拾われた子供達:2
「なあ、ハル」
「間違いなくオーロラ色だったよ。あの家の方達とは付き合いがあるんだ、見間違えたりはしないとも」
「だよなあ……」
戸籍が記された書類を睨みながら問い掛ければ、欲しかった答えが返ってくる。拾った子供達は、間違いなくクロイゼルングの家とかなり近い血筋だ、と。
「……考えられる原因は落とし胤とかか?」
「無いと思うがなあ。性格的にも、必要性的にも」
「だよなあ…………」
だというのに、それらしい戸籍が一切見当たらない。王国では戸籍作成は義務であり、平民ですら戸籍を持つ。表沙汰に出来ない生まれの子供が、生まれたことすら隠さなければならない子供だけが戸籍を持たないのだ。
貴族でそんな生まれといえば、不貞の末に生まれた子供が真っ先に思い浮かぶ。しかし、クロイゼルングの当主夫妻は仲睦まじく、子供も二人設けている。隠し子を作る意味は無いし、そんな事はしない人柄だと思っている。
では傍系はと探してみれば、王都にタウンハウスを持っている家は無かった。社交も王都までは中々しに来ないのだろう。子供が家出をして王都で見つかる状況にはなりそうにない。
手詰まりだ。親元へ帰りたくない、と言っている子供達から家名を聞き出すには時間が掛かるだろう。そうこうしている間に、家族の側がどんな動きを起こすか予測が付かない。人間を動かして探すのであれば対処出来るが、クロイゼルングを好いている精霊を動かされると対応が難しい。
子供達がどうして隠されていたのか分からない以上、出来る限り状況をコントロールしておきたい、という気持ちはハルも同じなのだろう。難しい顔で考え込んでいる。
「……いっそ、御当主夫妻に直接尋ねに行くかい」
「それは、」
「子供達を守りたい気持ちは僕も同じだとも。ただ、クロイゼルングの御当主夫妻との付き合いもそれなりに深いだろう?あの御夫妻が、子供達を虐遇すると思うかい」
「……思わない。そうだな、お前の言う通りだ。子供達が帰りたがっていない事も含めて、話せば分かってくれる人達だ」
精霊に好かれる血筋と、精霊と言葉を交わせる者。どこか似た部分があると思うんですよ、とある夜会で突然話しかけられた時には驚いたものだ。何の裏もなく、にこにこと優しく笑う顔がよく似た夫妻。権力闘争から離れた場所に立ち続けてきた一族だからか、優しさを人に与える事を躊躇わない。それでいながら賢く、様々な恩恵を国に齎し続けている。人として、素直に尊敬出来る人達だ。
彼等なら、子供達が傷付く方法は取らないだろう。むしろ事情を話して協力してもらった方が良い。親を探さないでくれと言った子供達には悪いが、家族と距離を置くにしても協力関係は欲しいところなのだ。
「タウンハウスにお邪魔する伺いを立てておこう。内密に、と言っておけば対応してもらえる筈だ」
「そうだな、俺達の方が目立たずに動ける」
当主夫妻は、公的な場には滅多に出て来ない。親交のある家の茶会やパーティには出席するが、王城等には必要最低限しか出ない。権力から離れる立場を取り続けている家だからだ。それは王家の意向も汲んでの事で、そんな彼等を呼び立てすれば目立ってしまう。それならば、普段から個人で仲良くしてもらっている自分達がお邪魔する方が余程内密に出来る。
家族の事で、とぼやかして書いた手紙に最速で返事が来たのを知らされて、やはり本家の子供かとほぼ確信した。日付もなるべく早く、いつ来ても対応可能なように整えておくと書かれている辺り向こうも相当焦っている。知らせに来たハルはそのまま行けると言うので、本来ならば良くないがこのまま向かう事にした。
クロイゼルングのタウンハウスは植物の意匠が多いのが特徴的だ。室内に鉢植えも多く置いてあり、素朴で優しい感じのする屋敷である。
突然押しかけた二人に最初に対応してくれた従僕は怪訝な顔をしていたが、彼が引っ込んだ後に出てきた家令は事情を把握しているのか何も訊かずに案内してくれる。奥の方、本来なら来客を入れないスペースにまで踏み込んでいき、通された部屋は書斎だった。
少々お待ち下さい、という家令の言葉に頷くのとほぼ同時に足音が聞こえ始める。勢い良く開いた扉の向こうには、不安そうな顔をした当主夫妻がいた。
「人払いをもう一度確認してきてくれ」
「かしこまりました」
指示を受けた家令が下がる。用意されている椅子に座った当主は、その帰りを待たずに口を開いた。
「家族の件、と手紙には書いてありましたが……誰の事か、お伺いしても?」
人払いの再確認は念の為といったところなのだろう。元々夫妻が抱えていた火種である、彼等の対策が万全かどうかを確認するのは自分達の仕事ではない。目配せをして、子供達を保護しているハルが口を開いた。
「フィリとアルについて。……ご存知だろう」
「やはり、そうですか。ええ、あの二人は私達の子供です。非公式の……戸籍の無い子供ですが、間違いなく私と妻の子供です」
張り詰めた空気を纏っていた夫妻が、少しだけ雰囲気を和らげる。彼等は賢い人だ、今ハルが口を開いた事で子供達はハルに保護されていると理解したのだろう。そして、それを安心出来ると思ってもらう事が出来た。
「最初から話しましょう。何故、あの子達を隠さなければならなかったのか」
少し前のめりになっていた夫人が姿勢を正し、話し始める。それは、二人の子供が悩み続けた問題の答えだった。




