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拾われた子供達:3

 十二年前、私達は三回目の出産を迎えました。それだけなら喜ばしかった。母子共に無事で出産出来る事は、決して当たり前ではありませんから。……しかし、生まれた子が双子だった事、そして十二年前という時期の悪さから私達は悩まされる事になりました。

 あの時、私達は水道を開発し、それを国の事業として設営するお手伝いをさせて頂いておりました。私達が開発したものですから当然です。国の財産になるものと誇りに思う気持ちは今も変わりませんが、一部の貴族から敵視される切っ掛けになったのは事実でした。保守派と呼ばれる方々ですね。

 彼等は私達に傷を見つけようと躍起になられていました。今もその節はありますが、当時はこの比ではない程に注目され──時には、直接的な危害も加えられてきました。しばらくは社交場に出る事すらもままならない程だったのです。

 そんな折に生まれた子供が双子だと知れれば、彼等がどのような動きを見せるか想像もつきませんでした。家を潰そうとするだけならまだ良い、でももしかしたら子供達を殺しにくるかもしれない。そんな危険に子供達を晒すべきなのか。

 私達がその時考えた方法は三つ。一つはありのままを発表し、正面から戦う。一つは一人だけ生まれたと発表し、双子であることを隠す。一つは死産だったと発表し、二人共を隠す。最終的には、最後を選びました。

 正面からの戦いを選べれば良かったのは事実です。しかし、私達の家は権力から遠ざかる事を是としています。国の中枢に食い込む彼等が本気で私達を潰そうと──ましてや子供達を害そうとすれば、それを振り払うだけの力が無い。

 では次善の策で一人だけと発表すれば、とも考えたのですが……一人だけを暗い場所に押し込めるのは、私達としては容認出来なかった。二人は性別が違いますから、代わる代わる出してあげる事も出来ません。必ずどちらかが犠牲にならねばならない。そんなのは、家族として……兄弟として不自然だと思ったのです。

 だから、私達は二人を隠しました。どこからも漏れないよう、使用人にすら死産だったと知らせました。二人と接する事を許したのは、家族──私達夫妻と長男、長女。それと、厳選した乳母。誰よりも我が家に忠誠を誓ってくれている、家令と家政婦長。これだけです。陛下にすら知らせる事はしませんでした。これは不正なやり方であり、後ろ暗い事だからです。陛下は国の光たらねばならぬお立場ですから、不要な汚れをお見せするべきではありません。私達はそう判断しました。

 二人は表に出る事無く、ここまでよく育ってくれましたが……最近、悩み事があるようだとは気が付いていました。尋ねても答えないので、ゆっくり待とうと思っていた矢先に姿が消えたのです。賢い子達ですから、自分から身分を明かす事はしないでしょうが、貴族が見れば我が家に近い血筋だとすぐに分かってしまう。どうにかして見つけなければと思っていたところに、ホズミ様からの手紙が届いたのです。

 あの子達を、ホズミ様が保護して下さったのでしょう?本当にありがとうございます。ホズミ様の所であれば変に情報が漏れる事はないでしょうし、あの子達も安心して眠れたでしょう。すぐに知らせて下さったのも、これ以上無くありがたい事です。私達もようやく、心を休める事が出来ました。


 × × ×


 十二年前は、ハインツとハルはまだ幼かった。だから水道の話が出た時に、初めて納得がいった。そうか、そういえばそんな時期だった気がする、と。当時はまだ貴族同士の関係図もよく分かっていなかったが、確かに保守派が嫌いそうな事業だ。この夫妻が国を通して推し進めたのは、平民にまで普及する便利な発明だったのだから。貴族の特権に煩い彼等からすれば、平民の暮らしの質を上げる水道の普及はさぞかし目障りだったろう。

「子供達はどうする。僕としては、御夫妻の希望を可能な限り叶えたいと思っているんだが」

 子供達は帰りたがっていないが、ハルが話を聞く限りでは家族を強く慕っているらしい。クロイゼルング側の事情も把握した事で、家出した要因も何となく見えてきた。

 双子は、家族にとって自分達が汚れになってしまっていると気が付いたのだろう。家族に悩みを話さなかったのも、家族との関係自体が悩みだから当然だ。そして、自分達が汚れならば離れれば解決すると思ったのではないだろうか。だから家名を言わず、親を探すなと言う。クロイゼルングの者だと知られてはならないから。オーロラ色の瞳については知らないのだろう。外に出していないなら、知らなくても無理はない。

「そうですね……まずはあの子達に説明をしなければ。その上で、あの子達が望むようにしてやりたいと考えています。ホズミ様にご迷惑を掛けてしまうかもしれませんが」

「僕の事は気にしなくて構わないよ。そも、迷惑だと思っていれば保護もしないからなあ」

「ありがとうございます。では、事情を説明する手紙を書きますから、それを渡してやって頂けますか?全て知って尚あの子達が離れたいと望むのであれば、そうしてやるのが親の務めでしょう。偶に顔を見せてくれたら嬉しいですがね」

 説明を終えて喉を潤している夫人と交代するように、当主が話を進める。離れると簡単に言うが、あの瞳を変に放り出す訳にもいかない。しばらくハルの家で預かって、双子の身分をどうするかを決めてから動く事になるだろう。

「分かった。僕からも説明に不足の無いよう気を配ろう」

「もし良ければ、俺も一緒に子供達と話しましょうか。万が一抜けがあってはいけませんから」

 突然知らない人間が押し掛けるのは、と思っていたが、重要な話をする時は複数の人間がいた方が偏りや抜けが発生しにくい。子供達のこれからを決めるような話であれば、ハルだけよりは自分もいた方が良い気がした。

「私達としては、お二人ならば任せられると思っています」

「ありがとうございます」

 好きにしてくれ、という言葉を貰えるのは、これまで築いた信頼があるからだ。感謝の言葉を述べ合って、大人達の話はここでお終い。先行きを子供達自身に任せると決めた以上、ここでこれ以上話すのは無意味だ。夫妻が説明と自分達の意思を手紙に纏めるのを待って、屋敷を辞す。

 最後まで案内役を務めてくれた家令が、土産だと少しの菓子とぬいぐるみを二つ渡してくる。それが何なのかは訊かなくても分かった。双子のお気に入りに違いない。

 接する人間は限られていたが、本当に愛を注がれて育ったのだろう。その愛の切れ端を手に、二人はハルの家に向かった。


「嘘を吐いたの?」

 事情を説明し、手紙を渡そうとしたハルを見て、手を繋いだ子供達が口にしたのはそれだった。裏切られたのか、と揺れる瞳は、確かに美しいオーロラ色をしている。そして背格好まで判で押したようにそっくりだった。表情まで同じで、ほぼ一心同体のようだ。

「ごめんなあ。君達を守りたいと思っているのは本当だよ。その為に、親御さんとお話しする事が必要だったんだ」

「でも、探さないでって言ったのに」

「うん。ごめんな」

 うろうろと彷徨う瞳は、ハルの事を信用出来なくなったのだという不安が溢れんばかりだ。それを否定しないハルに少し腹が立って、強引に口を挟んだ。

「ハルは嘘を吐かない奴だよ。お前らは確かに親を探すなと言ったんだろう、だがそれをハルが一度でも肯定したか?否定もしなかったかもしれないけどな、ハルは肯定したら絶対にこんな事しなかったぞ」

 ぱちぱちと大きな瞳が二対瞬く。それらが同時に互いに向けられて、何かを無言で話し合っているようだった。片方が首を傾げて、片方が頷く。それだけで意思の疎通が図れたのか、また同時にこちらを向き直った。

「してなかった。ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 揃って素直に頭を下げる。外の悪意を知らないまま育てられたからだろう、白金色の髪も相俟ってどこか真っ白な布を思わせる子供達だ。

「いや、誤解させるように誘導したのは確かだからなあ。こちらこそ、信用を裏切ってごめんな」

 ハルの手が子供達の頭を撫でて、それが許しの合図だと分かったのだろう。顔を上げた子供達の目が、ハインツに向けられる。

「お兄さんは誰?」

「俺はハインツ=ゲルシュナー。ハルの親友だよ」

 親友、と言葉を転がす子供達は、友人すらいない筈だ。親友の説明から入らねばならないかと身構えたところで、二人揃ってぺこりと頭を下げられた。

「フィレアド=クロイゼルングです。フィリって呼んで」

「アレシア=クロイゼルングです。アルって呼んでね」

 髪が長い方がフィリ、短い方がアル、と暫定的に覚える。フィリが男でアルが女の筈だが、貴族女性が短髪なのはかなり珍しい。表に出す予定が無いから好きにさせていたのか。そもそも愛称も男のものに近い。色々と不思議な部分の多い子供達だ。

「ああ、よろしく。……で?手紙を読まないのか」

 まだ受け取っていなかった両親からの手紙に話を戻せば、またお互いの顔を見合って頷く。受け取ったのはフィリで、開いた手紙を顔を寄せて一緒に読み始めた。それを待つ間に土産の菓子を開ける。飲み物の用意はハルの担当だ。ハインツも茶を淹れるくらいは出来るが、ハルが淹れた方が美味い。皇国では茶の淹れ方も作法の内に含まれる為、幼少期から叩き込まれているのだとか。

 こぽこぽ、と湯が沸く音が響く頃、子供達が顔を上げた。ハルはキッチンに行ってしまっているので、少しの間は自分が対応するしかないだろう。椅子に座ったまま視線をやれば、二人もそう思ったのかこちらを真っ直ぐ見上げている。

「何か質問があるならしろ。答えるから」

「分かった。……ここに書いてある通りなら、僕達が家に戻っても、皆は嫌がらないって。本当?」

「本当だ」

 むしろお前達をどうにかして見つけなければと頑張っていた、と伝えれば、訊いてきたアルは難しい顔で黙る。どちらかといえば戻りたいのだろうか。

「でも、僕達が戻れば、また父様と母様は色々な事に気を配らないといけなくなる。僕達を殺そうとしてくる人がいるかもしれないから。僕達がそれを解決するには、やっぱり戻ったら駄目だと思う。そうだよね?」

 対してフィリの方は戻らないつもりのようだ。そして言っている内容は間違っていない。この双子が家にいる限り、クロイゼルングは探られては痛い腹を抱え続ける事になる。彼等はそれを迷惑だとは思わないだろうが、双子側がどう思うかは別の話だ。

「そうだな」

 頷けば、アルの瞳からも揺らぎが消える。二人にとって、家族に掛ける負担は余程許し難いものらしい。存在するだけで負担になるのだから当然か。

 ティーカップの乗ったトレイを運んできたハルが、二人の顔を見て苦笑する。案外早く決意したなあ、と呟いて、テーブルにトレイを置いた。

「帰らない。帰るのは、僕達が楽になるだけだから」

「僕達は、皆に楽になって欲しい」

 子供達に目線を合わせたハルに、二人はそう告げる。幼いけれどしっかりとした軸のある答えだ。家出から現在に至るまで、この子供達が判断の基準にしているのは一つだけ──家族に迷惑が掛からないようにする、という事だけだ。大人であってもここまで筋を通すのは難しい場合が多い。箱入りだが、それだけではない強さを持っているらしい。

「そうかい。……では、それを御家族に直接伝える気はあるかい?彼等は、偶に顔だけでも見せてくれたら嬉しいと言っていてなあ。こっそり会いに行くだけなら負担にもなるまい」

「俺達が伝えに行っても構わんが、お前達も直に会った方が色々と言えるだろ」

 この様子を見るに、愛情は一方通行ではない。互いに一度会って話し合った方が、色々と拗れずに済むだろう。

 二人がまた目を合わせて、無言で話し合い始める。一体どういう理屈で意思疎通を図っているのか全く分からないが、今の所読み違いを起こしていないようなので正確性は高いらしい。頷き合った二人は、同時に行く、と答えた。

「分かった。御家族と予定を合わせるから、少し待っていてくれ。取り敢えず……茶が冷める前にこれを食べるところから、ね」

 手招きしたハルの前に置いてある菓子に気が付いたのか、子供達が顔を明るくする。好物らしい。横に並べてあるぬいぐるみを見て誰からの贈り物かも察しがついたのだろう、ぺこりと頭を下げてきた。

「ありがとうございます」

「ありがとう」

「どういたしまして。ほら、食べよう」

 促されるまま椅子に座った子供達は、嬉しそうに笑う。何の裏もない笑顔は、両親によく似ていた。

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