第14話 卒業式に幸あれ!
3月1日は卒業式だ。生徒会選は信任投票なので、
なかなかにつまらなかった。
先輩達が卒業らしいが、俺は生徒会長と羽山元部長しか知らない。
一応未来は見とくか。最近は見てないし。
「ねえねえ、去井くん」
未来を見せさせてくれない元凶、本坂満帆が服を引っ張ってくる。
「え、なに?」
「先輩何人ぐらい知ってる?」
さっき話したような気がするが、まあいいだろう。こいつの為だ。
「俺は2人ぐらいかな、知ってるなら」
「え、そんなにいるの?」
え、何その反応。しょんぼりしてる本坂。
「私……」
その反応は……やめろ!言わなくていい!
「あ、大丈夫だよ」
「そうだよね!ね!」
忘れていた。こいつが負けヒロインということを。
ずっと幼馴染に費やしていたことだろうか、先輩を知らないのは無理もない。
俺も会わなかったら0人だったし。
「卒業生起立!」
「在校生起立!」
「礼!着席」
校長の話は長いんだよな。
ふと後ろを見る。本坂は寝て……はいなかった。
床を見て何してんだ?こいつ。
「満ちゃん何見てるの?」
「ここの床削ってさ、ミキサーに入れればカフェラテの完成だと思うんだけど」
「へ、へえ……」
ドン引きしてる。そりゃそうだよな。
後この床カフェラテよりコーヒーに近いだろ。
「満帆、飲み物いる?」
「それなら大丈夫だよ」
俺に左目ウインクを送る本坂。
……よし今日からお金返済してもらおう。
「在校生代表 去井慎也」
「卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます、これからも様々なことがありますが、頑張ってください」
話しかけなくても未来見えるか、試してみるか。
ええと、あの子にしよう。未来を!
「嫌だ、きもい」
……未来見えるけど、なんか嫌だな。
卒業式が終わり、HRも終わった。
屋上を見上げると男子1人と女子1人が並んでいた。
「待って、気分上がりそう」
俺の後ろから女子の声が聞こえる。
その正体は本坂満帆、実質クラスメイトであり、友達だ。
「本坂さん、何してるの?」
「何してるって見ればわかるでしょ、去井くんも見てるなら、屋上……つまり?」
「つまりというより話しているだけでは?」
「何でそうなるの、告白でしょ!告白」
なるほど、告白か。
……見て大丈夫か?お前負けヒロインだろ。
「え、本坂さん見て精神おかしくならない?」
「はい?私だってそこまで異常をきたしませんけど!」
なら良かった。
けどここから聞こえないしな、未来を見れれば声を聞こえるんだが、あまりにも遠すぎる。
「ねえ、屋上のドアの近くまで行かない?」
「え、大丈夫?」
「大丈夫だって」
さすがに悲しくなりそうだし、やめさせよう。
「よし、飲み物だね、買いに行こう」
「え、ちょ、ちょっと」
本坂の手を引っ張ること数分。
「ねえ!いつになったら離すの?」
え?俺てなんて繋いでいたっけ。
手に視線を向けると明らかに繋いでいる。
「あ、謝るべき?」
手を引っ張て離さなかったのかよ、俺。
「別に謝るほどじゃないと思うけど」
大声で『ねえ!』と言ってたじゃないか。
「"ああ”あ”」
「「ひ!」」
俺と本坂が同時に驚き、1人の男に視線を向ける。
1人の男……それは羽山部長である。
「は、羽山部長どうしたんですか?そこで泣いて」
「振られた」
即答。
なんという事だ、負けヒロインと負け主人公に遭遇してしまった。
「告白した人と何年ぐらいいたんですか?」
「「12年ぐらい?」」
本坂、お前には聞いていない。お前12年も費やしてたのか。
羽山部長一体なんて言ったか気になるな。
「羽山部長、なんて言ったんですか?」
「虫好きだよね?はい、カメムシと」
…………どういう方かは知らんが、羽山部長に勝ち目はないです。
「え、誰に告白したんですか?」
「生徒会長だけど?」
ああ、あの虫好きな人か。相性は良さそうなのに?
まあ今の生徒会長に告ってるならば、話は別だが。
「生徒会長ってどっちのですか?」
「ええと、たまに園芸部に来てた人」
名前覚えてないみたい。うん、それなら貴方の負けです。
てか12年もいたのに名前覚えてないの?
「羽山部長ですか?なら教えてあげましょう」
「あなたはたしか新入部員の本坂満帆さんだっけ?」
部員の名前覚えれるなら、生徒会長の名前も覚えましょう。
「いいですか、付き合えば幸せになれます。」
「付き合えてないけど……」
「そして、あなたにも5秒ずつ幸が訪れるでしょう」
「あ、ありがとうございます!女神様」
羽山部長に何があったんだ?よく分からない。
「本坂さん、同志が増えて嬉しいの?」
「何言ってるの?そんな訳ないでしょ、フフ」
あー最低だな、こいつ。後なぜ『負けたあなたに栄養ドリンク』略して負けドリンク持ってんだよ。
商品名煽り満載やな。
「羽山部長、なんか飲みます?」
「後輩なのにいいのか?」
「どうぞ、あ、本坂さんは後で払ってね」
「え」
「冗談だよ」
俺は笑顔で言った。
負け主人公見たのは実話です。
さすがに卒業式ではありませんけど。




