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異世界無双は許さない  作者: 狩人
第一章 過酷な地、無常なる世界
5/6

魔術

と言う事で、やってきました! 実験室! 物騒な名前ですが、なんとここで魔術の訓練ができるそうなんですよね!


「なんですよね! モナさん!」


「なんダイいきなり。そんなに魔術ガ使いたかったのカイ?」


それはもちろんYESだ。ビジュアル系ロックバンドのヘッドバンキングを彷彿とさせるくらい頭を縦に振った。生前、何度夢に見たことか。魔術が使えたら、魔法使いだったら、異世界に転生したら。

この世界はそういう妄想を叶えられるいい場所だ。やる気なんて満ち満ちて溢れている。


「おー、なかなかのやる気ダネ。でも魔術は、便利な一方デ使い方を間違えるト簡単に人を殺せてしまう、危険なものダ。やる気があるのはいいことダケド、興奮シテ調子に乗ってはいけないヨ」


自動車と一緒。前の世界ではそうやって毎日のように事故のニュースが流れていた。

事故、それは誰も幸せにならない出来事だ。加害者も被害者も、幸せな日常が失われる。悲惨だ。

俺は、逸る気持ちを理性で押さえつけ、気を引き締めた。


「……分かりました!」


「それと、これからワタシは君二魔術を教えるンダ。相応の呼び方があるんじゃないカイ?」


「はい! モナ先生」


「ウン、良い響きダ」


先生。まだ一年前のことなのにすごく懐かしい響きだ。


「それじゃまずハ君の魔術適正ヲ見るために、初級魔術を色々使ってミヨウ!」


そう言いながら手に持っていた魔導書、確か『初級魔術の心得』を開く。


「どれカラ使ってミタイ?」


差しだされた魔導書には魔術の属性や系統なんかが記されていた。

とりあえず俺は王道の炎属性の初級魔術を指さす。


炎弾(ファイアボール)ネ。本に書いてアル式句を声に出して読むと使えるカラ、的に向かって撃ってミテ」


的? と思っていると、バスケットゴールも床の模様もない体育館みたいな何もない空間に突然、ズガガガガがという音と共に案山子のようなものができる。


「これも魔術なの?」


物体創造(クリエイト)っていう初級魔術ダヨ」


「すごい!」


「訓練すれば君にダッテ使えるサ」


まるで職人が何時間もかけて作ったかのような出来の案山子。本当に初級魔術かと疑ってしまうほどの出来に思わず見とれてしまった。


「さァ、撃ってミテ」


魔導書には中二病と言われそうな言葉の数々が並んでいた。

アニメで見たように、右手を前にかざし、それっぽい感じに詠唱をする。


「炎の精霊よ 我が魔を喰らいて 炎の弾を撃ち放て! 炎弾(ファイアボール)!!」


完了すると同時にかざした右手の前に炎の弾が形成され、手のひらより一回り大きくなったところで前方に飛んで行った。案山子に当たった炎の弾は、バーン! とはじけ飛んで消えた。


「初めてにしてハ筋が良いネ! 次、いってミヨウ!」



⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯



「どうダイ、初めて魔術を使った感想ハ」


「楽しいです!」


「それは良かっタ」


まるで小学生の読書感想文みたいな薄っぺらい感想だが、実際あーだこーだと言った感想が出ないほどただ楽しかった。人間、本当に楽しい時はIQが低くなるようだ。


「…………遅れました。もうやりましたか?」


死亡フラグをへし折ってやってきたカームの手はサンドイッチで埋まっていた。途端にお腹が鳴る。


「意外と才能が有りそうダヨ」


「そうですか。ローラン、楽しかったですか?」


「うん!」


満面の笑みで、さながら子供のようにそう答えた。


「それはよかったです」


「フローラは氷の魔術に適正があるようダネ」


「そうなの?」


「ウン、一番きれいに出来てたヨ」


「……ふむ。お昼にする前に、一度私に見せてもらってもいいですか?」


言われた通り氷の魔術について書いてあるページを開いて、さっきと同じ様に右手を前にかざし詠唱を始める。


「氷の精霊よ 我が魔を喰らいて 氷の槍を撃ち放て! 氷槍(アイススピア)!!」


詠唱完了と共に十センチくらいの氷の槍が一つ形成され、案山子に向かって飛んで行った。

槍は土でできた案山子に当たると粉々に砕け散った。当たった場所は少し欠けている。


「初めてとは思えない、良い筋です。…………それにしても……」


「何か気になることでもアッタ?」


「はい。でもそれはお昼を食べながら話すことにしましょう」


そう言うとモナと同じ様に物体創造(クリエイト)を使うと、テーブルと三つの椅子が瞬時に出来上がった。


「食べやすいようにと、サンドイッチを貰ってきました。どうぞ、好きなのを選んでください」


「やったー! ありがとう! そしていただきます!」


パッと見美味しそうなものを三つ選んで頬張る。うん、美味しい。中身は…………何か分からない肉と何か分からない野菜と何か分からないソースが入っていて実に美味しい。特にこのよく分からないソース、甘辛くて美味しい。もっきゅっもっきゅと咀嚼して、ごっくんと音を鳴らして飲み込んで、また次を頬張る。おっと、あんまり急いで食べたらいけない。子供のころそれで餅をのどに詰まらせて死にかけたのだ。適度に水を飲みながらサンドイッチを食べた。

ある程度食べたところでモナが口を開く。


「ところでカーム、気になったことって何ダイ?」


「あ、はい。ローラン、疲れはありませんか?」


「まったく」


むしろ元気いっぱいだ。今ならばい菌だって殴り飛ばせそうだ。


「では、魔術を使ってる最中、何か体に不調が起きたりはしませんでしたか?」


「……まったく?」


「どういうコト?」


「モナさん、彼は人間です」


「それは確かにそうダケド…………いや、そういうことカ!」


二人は何かに気が付いたようだが、当の本人たる俺はまったく分からない。俺が人間だと言う事を再確認して何がわかるというのか、一切想像できない。


「何がそういうことなの?」


「そうですね、そのことについて説明するために、まず魔族と人間について話しましょう。ローランは魔族についてどれくらい知っていますか?」


「…………えっと、なんか強そうで角とか尻尾とか生えてる、くらいしか」


「そうです。魔族はあなたのような人間とは少し違います。例えば私はハイエルフの長耳族。名前の通り耳が長くとがっています。モナさんはファミリア・バニーの兎族。大きな耳や尻尾があります。ヴェロナさんはフロストバーンで龍族です。額に二本の角、鳥類のように毛で覆われていない翼、爬虫類のような尻尾を持っています。

このように魔族には多種多様な人間とは違う特徴を持っています。ではローラン、魔族の基準とは何だと思いますか?」


基準、条件と言うことだろうか。例えば哺乳類なら有性生殖を行い、お腹の中である程度まで育てて、生まれた後は母親の乳で育てる。みたいな感じか?

その線で行くなら…………


「……魔力を持ってる、とか?」


「素晴らしい考察力、正解です。

詳しく説明すると、魔族とは魔力を体内に有する、高い知性を持った人間以外の生物を指します。

また魔力を持たない知性の高い者たちを亜人と呼んだり、魔力の有無にかかわらず知性のない、あるいは低いものを魔物やモンスターと呼んだりしますが、今はいいでしょう。

さて魔族については説明しましたがでは人間はどうだと思いますか?」


「哺乳類の仲間……とか」


「そうですね、私たちも人間について知っていることはそれほど多くありません。それはあなたが魔族について知らなかったのと同じ理由、そう、人間について書かれた文献がないのです。正確には二、三冊ほどありますが、それには多くのことが書いていません。

それによると人間は亜人と同じように魔力を持っていることがないそうです。魔族の場合は、生まれた瞬間から体内に魔力を持っています。魔力は魔術の発動に必要なもの。しかしそれを持っていない亜人は魔術の発動に空気中に存在する魔力、マナを使用しますが、この時発動のプロセスや詠唱の式句が若干異なるのです」


「…………えっと、つまり?」


「フローラは人間デ魔力を持っていないはずナノニ、魔族と同じ式句デ魔術を使えるのか、ということダロ?」


「ええ。長々と喋ってしまいましたがそう言う事です。まぁ先ほども言いましたが私たちが人間について知っていることは多くありません。それにローランは一歳とは思えないほどの成長スピードです。何かまだ私たちには知らない法則が働いているのかもしれませんが、そういう疑問を晴らすのが研究者の仕事であり、仕事柄小さなことにも気になってしまうものです」


そう言ったカームはコップになみなみと入った水一息に飲み干した。


「……カームも言ってたけどサ、フローラは成長が早いよネ。魔族なら分かるケド、人間もそうなのカナ?」


「どうなんでしょう。そうだと言い切るには対象がローランしかいませんからね」


「それなら人間に聞いてみればいいんじゃない?」


「それは多分無理ダヨ」


「あー、近くに人間がいないから?」


「ウン、まぁそういうコトではあるんだけどネ。もっと言うとこの世界、私たちがいるこの城塞都市キャメロット以外、国って存在しないんダヨネ」




もっとガッツリ魔術の描写を入れるつもりだったのに……。


モナやカームが詠唱無しで魔術を使えているのは無詠唱と呼ばれる技術を行使しているからです。正直詠唱した方が書きやすいし面白いし、考えるの楽しい。

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