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お嬢様に従いなさいっ!

作者: 相模 怜

もし一つだけ何でも願いが叶うとしたら、あなたは何をお願いする?

お金?

楽な暮らし?

名誉?

権力?

それとも永遠の命?


でも私だったら、そのどれもない。

だって全部持っているから。

あ、いや、さすがに永遠の命なんて持ってないわよ?

私だって人間だもん。そんな漫画みたいな設定なんてもっていない。


それに空を飛びたいとか、便利な猫型ロボットが欲しいとか高望も言わないしね。

私って、お金持ちだけど謙虚なのよ?

ただどんなにお金があっても、どんなに裕福な暮らしが出来ても、私には一つだけ手に入らないものがある。

その望み意外だったら大抵のことは叶えてくれるのに、ケチよね。


そして悔しいことに私の周りの人は、お金持ちじゃなくても私の欲しいものをもっている。

私が一番欲しいものを。

でも周りの人達は、当たり前のように私のことを羨ましがるの。

お金持ちって羨ましいわ、って。

私にはそっちの方が羨ましいってーの。ふざけんじゃねーよっ!

……こほんっ、失礼。言葉が乱れてしまいましたわ。


とにかく、私の欲しいものはただ一つ。

お金でも名誉でも権力でも永遠の命でもなく。



お父様とずっと一緒にいること!



……あ、今笑ったわね?何このファザコン、って思ったでしょ。

いいわよ別に。

ファザコンと言われようが子供と言われようが、私の願いは何一つ変わらない。

だって、お父様のことが好きなんですもの。


小さい頃お母様を亡くした一人っ子の私にとって、お父様が唯一の家族だし。

この十七年間、ずっと育ててくれた恩義もある。

もちろんそれだけじゃないけど、私はお父様のことが家族として大好きなの。


だというのに。

だというのに、その願いだけは叶えてくれないのよ。

ずっとと言ったって、私としては大好きなお父様と一緒にちょっとお茶会をしたり、夕食ぐらいは一緒に食べたりしたいだけなのよ。

お父様が忙しい身だということは分かっているから、別に毎日やって欲しいなんて我儘言わないし。

ただ一ヶ月に一度くらいはそういう日があってもいいと思うのよね。



でもお父様はお母様が亡くなってからは、そういうことをいっさいやらなくなったらしい。

私のお茶会や話し相手や遊び相手は、全部執事やメイドにまかせっきり。

朝食も昼食も夕食も私はいつも一人で淋しく食べているし、一日の中でお父様の顔が見れる日なんて皆無といっても過言じゃない。


お母様が亡くなったのが私が二歳の時だったらしいから、…約十五年間はほったらかしにされてるってことね。

二歳の時の記憶なんてほとんど残ってないから、本当なら顔を忘れたっておかしくないくらいなのに。

まぁもちろん、私はお父様の写真は常に携帯しているから、顔を忘れるなんてことは絶対に無いけれど。


でも、でもねぇ…。

それで淋しくないわけ無いじゃない。

写真を持っているからって、会いたくないわけ無いじゃない!


写真の中のお父様は娘の私だって絶賛の美形で、もう四十歳になるというのにそんなふうには全然見えないくらい若く見える。

そーね、二十歳後半くらいかな。

でもそれは別に二十代の時の写真というわけではなく、メイドのゆいに隠し撮りさせた正真正銘今のもの。

夜色の髪に、同じく夜色の瞳。隠し撮りだから目線は合ってないけど、それでも見劣りしないくらいかっこいい。


私は栗色の髪に栗色の瞳だから、ちょっと羨ましい。

あーあ、私もお父様とおそろいの夜色がよかったなぁ。

顔の造形もお父様に似ている所よりも、似てない所の方が多いし。

ゆいが言うには私はお母様に似ているらしいんだけど、頼んでもらっても写真を見せてもらえないから私には分からない。



ごくたま―にお父様が家にいる時があっても、私は絶対に部屋に入れてもらえない。

理由は“忙しいから”。

そう言われたら引き下がるしかないけれど、私は時々自分が嫌われているんじゃないかと、不安になる。

だって忙しいんだとしても、ここまで私を避けることないじゃないか。


どれだけ贅沢出来たって、どれだけ執事が(かしず)いたって、家族が一緒にいれないんじゃ意味ないじゃない。

お父様が一緒にいなきゃ意味ないのよ。




ねぇ、お父様。

これって、贅沢な願いですか?













****













お嬢様である私の朝は、優雅に紅茶を入れてもらうことから始まる。



「お嬢様!起きて下さいっ!朝ですよ!!早くしないと遅刻してしまいますっ!!」



……というのは夢のまた夢。

乱暴な手つきで声の主が掛け布団をひっぺがしにかかって来る。

今はまだ秋とはいえ、朝方は少し肌寒くなってきている。私は掛け布団を取られまいと、引っ張り返して応戦した。

しかし悲しいかな力の差で、あっけなく掛け布団ははぎ取られた。



「なにすんの~……さむいでしょ~」


「何すんのじゃありません!学校に遅刻してしまいますよ!いいかげん自分一人で起きれるようになって下さいよ。まったく……」



そう言って溜め息をつきながら呼び鈴でメイドを呼ぶ声の主。

……まったく。お嬢様の起こし方ってものを分かってないわね。

お嬢様の朝っていうのは、まず一杯の紅茶から始まるものだってのに。

朝の暖かな陽ざしに、湯気の立つ美味しい紅茶。優雅で綺麗なお嬢様に傅く執事…。

穏やかに流れる時間に穏やかな日々。毎日がゆっくりと過ぎていって………



「二度寝しない!!」



容赦なく枕で叩かれて、もう一度夢の中へ旅立とうとしていた私の意識は現実に引き戻される。


羽毛の枕とはいえ主を叩くとは何事かしら!?この乱暴執事は!


そう思ってのっそりと起きあがり睨みつけてやるが、まったくきいた様子はなく逆に睨み返されてしまった。

黒い髪を適当に伸ばしているのに、綺麗な顔をしているからそれがまったく悪く見えない美形な容姿。

普通執事といえば主の前ではきちっとするものなのに、彼にはそれをする気がないのかいつもそのままだ。

赤銅色に見える瞳は、最初はカラーコンタクトか何かだと思っていたが、どうやら違うらしい。

だいたいいつも眉間にしわを寄せているこの男は、一様敬語を使ってはいるが敬うということを私に対してする気がないらしい。顔を合わせればにこりともせずに小言ばかり言うし、何より主である私の扱いがなっていない。


もしかしして私への当て付けか何かなのかしら?


私はお金持ちのお嬢様なので、庶民から見れば憧れの対象だ。

だからもちろん嫉妬や妬み、逆恨みなんかはしょっちゅうある。もう、うんざりするぐらい。



「ちょっと、もうちょっと丁寧にとかしてよ!」


「はいはい」



髪をとかされながら彼の用意した紅茶をすする。

ストレートが自慢な栗色の髪はそんなに絡まったりしないが、あんまりにも乱暴にとかされたら痛い。

髪の色は好きではないけれど、主の髪なのだ。もっと丁寧に扱ってほしい。

毎回のことと言えど、もうちょっと何とかならないのだろうか、この男の乱暴さは。



「……ひじりって主ってものの扱い方が分かってないと思うのよね。どうして私、あなたを雇ってしまったのかしら。う~ん疑問だわ」



私がそうつぶやくと、聖はおもいっきり顔をしかめた。



「馬鹿なこと考えてないで、早く服を着ちゃって下さい。――あ、朝食は私が用意するので佐藤さんはお嬢様を学校に行ける状態にお願いします」



前半は私に、後半はさっき呼ばれて丁度入ってきた私の世話係のメイドに言い、聖は私の部屋を頭も下げずに出ていった。

良くいえばきびきびと、悪くいえばずさんに。

半年前に私の執事となった藍沢聖はそういう執事だった。



「それではお嬢様。制服に着替えてしまいましょうか」



穏やかに微笑んで私の世話係、佐藤ゆいは私に学校の制服を手渡す。

私は一瞬考えてから、素直にそれに従った。



ひとまず、聖の処遇は保留ということで。






息抜きの短編です。多分続きません。

作者の気が向いたら、絵の方では描くかもしれません。

もしよかったら、どうぞ。


絵の置き場→http://692.mitemin.net/

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― 新着の感想 ―
[一言]  ファザコンかよっwwwwwwwwwwww  聖の立ち位置は美味しいなぁ…フラグ立ってるというか。金持ちって自覚してる当たり使用人との壁はまだまだありそう。つまりは格差を理解してるって事だし…
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