拾われた子供達:5
聴取は主に家政婦長を対象に行われた。双子は家の事情もほとんど知らないし、虐殺が行われた時に家にいたわけでもない。そこは自分達が保証できるのもあって、事件に対する対応は最低限で済んだ。問題は、隠されていた双子の存在が意図せず明るみに出てしまった事だ。
ハル──師団で働いてはいるものの、皇族の立場を持ったままの人間が保護しているから色々なものを遮断出来ているのが不幸中の幸いといったところか。悪意を知らない子供達、それもクロイゼルング直系で身寄りが無いとなれば鴨が葱を背負っているようなものだ。様々な人間が伸ばす欲望の手を跳ね除けられるのは、ハルが権力を持ち、そしてその使い方を熟知しているから。
クロイゼルング傍系、つまり最近クロイゼルングの女性が嫁いだ家に預ける選択肢もあったのだが、彼等は全員辞退したのだという。自分達では皇族よりも良い守りを用意出来ない、と。それは事実だ。そして、子供達に利益を求めず守りを第一に考える姿勢には好感を覚える。流石はあの夫妻の血族だ。
陛下とも話し合って、双子はこのままハルが養育する事になった。家政婦長もハルの家に雇われるそうだ。王国での伝手が少ないハルの為に、クロイゼルング傍系の人達が教師等は斡旋してくれる。師団の方も配慮すると言われており、近く特殊なポストが用意されそうな勢いだ。元々皇族が平で働いている状況がおかしいので、ハルは嫌だなあと言いつつも逆らわないだろう。
全員行き先が決まりこれで解決、とはならない。犯人達の尻尾すら掴めていない状況で安心など出来はしない。子供達は状況を飲み込むのにすら時間を必要としているし、大人達は手掛かりから糸を手繰ろうと必死だ。むしろこれは幕開けなのだろう。双子の家出から始まった事件は、予想以上に大きく血みどろの様相を呈してきている。その全貌を見通すのは簡単ではない。
現段階で判明したのは、恐らく犯人だろう団体の名前だけだ。家政婦長が近頃変な団体から手紙が来る、と夫婦が言っていたのを聞いており、保管されていた手紙の中から強迫に近いものが発見されたのが決め手になった。
──『極光』。クロイゼルングの血筋を示すオーロラの別名を冠するのは当てつけか。だとしたらとてつもなく悪趣味な事だ。
騎士団と師団の要注意団体リストに名を連ねる事になったその団体を、ハインツは心の中に棘のように突き刺した。穏やかで聡明なあの夫妻を惨たらしく殺された、この痛みを忘れないように。
人生で初めて身近な命を理不尽に奪われたハインツは少し荒れた。やさぐれた気持ちを落ち着けようとハルを飲みに誘った夜、双子が無茶な精霊契約に手を出していたと知ってまた心が荒れるのは余談である。
× × ×
精霊。生まれた時から側に居たその存在について、実のところ自分達はあまり詳しく知らない。どういう風に力を使えば良いのかとか、契約術とか、そういう勉強はしたけれど、だからといって理解したなどと言えない事くらいは分かる。
自分達が伝えた通りの現象を、精霊の扱える範疇で叶えてくれる。そんな存在。あまりにも都合が良くて、それ故に誰も深く知ろうとしない存在。だって、何も知らなくたって彼等の力を使えるから。彼等自身について知らなくたって力を貸してくれるから。
そんなの変だな、とずっと思っていた。契約している精霊に色々質問してみた事もあるけれど、成果はあまり出ていない。やりたくない指示を無視しても良いよ、という言葉には従ってくれているから、意思があるのは確かなのだけれど。
「新しい精霊達に、話を聞いてみたいね」
「うん。お話しできると良いな」
片割れと頷き合って、部屋に用意した紙に模様を描き続ける。精霊との契約術を少しアレンジしたものだ。精霊についての勉強が一番進んでいるから、この程度なら出来る。
二人で描いた術式の中心、空けてあるスペースは本来なら契約を望む人が立つ場所だ。しかし今回は、精霊に見極めてもらうのが目的ではない。自分達から彼等に手を伸ばすのが目的なのだ。
自分達の今の保護者、ハルと名乗った彼の上着を置く。ハルも精霊と契約しているのは分かっていた。まだ薄いけれど、ハルと自分達との縁を無理矢理手繰って彼の精霊と繋げる。その為に描き上げた術式は大きくて、部屋いっぱいに紙が散らばってしまっている。
でも。だから。これでなら、狙った精霊と接触出来る。
術式から光が溢れる。上着が浮き上がる。見上げた先、目に見えない彼等の存在を認識して──はっきりした記憶は、そこまでしか残っていない。
双子がやらかした事は馬鹿ですが、独学でそこまで漕ぎ着けるのが異常なので想定出来なかった保護者達に問題はありません。クロイゼルングの教育も中々尖っていたらしい。




