双子の同期達:2
ハイゼルフィッツ公爵家は処刑人の血筋だ。それは今でも続く家業であり、血の匂いも死臭も幼い頃から触れて来たものである。
処刑人というのは、ただ罪人の処刑を行うだけではない。牢の管理や監視、肉体的な刑罰の実行、時には拷問までも手掛ける。そういった業務を受け継ぐうち、人間の体に詳しくなっていくのは自然な事だった。
どこを打てば痛みを感じるか。どこを外せば動けなくなるか。どこを切れば死に至るか。経験は知恵となり、知識となる。時には罪人の体を使った研究も行い、確かな知識として精錬されたそれを以て、ハイゼルフィッツは医学の権威となった。
壊せるならば、直せなければならない。人体を壊す術を理解するのであれば、人体を癒す術も理解せよ。ハイゼルフィッツの子供達はそう言われて育つ。血の匂いに慣れ、悲鳴に慣れ、肉を壊す感覚に慣れる。それと同時に薬の匂いに慣れ、喘鳴に慣れ、肉を縫う感覚に慣れる。そういう教育が当たり前の家だ。
カトレアはそんな家に長子であり長女として生を受けた。教育を全てこなし、弟妹達の模範となる姿を崩さずに育つ。それを誇りとして生きてきた。壊す術も治す術も理解したカトレアが十二になった時、両親は一つ問いかけた。
「どちらが性に合った?」
壊す方と、治す方。ハイゼルフィッツ公爵家の二つの家業。カトレアはどちらもきちんと吸収した。どちらに向かわせても困らない、であれば子供の意思を尊重しようと言ってくれる。それは両親の愛だった。
「治療の方が性に合います。……私は少し、情に弱いですから」
処刑人の仕事も、既に何件か手伝った事がある。出来ないとは思わない。ただ、向いてはいないなと思った。冷静に処刑人をこなし続けるには、カトレアは少し精神力が足りない。選べるならば医者の道を選びたい。
分かった、と頷いた両親によって、カトレアは本格的に医術を学ぶ環境を用意してもらえた。処刑人の方はすぐ下の弟がかなり適性が高いから、と任せている。勿論そちら方面に関わりが無くなったわけではないが、主には医術に気を向けていられた。
実際の患者を治療しながら経験と知識を積み重ねていく。そうして十六を迎える頃には、王国の中で名が知れる程度の腕にはなった。そして一つ目標が出来たのもその頃だった。
この技術を、もっと広く普及させたい。ハイゼルフィッツの技術は家の中で受け継がれたもので、それを外部に向けて教える機会はほぼ無い。ハイゼルフィッツが運営している治療院で雇う人達には伝わるが、広く教える学校は持っていないのだ。
学校の設立を考えた事もあるが、維持費や土地の確保、そもそも専門の医者になりたい人間の数が多くない事を考えると現実的ではない。であれば、騎士団や魔術師団の治療部門に入って、そこから実践的に広めるのが一番良いと結論付けた。
両親に掛け合ってみると、試験に通れたなら好きにして良いと許可を貰えた。幸い、カトレア一人が抜けたところで揺らぐような規模の家ではない。そして、知識を広める事で利益が減るのを気にする人達でもなかった。
一年程掛けて準備を整える。騎士団と魔術師団の情報も集めた結果、カトレアが入れそうなのは魔術師団の方だった。騎士団は治療部門とは言っても剣技の腕前が求められる。その点魔術師団であれば、剣に限らず武力さえあれば良い。カトレアが公爵家で修めたのは槍術だったので、今から付け焼き刃で剣術を習うよりかは魔術師団に狙いをつけた方が現実的だ。
そうして受けた魔術師団の試験は、やはりそこまで難しくなかった。治療部門を目指したのも大きいだろう。いくら槍術を修めたとは言え、それはハイゼルフィッツの子として必要な分だけだ。戦闘を主に行うには不安が残る。その点治療部門であれば、最低限の武力で大丈夫だ。……鍛えはしようと思ったが。
試験会場でやたらと目立っていた一組の兄弟を思い出す。よく似た顔の二人は、特徴的なオーロラ色の瞳をしていた。まず間違いなくクロイゼルングの双子だ。皇族に養育されていると聞いていたが、どうやらそこでかなり鍛えられているらしい。軽い動きで木剣を捻り落としたのには驚かされた。あのレベルが入る中で、今のままでいられる程にプライドは低くない。
宮廷魔術師団であれば、鍛えたいと言えば幾らでも鍛えてくれる筈だ。持って行く荷物の中に訓練着を加えて、カトレアは鞄を閉じた。




