表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/58

双子の同期達:1

 ヴィカとベルンハルトは家が隣同士だ。ヴィカの家はパン屋、ベルンハルトの家は肉屋。親同士も仲が良くて、家族ぐるみで付き合いがあるから同い年の二人はすぐに仲良くなった。

 ヴィカは体が小さくて、ベルンハルトは体が大きい。ヴィカは体を動かすのが大好きで、ベルンハルトは勉強が大好き。ヴィカはすばしっこくて、ベルンハルトは力持ち。色んなものが凸凹の二人だけど、不思議と気が合うのだ。

「ねえねえベル、聞いて聞いて!」

「落ち着いて、ヴィカ。取り敢えずその蛇を……これで良いや、入れて」

「うん!あのね、探検しに行ったら見た事ない蛇がいたんだ!ベルなら知ってるかなって思って!」

「蛇は詳しくないな……でも、調べてみようか。図書館で探してみよう」

「はあい!」

 野原を駆け回るヴィカに付き合って、ベルンハルトが泥だらけになる日もある。図書館に行くベルンハルトに付き合って、ヴィカが本を読む日もある。お互いがそれを嫌だと思わないから、ずっとそうやって育ってきた。

 王国では平民でも教育が受けられるから、近くの学校に一緒に通った。ヴィカは集中力が長続きしないタイプなので、テストの時はベルンハルトに教えてもらいながら勉強した。

 平民でも本が読めて、沢山勉強出来るのは実は当たり前じゃない、というのもベルンハルトが教えてくれた事だ。元々は皇国がそういう制度を始めて、皇国と仲が良い王国でも早くに広まったからこうして勉強出来る。恵まれてるんだと知ってからは、前よりも勉強が苦しくなくなった。

 一緒に勉強して、走って、遊んで。そうしているうちに、学校で魔術を勉強する時が来た。

 ヴィカとベルンハルトは、揃って魔術が上手いらしい。先生がもっと詳しい人に話を繋げるから、そっちで習った方が良いだろうと言われた。わざわざやって来てくれた新しい先生は、これだけ上手ければ宮廷魔術師団入りも目指せるかも、と褒めてくれた。

 宮廷魔術師団。魔術を使って悪い人を懲らしめる所。ヴィカの認識はその程度だった。

「ベル、ぼく宮廷魔術師団について調べたい!一緒に調べてくれる?」

「良いよ。俺も気になってたし」

 図書館に行って、両親や近所の大人達にも話を聞いた。魔術が上手いだけじゃなくて、勉強もある程度出来ないとなれない。危険なことも沢山する。怪我したり、酷いと死んじゃう時もある。でもその分お給金は良くて、住む場所とかご飯も用意して貰える。

「なりたいな」

「そうだね」

 貴族の人が多い職業だけど、応募は平民でも出来る。実際に平民から魔術師団に入った人の記録もそこそこある。これから頑張れば、手が届かない夢じゃないと思った。

「お父さんとお母さんに仕送りとかさ、出来るもんね」

「うん。応援して貰えるかは分からないけど……頑張ろう」

 パン屋と肉屋。貧しい訳じゃないけど、収入が安定しない家だ。忙しく働く家族が少しでも楽になれるかもしれない、と思えば危険な職業に躊躇ったりはしなかった。

 家族に話したら、父親は反対したけど母親は認めてくれた。家族会議は少し長引いて、それでもかつてなく強情なヴィカに折れる形で認めてもらった。中途半端はするなという言葉と共に。

 ベルンハルトの家も了承を貰ったと聞いて、二人で一緒に努力すると指切りをした。

 勉強はベルンハルトに教えてもらう。体捌きはヴィカが教える。魔術の先生にも頼んで、深い話を沢山してもらった。二人で棒を使って手合わせのような事もした。とにかく何でもやってみる。特筆して裕福でもない平民から駆け上がるなら、ひたすらに努力するしか道は無いから。

 幸い、ヴィカは集中力が長保ちしないだけで、努力する事は嫌いじゃない。色々な事をしなければならないなら、それらをくるくる持ち替えながら頑張るのは得意だった。反対にベルンハルトは一点集中が得意なので、この日はこれをやる日、と決めてスケジュールを組んでいる。

 時には一緒に勉強して、時には違う事を勉強する。それでも二人で合格しようと約束したのは変わらない。毎日続く課題の山も、一緒に向き合えば怖くなかった。

 疲れて、へとへとになって、でも出来る事や分かる事が増えていく。そんな生活が当たり前になって何年か経った時、宮廷魔術師団の試験を受けられる最初のチャンスがやってきた。十六歳になったのだ。

 王国の成人年齢は十八。でも、平民の通う学校は大体が十六までだ。それまでに習う事を覚えれば生活に困らない、その程度の教育を終えれば働けると判断される。それに合わせて、宮廷魔術師団の試験は十六になったら受けられるのだ。

 まずは筆記。これはそこまで難しくない。報告する為の書類の作成とか、お金の管理とかをきちんと出来る程度の学力があれば大丈夫。こちらの点数が悪い場合は、入団した後に学び直しの機会もあるのだそうだ。とはいっても成績が良いに越した事はないので、手は抜けない。

 同じ日に魔術の試験も受ける。どんな精霊と契約しているのか、見せられるなら使える魔術も見せる。ヴィカは重力を操る精霊と契約しているので、紙の重さをうんと重くしたり、体をうんと軽くして跳び上がったりしてみせた。

 それが終わったら、日を改めて戦闘面の試験。なんと現役の魔術師団員との魔術抜きでの手合わせだ。勝たなければ──なんて事は勿論ない。どのくらい動けるのかを見せて欲しいという言葉通り、例年勝つ人はいないらしい。勝てたら勝てたで問題になりそうだなあ、なんて思いながら思いっきり打ち合って、ころんと転がされた。

「悔しい〜!」

「はは、元気だな。力が足りないけど、速さはかなりのものだ。良い腕だよ」

 褒められはしたけど、軽くあしらわれた悔しさは無くならない。今度は転がされないようにしないと、とさっきの手合わせを振り返る。ヴィカは小さくて筋力もないから、魔術を使わず一撃に重さを出すには体重を使う必要がある。でも、そうすると力を流された時に簡単に転がってしまうのだ。これは少し前に気が付いていた課題で、時間が足りずに改善できなかったのだ。

 どうやって解決しようかうんうん悩んでいたら、急に周りが静かになった。びっくりして辺りを見回す。試験の会場中心、手合わせ用の場所に一人の子が立っていた。

(……綺麗だなあ)

 何の芸もないけど、そう思った。銀色っぽい不思議な色の髪は長くて、素っ気なく一つに纏めてあるだけなのに艶やかだから人目を引きそうだ。背はヴィカより小さいくらい低くて、線も細いから女の子だろうか。でも服は男の子のものだから、男の子かもしれない。

 見た目も綺麗だけど、ヴィカはその子の姿勢に感激した。背筋がぴんと伸びていて、でも力が入ってない。親に姿勢を矯正された時、この子がいたらもっとやる気が出たかもしれなかった。そのくらい綺麗で、こういう姿勢の人が彫刻とかに残されるんだろうな、と思う。本当に、芯から綺麗な子だ。

 そんな風に感激なんてしていたものだから、その子の向かいにいる試験官の手から木剣が落とされているのに気が付いたのは、そっくり同じ髪色の子が走って行って抱きついた時だった。

「さっすが兄さん!土壇場に強いねえ」

「アル」

 抱きついた子──アルは、髪が短い。兄さんと呼んでいるから、長い方の子と兄弟なのだろう。短く名前だけ呼ばれて、「ごめんごめん」と離れるアルは固まった空気をまるで気にしていないようだ。兄の方も気にしている素振りは見せていない。

「強いのは分かってたけど、ここで絡めてくるとはな……してやられたよ」

「ありがとうございます。ですが足りない部分も分かりました。精進します」

「ストイックさも変わらず、か。頑張れよ」

 どうやら試験官とは知り合いらしい。手を振られたその子は頭を下げて下がっていった。

「──入団時点でさっきのレベルまで達している必要は全く無い。今回の試験は、君たちの今の実力を見る為のものだ。気負わずに続けてくれ」

 試験官のうち一人が声を張る。静まり返ったまま固まっていた空気が、ようやく動き出した。

「綺麗な子だったね、ベル」

 試験を終えて戻って来たベルンハルトに話しかければ、少し考えた後に「ああ、あの子か」と頷かれた。綺麗な子、それも目立っていたからすぐに分かったのだろう。

「背中がさ、ぴーんって伸びてた。お母さんに棒を突っ込まれた時のぼくでも、あんなに綺麗な姿勢じゃなかったと思う」

「確かにそうだね。ヴィカは中々猫背が治らなかったから」

 宮廷魔術師団を目指して戦いの練習を始めるまで、ヴィカは姿勢が良くなかった。それを治そうと、母親が服の中に棒を突っ込んだ事があるのだ。あれは中々辛かった。結局戦いの為に正しい姿勢が必要だと分かるまで治らなかったので、ヴィカはそういう気分屋な部分がある。気分が乗れば出来るけど、そうじゃないと中々手が付かないのだ。

「お話ししてみたいなあ」

「あの子は合格するだろうから、俺達も合格すれば沢山話せるよ」

「それもそっか」

 合格するかは分からないけれど、別に今年駄目だったらまた挑戦すれば良い。挑戦出来るのは十八までと決めてあるが、今回の試験を受けてみて掴める未来は見えた。努力を怠らなければ十八までには合格出来る。あの子達と話す機会は掴める筈だ。

「貴族なのかなあ」

「そうじゃないかな。試験を受けに来る人の半分以上は貴族だって言うしね」

「だよね。うーん、貴族だと姿勢が良くなるのかな」

「それは偏見というか、色々偏った考え方だね」

 苦笑されてしまった。ここに来ている以上は戦うことにある程度慣れているのだから、姿勢の良さに貴族かどうかが関係ないのは確かだ。でも、戦いに慣れているのかどうかとは別次元の綺麗さだった。あの姿勢の良さの秘訣を聞いてみたい。

 帰って勉強を続ける間にも姿勢を気にするようになったヴィカ達の元に合格通知が届いたのは、数日後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ