死亡
かつて、グリモワールと呼ばれた少女がいた
少女はたった一人、この世界が生み出した膿と戦いながら、住む場所を作っていた
いつかまた、行き交う人々で賑わうようにと願いながら
しかし際限なく生まれる膿は、無情にも悉くを破壊した
それでも少女は諦めなった
幾度辛酸を舐めようとも
幾度努力を否定されても
何度だって立ち上がり少し、また少しと努力を積み重ねた
大きな進展があったのは数十年後のことである
少女の周りには数人の人がいた
地道な努力が実を結び、少人数が暮らせる場所を作ることに成功したのだ
少女は歓喜した
自分の努力が間違っていなかったことに
自分以外の人がいることに
だがそれは守る者が出来たと言う事でもあった
少女はそのことを胸に刻みその者たちと、より一層の努力を重ねた
「それから数百年、かつて一人の少女がいた場所には立派な国が作られ、グリモワールは初代皇帝として君臨したのでした。……その国が今私たちがいる場所、城塞都市キャメロット。現在はアルベルトが皇帝をしている」
ふと天井を見上げると、見知った自室の天井ではなく、古き良き日本家屋的温かみのある木材でもなく、きらびやかな装飾が映える中世ヨーロッパのような天井であり、壁とセットで撮るだけで一個の美術作品になってしまいそうな景色だ。
さらにさっきから読み聞かせを敢行している女性は親ではなくまた古き良き日本の旅館にいる美人な女将さんでもない。
その女性、あるいは女の子と言った方が適切なくらい幼く見える人は、純正の人間ではない。なぜなら頭からは控えめな二本の角、背中には鳥類とは違う翼、お尻からは爬虫類に似た大きな尻尾が生えている。
紛うことなき龍である。
おまけに俺は女子生徒から黄色い歓声を浴びた筋肉モリモリマッチョマン(自称)などではなく身長百センチメートルにも満たない小さなガキンチョである。
どうしてこんなことになったのか、龍女の話を右耳から左耳に垂れ流しながら、ひんやりすべすべな太ももに顔をうずめながら考える。
「…………ぁ」
うん、気持ちいい。
……六月十三日、そう六月十三日が悪いのだ。
思えばあの日、たまたま好きな小説と好きな漫画と好きなゲームの発売日が被っていたことがすべての元凶なのだ。
朝起きてそのことに気が付いた俺は、意気揚々と正当な理由で学校を休み、近くのショッピングモールまで走った。途中、同じ制服を着た女子生徒が複数の男に囲まれているのをわき目に走った。オタサーの姫か、と思いながら。
近道と称して人ひとり通れるか怪しい裏路地を通り抜け、いざ到着と思ったら財布を忘れたことに気が付いた。仕方なく来た道を引き返し、女子生徒の視線を避けて走っていたら隣からズドン。一瞬FPSゲームにたまにいる角待ちショットガンにやられたのかと思ったがそんなわけはなく、車に轢かれたのだった。
車と言っても種類は様々で自動車はもちろん、原付きも車だし自転車、人力車、馬車だって分類上は車である。そのため例えば突っ込んできたのが農業用のトラクターであったならば轢かれて死ぬことはもちろん、ショック死することなんてない。
だがしかしこころぴょんぴょん気分ルンルンな俺のところに突っ込んできたのは暴走したタンクローリーであった。当たり前だがタンクローリーに人が勝てる訳もなく吹き飛ばされた。そこで死ななかったのは奇跡と言えよう。とはいえ暴れ馬が人にぶつかっただけで止まることもなく、再度突っ込んできたタンクローリーに踏みつぶされた挙句爆発に巻きこまれ木端微塵に、跡形も残さず爆発四散した。
うむ、いつ振り返ってもひどい死因だがそれはもうニ年前の話である。今重要なのはなぜ死んだはずの俺が生きているかと言う事だ。まぁ異世界転生をしたのは火を見るよりも明らかではあるが現状の整理は大事だなと、添い寝をしてくれている龍女のひんやりもちもちのお腹に抱き着きながら考えることにした。
「……………………ぁ」
次回はたぶんいっぱい人と名前が出てくると思います。
またバトルをメインにしたいのでそこまでは駆け足でテンポ重視で進めていきたいと思いますががあくまで予定なので悪しからず