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三話-6 時間稼ぎ




 戦いは僕の防戦一方だった。

 柴井老の拳を避けつつ前園老の攻撃にも対処しなくてはいけないからだ。


「よく逃げる! だが息が上がっているようだぞ!」


 もう齢もよい頃合いだというのにこの人はよく動く。およそお爺ちゃんとは思えない動きで、そこに重ねた年月の重みが拳に乗っている。

 出来る限り避けてはいるものの、二人の連携によっては一撃貰ってしまう場合がある。

 それでも僕が倒れないのは浄罪が攻撃の威力を落としつつ、水の操作によって柴井老に完璧な打撃を打たせないようにしているから。

 正面から何の抵抗もなく本気の一撃を貰ってしまえば回復能力のある僕でも意識が保てるか分からない。その後の前園老の攻撃まで考えると絶対に貰ってはいけない一撃だろう。

 対してこちらの攻撃は当たらないし、水弾による弾幕も避けられるか転移術で逃げられてしまう。


「こちらも忘れて貰っては困る」


 正直な話だと柴井老だけならばどうとでもなる。逃げられない程の水で覆って窒息させる等いくらでもやりようはあるからだ。

 だからこそ一番厄介なのが前園老だ。あの人の使う術は近代兵器を模した狙撃術。

 鉄の塊である狙撃銃はそのままに、撃ち出すものを霊力を込めた弾丸に替え、さらに弾そのものに様々な効果を付与することが出来るらしい。

 僕に対してはその弱体化の狙う付与効果自体はあまり意味はないけれども、本来の銃弾さながらの速度で撃ち出される弾にはかなりの苦戦を余儀なくされていた。向こうも付与効果が効かないと見るや威力重視の弾丸に切り替える辺り流石に場慣れしている。

 何よりも一番に嫌なのが絶妙な間合いの取り方だ。

 先ほどの文奈さんとの戦いを見ていたのだろう、水の有効射程をよく見極められていた。前園老から落とすのは実質不可能だと思っていい。


「そら、動きを止まっているぞ」


「くっ!」


 銃の実物をそのまま使っているのは、その方が弾を打ち出すのに想像がし易いからだと推察している。

 術式の自由度は多少狭まるものの、それに見合う程の性能をあの戦い方は手に入れていた。

 何と言っても速度がとんでもない。実弾を模しただけあって、狙われたと思った時にはすぐに回避行動をしないと避けることは出来ないくらいには弾速がとんでもない。


「こっちも忘れるなよぉ!」


「水壁!」


 銃弾を避ける為に無理な機動をしたところを咎めるように接近してきた柴井老に横を殴られ、吹き飛ばされるように距離を取る。

 これを何度も繰り返していれば息が荒くなるのも仕方のないことだろう。


「はぁ……はぁ……そちらの霊力もかなり消耗している様子ですが。……技に乗っかる霊力が少なくなってきていますよ」


 二人に対して僕が絶対的な有利を誇っているのが霊力の量。

 霊力の消費に限って言えば消耗戦では絶対に僕が勝てる。だけど、それよりも常に全力で動き続けているせいで体力と精神力の方が問題だ。

 止まっていればいずれは捕えられる。常に動き続けて相手の狙いを絞らせないこと、挟み撃ちの形にしないことが僕の生命線となっていた。

 幸いというべきか、二人の霊力量は僕より多い訳ではなく、自然回復速度はそこまでではない。


「霊力がないならこうするだけのことよ」


 立ち止まり、力んだ瞬間に柴井老の身体から霊力が湧き上がってくる。

 削った分の霊力が見る見るうちに戻っていくのが分かった。


「それ、ズルじゃありません?」


「ちょいと命を燃やしているだけだよ。生命力と霊力は同一でなくとも同質ではあるからね。変換をする術を知っていればこの通りさ」


 言うは易しとはこのこと。比喩表現ではなく、実際に命を削っているのが分かる。

 ただしこれはそう何度も出来る技ではないのは確かで、だからこそ短期決戦になるだろう。

 それだけのことをした以上、これまでのようにはいかないだろうというのは瞬時に理解はした。


「はや」


 理解をしたと言っても、だからといって対処出来るかと言えば話は別で。

 先程よりも増した身体能力でもって、瞬時に距離を詰められた。生命力から変換した霊力は量も質も違うということらしい。

 鬼に近い身体能力を持ちつつも鬼とは違って冷静に攻撃をしてくる。厄介どころの話ではなかった。こちらは大門先輩と戦っているような気分だ。

 訓練のお陰でどうにかして正面からの直撃は免れたものの、今度は側頭部に向けて攻撃が来る。

 反射的に腕で防御しようとしたけれど——


「甘い」


 空振ったはずの拳は、今度は僕の目の前に現れる。


「がっ」


「ぐぉ」


 喉を鷲掴みのようにして掴まれる。その直前に水球で柴井老の顔を包み込み息を出来なくさせた。

 何なら鼻やら口から目から水を潜り込ませて体内から破壊してやろうかと考えたところ、同じ考えに至ったらしい柴井老は僕から手を離して水の取り外しに注力し出した。自分の体内から霊力を噴出させて水を追い出したようだ。

 窒息で僕が気を失うのと、僕が柴井老を瀕死に追いやるのとどちらが先かという判断を瞬時に下せるのはやはり歳の功か。

 ともかく、今のは僕にとってもかなりの窮地だった。命をかなぐり捨てて落としに来られれば逃げられたか分からない。


(だから肉体派は苦手なんだ……)


 いくら身体能力が高いといってもそれはあくまで人間としてはという但し書きの上だけのこと。

 目の前の柴井老のように体術に特化した相手に有利を取れるほどの能力は僕にはない。

 それを補うべくして大門先輩に技術を習っている訳だけど、この乱戦かつ格上との戦いで十全に発揮出来るかというと不可能に近かった。

 やはり柴井老を近づけさせるべきではないと結論付ける。


「もう近づけさせませんよ」


 雨は降り続け、地面には夥しいほどの量の水が地面に滞留している。染み込んでなくなることなく延々と、その時を待っている。

 号令は簡単に。手振り一つ、意思一つでそれは起動する。


「大海嘯!」


 辺り一面に降り積もった水の全てが僕の下へ目掛けて殺到する。


「そう来ると思ったぞ」


 柴井老は気合を込めた掛け声と共に術を発動させる。

 僕と柴井老とを囲むように半球状に黒い結界のようなものが覆い、そこに濁流は殺到するけれど……。


「転移術……っ!」


「そういうことだ。これで溜めていた大半の水はなくなったな」


 これを読んでいたという柴井老は腕を組んで偉そうにふんぞり返る。

 確かにこれにはしてやられたという思いはある。溜め続けていた水がほとんどなくなってしまったのも事実で、ある意味では窮地に追いやられたのかもしれない。だけど────


「何を笑っている?」


 怪訝そうな顔で、自らの勝ちを確信していて敗者を見るような表情でこちらを見る。

 そんなこの人に僕は事実を突きつけた。


「いえ、ただ僕の力を舐めすぎでは……と」


 確かに転移術で水を移動させられた。けれど、その間も浄化の水は相手の術に触れ続けている訳で。

 削り、削り、削る。転移術の強度が下がり続け、遂には僕の浄化の力よりも劣り、力関係は逆転する。

 だから罅割れる。


「はっ!」


 転移結界術が割れると察した直後には僕に詰め寄って水が殺到しない内に倒そうとする。

 それは正しい判断だ。この後の数秒後よりも水の援護がない今の方が倒しやすいのならばそうすべきで、僕も同じ立場なら迷うことなく襲い掛かるのは間違いない。


「精細さが欠けてますよ」


 決着を焦ったからか、その一撃は見え過ぎていた。

 避けることは特段難しいことではなく、拳を冷静に観察しながら頭を必死に回転させていく。

 この結界と大量の水では前園老の狙撃は通らない。完全な一対一、相手は焦って隙を晒している。こちらは至って冷静。

 その隙もあえて晒しているものであると知っている。半端な攻撃は読まれるし、絶対に鋭く返してくる。

 ならば、狩れる。

 いつか大門先輩に言われた、勝つ為の嗅覚は特に鋭いという言葉。

 あの時の僕は大局が見えていなかったし、目的を成す為の身のこなしがただの素人だった。

 だから容易に避けられたし、反撃もされた。理想に体が追いつけなかった。

 でも、今の僕は違う。


「ぉる、あぁぁぁーーーーーっ!」


 拳に対して避けるのではなく突っ込んで行き、頬擦れ擦れで避けながら地面を蹴り上げ、柴井老の頭を両手で掴みながら思いきり下へと引き寄せ、飛び上がった慣性のままに膝を顎へと目掛けて的確に全力を込めて叩き込む。


「ぶっ!?」


 体が仰け反り、無防備になった腹へと自由落下しながら体勢を変えながら渾身の蹴りを叩き込む。

 なるべく遠くへ、なるべく起き上がるのが遅いように、容易には復帰出来ないように捩じり込みを加えながら。

 自らはその反動で反対側へと跳ねて飛んでいき、ほぼ同時にお互いに結界に破りながら地面に着地した。

 向こうは全身を地面に打ちつけて転がり、こちらは勢いを殺しながらすぐさま体勢を整えた。

 必殺と言っていい渾身の一撃でおそらくは意識を刈り取れはしただろうけれど、それを確認するよりも早く、まずは詠唱に取り掛かる。


「掛けまくも畏き伊邪那岐の大神」


 柴井老がやられてぶっ飛んできたことに驚きを隠せない前園老と、顎と腹への強い衝撃のせいで立てずに地面に伏せる柴井老。

 すぐに狙撃は再開されるけれど、攻撃の気配が読みやすい銃撃は援護なしには僕には決して当たらない。

 その程度の攻撃では僕の言葉は止まらない。


「浄界」


 気絶していたように見えた柴井老が立ち直ってこちらを見るけれどもう遅い。薄い光を纏った透明な壁が僕の周りを囲んだ。

 直後に狙撃がされるも結界はびくともしない。次に来たのは威力に重きを置いた一撃だったようで、すぐには割れないと理解したかもう追撃はなかった。


「これが例のやつか。……ふむ」


 どうやってか分からないけども、完全に回復したらしい前園老が僕の下までやってきては結界を叩く。

 僕は結界で消費した霊力回復と浄化の水での体力回復に努めているからそれに対して攻撃することはしないでおくことにした。

 更には倒れ伏したはずの柴井老がなんてことない、まるで何事もなかったかのようにこちらにやって来る。

 回復の気配はなかったけれど、これは一体どういうことか。

 こちらの視線を受けながらも柴井老は戦闘体勢を解いた状態でこちらに来て同様に結界を叩いた。


「……なるほどねぇ、外界から内部への干渉を弾くのか。転移術ならと思ったんだがなぁ」


「僕としても、その言葉を聞いて安心しました」


 結界というのは内と外を分かつもので、その境を好きに出入りすることの出来るかもしれない転移術は天敵となり得る存在だった。

 柴井老がどの程度の術士なのかは不明だけど、前園老に並び立つ程の人の言葉なら信憑性は確かだと言える。これで外から僕に直接干渉出来るような術はほぼなくなったと言っていい。

 そんな実力者が何度か強さを変えて拳で結界を殴り、蹴り、そして答えを得たように頷いた。


「威力の七割から八割が相殺されている感覚だな。しかも低威力の攻撃は完全に無効化しているようにも感じる。常に一定の割合ではないということか。では逆に高威力になればなるほど軽減率は下がるか? いや、それだけ攻撃の意思が強いということは更に削られる可能性も……」


「あの、人の目の前で研究しないで欲しいのですが……」


 攻撃する意思もないので邪魔をする気はあまりないけれど、こうまじまじと見られるのも何だかなと思う。

 この間にも攻撃することは出来るけども、今は霊力の回復に努めたい。浄罪の連続使用で大分霊力が消費されていて心許ないからだ。

 僕に指摘をされて柴井老は好々爺のようなにこやかな笑顔を浮かべた。


「いやぁ、私も初めて見るものだからついね」


「他の浄化使いの人はこういうものは使えないのですか?」


 気になることを伺いつつも、柴井老のことは意識から外していない。

 時間稼ぎをしていることは向こうも気付いているだろうけど、すぐには突破出来ないと踏んでいるからか戦闘態勢に移る気配は今のところない。

 浄罪に浄界、それと戦闘中のものも含めれば結構な消費をしてしまった。

 回復はすぐには出来るから向こうとの霊力差はこれで更に出来るはずだ。


「似たようなものを使うところはあるよ。例えば土使いなんかも土地に干渉して結界を張ることが出来る……とは言っても、三日三晩の祈祷と精神集中の果てにようやく発動が出来るといったもののようなんだけど」


「あまり実用的ではありませんね」


「今の基準で言うとそうだね。ただね、昔には占い師が多くいたらしいんだ。事前に結界を貼る場所と規模を予測しておいて発動していたから問題はなかったみたいだよ。それに今と違ってそこまで未来の変動が激しくないから問題なかったとも聞いたことがあるね」


「未来の変動ですか。昔との時代の差からして、携帯端末と馬の違いとかですか?」


「そういうこと。昔は事件が起こっても遠くの人に助けなんかそうそう呼べなかったし、呼べたとしても往復するのに時間が掛かる。もし来たとしても既に事が終わっていることが多かったという記述もあったね。だから昔では未来視したものと起こり得る事象に大きな差はなかったということさ。占い師としては今の時代の方がやりにくいだろうけどもね」


 今の時代は遠くに行くには飛行機があるし、陸路は舗装されていて車は馬よりも速く長く走ることが出来る。

 確かにそう考えると二日後に何かがあると予言されてから動いても今の時代では迅速に対処は可能だ。そもそもの価値観が違うということだろう。


「他の浄化使いも似たようなものさ。結界を張るのにどんなに早くても一日程度は掛かるし、発動までの時間を短縮しようとすればその分だけ耐久度や性能は落ちる。それだけ、君の作る結界の性能が段違いということになるんだけど。そこで質問だ!」


「何でしょうか」


「他の浄化使いと同様に大量の時間を使ってこの結界を構築した場合、どの程度まで範囲を広げられる?」


 その質問のことは僕も考えたことがない訳ではない。

 範囲を広げられれば遠くの妖怪も巻き込めることが出来るし、そうなれば他の退魔師を助けるということも出来るだろうから。


「やったことがないので分かりませんが、大蓮寺家の書物には町一つは囲ったという記述がありました。ですが、今と昔では町の規模に対する認識も違うので正確な範囲までは分かりません」


「ふむ。では君自身としてはどれくらいまではいけると思う?」


「質問の意図が分かりかねますが……」


「ただの興味本位だよ。老い先短い身の娯楽だと思って教えてくれないか」


「こちらの質問にも答えてくれるのなら」


「いいとも。何か聞きたいことがあるのかな? まずはそちらからで構わないよ」


 時間稼ぎと情報収集を兼ねて提案したのだけど、案外すんなり通って返って不気味だった。

 とはいえこれは好機でもある。向こうが何を考えているのか分からないならば問い質す以外にない。幸いにも僕には嘘を看破から能力があるのだから活用しない手はない。


「では先に僕の方から質問しますが、どうしてここまで急いで僕の身を狙うのですか? いくら何でも、僕一人に対して過剰に反応し過ぎだと思うのですが」


 まずは一番聞きたかったことを問う。

 ハッキリ言って今の状況は異常だ。結婚結婚と煩いのもそうだけど、この二人がわざわざ出張って来るのはやり過ぎ以外のなにものでもない。

 こんな対応の仕方では逆に拒否反応が出てしまうかもしれないというのに、それを解らない二人ではないはずだ。

 質問を聞いてから柴井老は少し考え込む。そして真剣味を帯びた顔で口にする。


「時間がないからだ。君の心と体の成長をじっくりと待つには我々には残された時間が圧倒的に足りない」


「それは……」


「次は君の番だよ」


 質問には答えたぞ、と。更に深く知りたいのならまずは質問に答えろということか。


「まずやったことがないので推測にはなりますが」


「それで構わない」


 向こうが嘘を吐いていないというのなら、こちらも嘘は吐けない。

 でなければこのやり取りがそもそも意味のないものになるから。


「……範囲を広げるだけなら街をいくつか、例えば僕の担当する地域を三つか四つ分くらいは囲うことが出来ると思います。それ以上に関しては試してみないと分かりません」


 練習をした範囲では実際に街にまで広げてみたものの、それ以上に関しては霊具の製作に当てる霊力との関係上研究に時間を費やすことは出来なかった。それでもやっていたとしたら、結界の範囲を更には広げるくらいのことは出来たはずだ。

 その分だけ初日も激しいだろうから出来たとしてもやるかどうかは分からないけども。


「具体的な数字は測ってみないと分からないか。ちなみに頑張ればそれ以上に広げることは出来そうかい?」


「時間がないというのはどういう意味ですか?」


 先程のお返しだと質問をぶった切った僕に柴井老は苦笑交じりに答える。


「子供たちから聞いてはいないかい? もう直ぐ退魔師に二人一組での活動を義務付ける法令が課されることを」


 頷いて先を促す。


「それは何も君が特別に狙われているからじゃあない。全国的に予測される妖怪の等級が不安定になりつつある。この状況を有識者たちは予兆と捕えていてね。この異常は、言わば敵情視察といったところらしい」


「どこにどんな退魔師がいて、どの程度の戦力をぶつければいいか測っていると?」


「そういうことだね。それらの調査が完了し次第こちらに攻め入って来る可能性が高い、と戦略予想家たちは見ている。占い師たちにもその時期を特定するようお願いはしているんだけど、どうも今は正確な未来が予測しにくい状態にあるらしい」


 似たようなことを先程文奈さんが言っていたような気がする。


「それらを踏まえて質問に答えると、先般起きた侵攻が可愛く思えるほどの規模の大侵攻がやって来る可能性が高い。その時の備えを一刻でも早く仕上げる為に我々はここに来ていると言っても過言ではない」


「その備えというのが僕ということですか」


 質問には答えず、柴井老はにっこりと微笑む。


「さて、次の君の質問でお終いとすることにしよう。その前に私の質問だが……そうだな、今の胸囲っていくつ?」


「は? 頭から毛髪と一緒に脳みそまで抜けていってしまったんですか?」


 どうでもいい質問過ぎて目上の人だとか、偉い立場の人だということを忘れてつい口に出てしまった。

 でも後悔はない。何せ質問の内容が内容だ。

 途端にエロ爺となった柴井老は僕の胸元に視線を漂わせる。隠す気もない清々しい程に屑の所業だった。


「ほほう、雨で濡れたお陰で下着が透けて見えるじゃないか。そのせいで服がぴっちりとくっついているから健康的な肢体が丸分かりだ。その大きさ、見たところ八十二~八十四といったところかな? いやいやいやはや、最近の若い者というのは発育がよろしくて大変羨ましいよ。私の学生の頃合いはね、もっと慎ましやかな子が多かったから。君の同級生は気が気じゃないのではなかろうね。まだ高校一年生だというのにこれでは将来的にどうなるか楽しみが過ぎるというものだしね。ふっふっふ……ふふふふふふふ、グフフフフ」


 気持ち悪い、と口から出なかっただけ僕を褒めていいはずだ。

 見られて嬉しくなる趣味なんてないので腕で胸を隠してはいるけれど、その上からでも纏わり付くような視線は今まで感じたことがないくらいに不快だった。


「いいねぇ! その仕草はぐっとくるものがあるよ。やはり女の子に必要なのは恥じらいだよねぇ」


 ここまで露骨に性欲丸出しの欲望をぶつけられたのは初めてのことかもしれない。同年代の男たちは一応は悪いと思って隠そう視線を外す努力をしているためか、そういう感情が途切れ途切れに感じることはあるけれど。

 ここまで来るといっそ清々しいとすら感じる。

 柴井老は結界の周りをぐるぐると周りながら僕の体を舐め回すように観察して。


「おっほ」


 目を細めて鼻の下を伸ばし、変な声で歓喜を表現していた。

 もう片方の前園老の方を見てみると、何やら残念なものを見るように柴井老のことを見ていて。僕の視線に気付いた後、前園老は静かに引き金を引いた。




続きが気になると思うので明日も更新します

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「いいねぇ! その仕草はぐっとくるものがあるよ。やはり女の子に必要なのは恥じらいだよねぇ」 そこだけは共感できる……TSっ娘の恥じらいほど美味しいものはない。
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