間話 弓削家
大蓮寺清花が帰宅の途につき、他の子供たちもそれぞれの家に帰った。
大友名雪のみ、藤原家の厄介になる為に藤原利道と共に行ったが、全ては予定通りに進んでいた。
そう、全ては弓削文奈の思い描いた通りに。
「文奈、弁明の言を述べることを許す」
弓削家現当主、弓削一茂は一族から分家の当主たちが集まる場で厳格な声で言い放つ。
目下の議題は弓削文奈が勝手な行動をし、未来を劇的に変えてしまったこと。
大蓮寺清花に纏わる未来の出来事の話は当主持ちの重大案件であり、それは妻や子でさえも口を挟むことは許されない。
一つを例に挙げれば、大蓮寺清花が霊具を作り出しただけで未来における日本の治安は改善されていたこと。
未来というものはそう簡単に変わるものではない。余命宣告を受けた病人が宣告通りに死ぬが如く、運命とは変えられないから運命なのだ。
それを大蓮寺清花はこうしたい、あれをしよう、たったそれだけの簡単な思いつきだけで未来を塗り替える。
刺激をし過ぎれば何が起こるか分からない一種の災厄のようなものだと、未来を知る者は思う。
だからこそその決定権は当主ただ一人に委ね、変わる未来を極力選定しようとしていた。
それがこれだ。娘である弓削文奈があちこちを強く刺激した結果、未来予想図は乱気流に飲まれたように荒れ狂い始めた。
ただ一人、当の本人を除いては今のこの結果を視た者は一人としてここにはいない。
「弁明など御座いません。ただ事実のあるままに、処罰なら何なりと」
粛々と罪を受け入れる姿は殊勝そのものではあるが、文奈は後悔も謝る気も毛頭なかった。
今回における一連の出来事の全ては文奈が描いた物なのだから、失敗がなければ後悔などするはずもないに決まっている。
文奈の目的は親友である"大友名雪を助ける"こと。ただそれだけだった。
呪術師の家系に生まれた名雪は強い浄化の力を持った大蓮寺清花の台頭によって立場を危うくする可能性が浮上していた。
それを文奈は、弓削文奈だけは見逃さずにいた。だからこそ今回の計画を実行した。
「お前も知っていよう。我々の力を濫りに用いれば市井にどれほどの影響が出るか分からないと」
「重々承知しております。ご当主様」
「であれば何故このようなことをしでかした。俺はお前の口から真実を聞きたい」
「真実……で御座いますか」
大蓮寺清花が世間に姿を見せたことで占いの中に出始めてからというもの、占い師たちは一斉に彼女のことを視始めた。それは当主である一茂も同様だ。
しかしながら、文奈は当時はあまり清花のことについて興味はなかった。
だから家族が色めきたってもまた何かやってるとしか思わなかったし、そこに自分も加わろうとは考えなかった。
事情が変わったのは、日課として何気なく視た未来で大友家が滅亡していたこと。
大蓮寺清花は近い将来、日本に平穏を齎す。
日本中の普通の人々にとっては有難い話だが、そうなると困るのは妖怪退治を生業としている人たちだ。
大友家はその中でも戦いに関して注力をし、それのみによって生計を立てていると言っても過言ではない家柄だった。
戦いが少なくなり、戦闘に特化した退魔師が不要とされるかもしれない未来を回避する為に大蓮寺清花に刃向かった結果、力の差と相性の関係で一方的に殲滅された大友家とその一派は当主から実子に至る直系の当主候補が全て再起不能に陥り、実質的に存続不可にまで追いやられていた。その娘である名雪も例外ではない。
その時点ではまだ大きな改変がされておらず、清花の伸び代もまだ比較的緩やかな傾向にあった時の未来でその結末だった。
何もせず、ただ流れに身を任せるとしたらこの結果になる可能性は極めて高い。
文奈はこの未来を徹底的に否定することにした。
ただ滅ぶから止めろと言っただけで大友家が止まることはない。そんな殊勝な心掛けを持っていたら清花を襲おうだなんて考えはしない。
確率が少ないとしても大友家が勝つ未来があるとしたら、大蓮寺清花にとっての大敵なり得る相手と手を組むこと以外にない。
人間からしたら絶対的な味方に見える彼女と敵対をする陣営は人間側にはそうおらず、いたとしても組むに値しない弱小陣営しかなく。
即ち、大友家には妖怪と手を組む以外に手は残されていなかった。
そうなれば例え清花に勝ったとしても大友家は人間の敵として汚名を残すことになる。未来永劫人間の側に返り咲くことは無くなってしまう。
連座として名雪も妖怪と同様に討伐対象と見做されて人間に討伐されるか、その前に心を病んで自害する未来しかない。
その未来も許容出来なかった文奈はまず名雪が幸せになる未来を探し始めた。
そこから清花と大友家を早期にぶつけ、清花に勝たせることで本来の罪から格を落とし、その末に権力を落とした大友家から名雪の安全を確保するという作戦を立てるに至った。
清花が勝つには悪意から敵を見つけ、大友家の実働部隊を殲滅して貰わなければならない。
実力がまだ足りず、浄化の力の扱いが未熟な彼女には強制的に実力を向上させる為の三つの策を講じた。
一つが清花に敗北を味わわせる事。未だ負け知らずの清花は自らの実力に驕っている部分があり、そこを突くことで自らの弱点を克服するよう促す為に。
二つめは異性を当てがう事。どういう訳か、清花は独り身の未来よりも異性と結婚をした未来の方がより強いことが明らかとなっている。
これはどの未来でも共通する、言わば絶対的な運命とも言える決定事項だ。
理由は分からないが、そういうことならと清花の未来を視て結婚相手となりそうな人を集めた。
それぞれに自分が視た未来を語って清花を狙うように煽り、積極的に彼女を射止めるように仕向けた。
予想外な事にどういう訳か土御門景文が彼女に入れ込んでおり、恋人候補として一躍躍り出た訳ではあるが、それはそれで良し。
目論見通りに危ないところを救われた清花は景文を意識し始め、一晩明けた頃には実力を飛躍的に向上させていた。
最後に、清花は人に対して攻撃するということにまだ潜在意識下で抵抗感がある。
これでは大友家の実働部隊に対して効果的な攻撃が見込めない可能性があった。
なので前園鷹一や柴井元嗣らには清花にとことん嫌われ、人に対しての攻撃に手加減を無くしていくように仕向けて貰った。
例えこの先、大事な局面に大蓮寺清花の助力を得られなくなったとしても未来の為にその身を賭けてくれたのだ。
この計画は大人たちが画策したのではなく、文奈の計画に大人たちが利があると相乗りをしたに過ぎない。
大人たちの目的は大蓮寺清花の成長と事前に敵対することになるかもしれない大友家を一時的に舞台から退場させること。
腹を決めた弓削家は信用出来ると経験則からの協力の申し出だった。そこには未来を憂う大人としての意地があった。
これらの前準備を済ませ、文奈は大友家に間者を送り、こう嘯く。
『大蓮寺清花を討つ機会は今回限りしかない』
『しかし、まだ取り込める機会はある。藤原利道が上手くやれば大友家が躍進することも夢ではない』
『今だ。大蓮寺清花は疲弊しきっている。狙うなら土御門景文の警戒が薄れた今この時しかない』
と、事前に大友家にも色々と吹き込んでおいて不安感を増大させたお陰で早朝から大蓮寺清花と宝蔵咲夜を襲撃して貰い、ものの見事に返り討ちに遭って貰う。
計画通りだった。
全ては文奈の描いた通りに進行した。
名雪を助ける過程で清花の実力も向上させ、上手くいけばこのまま景文と良い関係になることだってあり得るだろう。
その結果は他の退魔師たちも望んでいる結果で。
つまりは上手く行きさえすれば文句は出て来ないということ。
己の陣地に籠っているせいで碌に手を出せない大蓮寺清花にたった一度しか通用しない作戦は上手く行った。
とはいえ、一歩間違ったら清花が外部の人間に不信感を強く抱き、何をしようにも二度と接触することが出来なくなっていた可能性があったのも事実。
その場合の軌道修正は多くの時間と多大な労力が必要となり、来たるべき日に間に合わなくなるかもしれなかった。
当主たちの怒りはそれを考える至極尤もなことではある。
「結果が全てで御座いますれば、真実など語る必要があるはずもなく。全てはご当主様の知っている通りの……」
「名雪くん、だったかね」
「………………」
「何もないのなら、彼女のことはこちらで処理するが。構わないね?」
当主、というよりは実父である一茂にとって文奈のいきなりの行動には面食らったものの、少し考えれば当然の帰結ではある。
幼い頃の文奈は能力こそあるものの、そのせいでより遠くより多くの未来をを見過ぎてしまい、大蓮寺清花が不在であった頃の不幸な未来を視てしまったせいで引っ込み思案になり、決して明るい性格と言えるような子供ではなかった。
そんな彼女を引っ張って行ったのが大友名雪だった。名雪と一緒に過ごしていく内に次第に調子を取り戻し、今の文奈になっていった過去がある。
名雪や一緒に遊んだその友人たちの為に力を使うことで未来予知という力と向かい合うことが出来たのだ。
そのせいで仲間内というある種の縄張り意識のようなものがあり清花には初めましての時から警戒をされてしまったが、それは文奈にとっては些事程度でしかない。
例え大友家を扇動した罪で諸共に浄化の力で焼き尽くされようとも、己にとって大切なものを守りたかっただけなのだから。
「あの子のことならお好きにするといいでしょう。出来るものなら、ですが」
「む……」
文奈とは埋まらない溝が出来てしまったものの、名雪と清花との間には浅くない縁が出来た。もしも名雪に何かあれば手助けくらいはしてくれそうだという縁が。
文奈は認めてはいないが恋人の藤原利道もいるし、他にも頼りになる仲間たちが沢山いる。
社交性が高く面倒見の良い名雪には慕ってくれている子も多い。その人たちに恩を売っておいて、いざという時に名雪の味方をするように頼んで(脅して)おいたので後顧も憂いはもう一切ない。
極めて重大な違反行為をした文奈はこれから一族が規則違反をした場合に入れられる座敷牢に入ることになる。
そこでは限られた者しか面会出来ない、かつ占いの力を封じる場所となっていて、入ったが最後占い以外の力のない者にとっては決して出ることの叶わない檻と化すことになる。
大蓮寺清花の言う通り、戦う力を持たない人間まで巻き込んだのは文奈とてやり過ぎだと自覚はしている。
だから清花の裁きも受け入れたし、今回の当主の決定にも粛々として従うことにした。
大友家の実働部隊の占い師と違い、何か月も続く後遺症がなかったのは単に清花の優しさに見逃されただけ。
この上処罰まで逃れようとするのは自分の行いで傷ついた人たちや不利益を被った人たちに対しての失礼極まりない。
他人の人生を変えるのなら、そこに自分が関わっているという自覚を強く持つこと。そういうように考えるようになったのも名雪の言葉の影響だった。
その名雪と言葉を交わすのがつい先ほどのものが今生で最後の可能性もあった。
ここまでの未来を視た上で、文奈はこの結末を受け入れていた。
「で、あるか」
一茂や他の一族の者は感情のない瞳で文奈を見ていた。
未来を知り、未来を変えることの出来る者が自分勝手に力を使えば必ずそれを阻止しようとする者が現れる。
そうして悪の道を突き進んだ者の辿る末路はいつも同じだ。
文奈は大義をお題目に掲げてはいるものの、その実は完全なる自己都合の為に多くの人の運命を変えた。
処分を受けるのは已なしと誰もが理解をしていた。
「……連れて行け」
これ以上の問答は無意味だと判断した一茂は部下に命令し、文奈を座敷牢へ向かわせる。
実の娘である文奈に対し、本当はこのようなことはしたくはなかった。
しかし、これを甘い罰則程度で済ませてしまえば周囲の者に示しがつかないし、第二第三の自分勝手を許すことになる。
今回の未来の変わりようからして、それを許容することは当主として出来ない。文奈の座敷牢入りは決定事項だった。
身内だからこそ非情にならなければいけない理由が一茂にはあった。
「……ふぅ」
文奈が去り、もう声が聞こえなくなっただろうというところで一茂は一息吐き、視界の中に部下たちを収めた。
そして己の膝を叩いて大いに笑う。
罰は与えた。だから、それはそれ、これはこれだと彼は考えていた。
「ワハハハハハッ! どうだ! 皆の者! 文奈がついにやったぞ! やはり弓削の子はこうでなくてはな! クッ、クハハハハハ!」
未来が視えると、どうしても視たくないものまで視てしまうことが多い。
自らが未来を変える力がないばかりに絶望して、それで心を病んでしまう子は多く、それは未来視の出来る人たちの至上命題とも言える問題だった。
これには本人の気の持ち様以外に解決策はなく、周囲の家族や友人の助けがなければ叶わぬ未来に潰れてしまうことになる。
必要なのはそれでもと抗う強い意志。
今回の文奈にはそれがあった。名雪を助けたいという強い気持ちが自分の望む未来を引き寄せた。
その為に一族の掟を破ったのはいけないことではあるものの、それを一茂は個人的には強くは咎められずにいた。
何故ならそれは自分も通った道だから。
親の決定に反発し、座敷牢に入れられた思い出は当主である自分にもあったからこそのこの大笑いだった。
「いやはや、どうなることかと思いましたが上手くいってホッと胸を撫で下ろす思いですな」
分家の当主がそう答えたのを皮切りにそれぞれに思い思いに語り始める。
中には当主の一茂の幼い頃を知る人物もおり、その口からは幼少期の一茂はもっと手が付けられなかったと言って場を沸かせる。
「お前たちなぁ……」
占いで高い的中率を見せると言われる弓削家だが、その本質は強い渇望により未来を選定し、剪定することにある。
過酷な未来にすぐに揺らぐような覚悟では踏破すべき辛い未来に太刀打ちすることは到底出来ない。当主に必要なのは最も強い心とその持ち様。
文奈は強い心こそ持っているものの、その柱は名雪頼りと強そうで酷く脆い。
一時は当主候補として一躍躍り出たが、本人の公平性を鑑みるに期待は薄い。
それでも今回もたらしてくれた結果には弓削家に集った者たちも感心していた。
何せ、大蓮寺清花は強い運命を持つが故に半端な覚悟ではその運命の交差路に割って入ることすら出来ないのだから。
それを踏まえ今回の結果だけを見れば大きな成果を残したと言える。この結末は文奈以外には引き寄せることは不可能だった。
「文奈様の謹慎はいつまでにされるおつもりで?」
その力はこの先に事態にも必ず必要になる。となれば、そう長く座敷牢に居させるのは不都合が多い。
しかし座敷牢に入れないというのも勝手をした者への罰として周囲に示しがつかない。このままでは最短でも一月か、二月は掛かるだろうと多くの者は見ていた。
「この後に文奈の友人たちが嘆願をしにやって来るから、恩赦の代わりに文奈には力を使ってもらうつもりだ。それならば他の者も結果次第によっては納得するであろう?」
「それでしたら安心ですな。そうそう、ご友人と言えば土御門の景文殿に関してなのですが」
土御門景文が今回見せた力はどの未来でも観測出来なかった事態だった。
それほどまでに彼は自身の力を隠し通してきたし、それはどんな未来でも変わらなかった。
大蓮寺清花に次ぐ未来を改変するかもしれない力の持ち主として、議題に挙げるのは当然のこと。
しかし、一茂が答えるより前に出入り口が慌ただしく開かれて当主は口を閉ざすことになる。
「何事か! ここがどういう場所か知ってのことか!」
ここは当主が怒るのではなくあえて部下に怒らせる。面倒臭いと思いながらやり取りを見ていた一茂は扉を開けた者の言葉に目を見開くことになる。
「ほ、報告! 観測していた土御門景文及び大蓮寺清花の未来に異常あり!」
「どういうことだ? 落ち着いて話せ。まずは深呼吸をしろ」
当主の威厳ある落ち着いた声を聞いてか、報告に来た若者は思い切り深呼吸をして報告を再開する。
「先ほど、観測者が土御門景文について観測をしていたところ、本人から通達があったようです」
「何? 未来だぞ? なぜ通達などと……」
「分かりません。ですが、観測した者からは突然に目の前が暗くなり、脳内に彼の者の声が響いたそうです。曰く、『これ以上の介入は許さない』と。そして、それ以降の未来が観測出来なくなりました。正確には観測しようとすると全く関係のないものや、超超極低確率でしか起こり得ないはずの巨大隕石落下や人類滅亡規模の未曾有の大地震、それに人類全てがペンギンの姿になっているなどの不可解な未来しか見えなくなったとのことです」
「待て、待て待て待て。それでは、土御門景文は未来に干渉する術を持っているということか?」
「いえ、おそらくは干渉しようとする我々に対しての反撃のようなものだと思われます。我々がある特定の未来を視ようとすると自動的に反撃する、言わばパソコンのウイルスとその対抗措置のような……」
「我々はウイルス扱いということか」
一茂は額に手をやって大袈裟に後ろに深く仰け反った。
大蓮寺清花と土御門景文については最重要監視対象だった。二人がどれだけの変化をもたらすか分からない以上、常に見張っておいて不測の事態に備える必要があるからだ。二人の動向が妖怪たちの動向にも繋がっている以上、何もせず放置など以ての外。
今回警告を受けた者は二人の監視を任せるに値する実力の持ち主だった。それが一方的に未来視を遮断されたとなると打つ手はあまりない。
無理に強行突破をしようとして土御門景文を怒らせ、その結果こちらに矛先が向けば今の未来が視えない一茂たちに対処なんて出来るはずもなかった。
「その対抗術式の解除は出来そうか?」
「やってみなければ何とも。……しかし、専門家に頼んで出来たとしても少なくとも一月は掛かるだろうと」
「で、あるか」
制限されたのは報告通りなら二人についてのみということになる。他の未来については好きにしろということだと全員が解釈した。
この対抗術式というのは弓削家のみに対して当てたものではなく、また妖怪側が有利になるようなことをするとは考えられないので恐らくは未来を見る術師全般に向けてのものだと一茂たちは理解に至る。
これを機に妖怪が一ヶ月以内に手を出してくるか、それとも何が起こるか分からないから様子見をするのか。
それを監視出来るのは現状一番情報を手に入れられている弓削家のみ。
ある意味では弓削家に対する挑戦とも言えるそれに、一茂は長い間なかった高揚感を感じていた。
「野郎共! コイツは土御門の倅からの挑戦状だ! 一ヶ月後にどうなっているかは俺たちの手にかかっていると思え! いいなッ‼︎」
一茂の号令に一同は声を荒げる。
多少強引なところもあり、一部からは嫌われているが本人たちは未来を見据えて動いている自負心があったからこそのものだった。
それ故に今回の景文からの妨害はかえってやる気を注ぐ結果となるが、だからといって気合いで術を破れる訳ではない。
見込み通り、何とか大蓮寺清花と土御門景文の観測を出来るようになったのは一月後だったという。
『チラシの裏の落書き』
観測された起こり得た未来の可能性たち。
宝蔵剣護。基本的に咲夜に優しくしていれば自然と好感度は高い。何なら一番高くなるまである。しかし本人の気質の問題でその可能性は億に一つくらいのものなので結局は自業自得。他の候補者が脱落すれば辛うじて可能性は残るか。しかし景文の台頭で芽は無くなった。来世で頑張れ。
武原勝己。感情のままに動くのでマイナスも大きいがプラスも大きい。清花に対してはハッキリと自分の想いをぶつけるのが正攻法なのでもう少し時間を掛けて自身も相応に成長した後であればもしかしたら。同様に感情をありのまま伝える景文のせいで可能性が塵の如く無くなった。
藤原利道。名雪と仲良くなった清花と付き合いを続けていれば或いはという程度。そもそも本人の力量が足りないのと他の者たちよりも意欲的ではないため確率は極端に低い。それでも呼ばれたのは文奈の都合。ちなみに文奈は名雪との関係を認めていないので清花に対してもあまりお勧め出来ないと言っていた。不憫なり。だが名雪という恋人はいるので勝ち組だったりする。
前園龍健。咲夜を下に見る態度が無ければ好印象。策略を好むので清花に想いが伝わりにくいのは難点か。実力は申し分なし、家柄も保証されているので候補としては有力株。景文がいなければ。
土御門景文。自らの未来は視られないよう細工をしていたので占いで視た限りでは可能性はかなり低かったはずの男。前世の記憶の影響で自ら戦おうとしていてかつ他者を守る為には無茶をするような子は守りたくなる欲求と願望があるので白面と会敵時に清花が積極的に頼ろうとしていた場合は可能性はなかったかもしれない。あと男には刺激が強すぎるものを見てしまったせいもある。景文が本気を出すと力量的に他が見劣りする為に候補者が殆どいなくなる。二章前までは奥手で他の男に多少の可能性はあったが今回のことでないなった。以降、横入りしようとする者がある日突然前後の記憶を失って綺麗な人格に目覚める事案が確認されている。
誰も選ばなかった場合。割とあり得た未来。この未来では別の未来ほど実力が向上せず神に会うのは先延ばしになり、実力不足で色々と苦労と苦戦は免れない。しかし元々の潜在能力が高めなので本人の努力次第で何とかはなるかもしれない。男たちとは普通の友達の関係にはなる模様。
ちなみに大友藍を放置すると病んで清花に襲いかかり返り討ちにあう。その結果に名雪が不幸になる訳ではないが、名雪の妹だということと気質が似ている仲間ということで文奈から招待を受けてその未来は回避することになった。
つまり今回の一連の出来事は徹頭徹尾に文奈が名雪に対して甘々なだけである。