってる。
「雨降っちゃったね」
「あのさ、何で隣で歩いてるの?」
「去井くんじゃ分からないから答えない」
酷い。
「え、もしかして彼氏作った?」
「そんなわけないでしょ!去井くんに禁止してる以上私もするの」
まあ、その禁止令そろそろ解けるんだがな。
「神社で色々とやるつもりだし」
色々ってなんだ?頼むから問題行動は起こすなよ?
「あ、去井くんコンビニ入ろ?」
「いいけど、何買うの?」
「え、コーラ10本とポテチ2袋だけど…普通でしょ?」
普通ではない。せめて等倍にしろ。
「いらっしゃいませ〜……あ、見良君!」
「え、南島さん?」
何で幼馴染がここで働いているんだ?
「去井くん知ってるの?」
「去井?この人は見良でなくて?」
あ、俺名前変えたんだよな。
「あ、名前変えたんだよね」
「へえ、案外気に入ってたんだけどね」
「ほお、気に入れられていた」
まずい、本坂が俺を殺る目線で。
「本坂さん、と、とりあえず買ってきたら?」
「そうする」
そして、南島さんが俺に話しかける。
「彼女?」
「いや、違う……そもそも禁止されてるし」
「案外厳しいんだね、見良君の家って」
俺の家では禁止されていない、本坂に禁止されているのだ。今年は。
「はい、お会計」
「あ、はい、お会計5835円になります」
そして本坂はお金を出す。
「ありがとうございました〜」
「去井くん、いくよ」
「あ、うん」
雨か。傘をさして帰るか。
歩いている途中本坂は傘を閉じ、俺の中へ入ってくる。
「え、傘あったよね?」
「あったよ?けど不機嫌だから」
本坂は俺に肩をぶつけてくる。
相合傘……俺は理解できない。傘があるなら使えばいいのに。
本坂満帆日記―彼の幼馴染
私は△君の幼馴染に会ってしまいました。
デレているように見えました。
私はムスッとします。
なので、帰りは傘を閉じ彼の所へ入りました。
私の彼氏作り禁止期間、そして彼の彼女作り禁止の有効期限はもうすぐ無くなる。




