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⑨⑥


「スティーブン様?」



スティーブンの表情は見えないが、心配してくれているのだと思った。

セレニティは体を起こしてスティーブンを見上げる。

彼の視線は先ほどまでジェシーに握られて赤くなった手首へと向けられている。



「……痛むか?」


「いいえ、大丈夫ですわ」


「遅くなってすまない」


「スティーブン様が助けてくださったではありませんか」



セレニティがそう言って微笑むと、スティーブンの表情がやっと緩んだような気がした。



「手当てしよう」


「このくらい大したことありませんわ」


「いや、このままではいけない。それに今日は一人にならない方がいい。もし可能であれば俺がついていけない場所は誰かと行動して助けを求めたほうが……」


「もう大丈夫だと思いますが」


「いや、だが万が一ということもある。白百合騎士団の者たちに協力を求めよう。それに帰ったら母に報告する。それからシャリナ子爵にもだ」


「……スティーブン様」


「また君が危険な目にあうのは嫌だ」



久しぶりに見るスティーブンの過保護モードである。

こうなってしまうとセレニティが何を言っても無駄だろう。

マリアナと同じく、昔からセレニティを心配してくれている。

マリアナにもこのことを報告すれば、またセレニティに対して過保護になるだろう。


マルク邸で暮らし始めて一年以上経過している。

その間、スティーブン達の気遣いもあるのだろうが、ジェシーが近づいてくることはなかったのにここにきての接触。


(お父様が養子を迎えること、ジェシーお姉様の年齢のことも含めて焦っているのかしら……)


ジェシーはスティーブンと同じで二十歳になった。

そろそろ嫁ぎ先も狭まってくるだろう。


(何もないといいのだけれど……)


トリシャとハーモニーを祝うこの場で、このようなことが起こるのは残念に思えた。

セレニティを心配そうなスティーブンに「わたくしは大丈夫ですから」と言って、会場に戻ろうと促した。



「今日はお祝いの場ですから!行きましょう、スティーブン様」


「だが……」



セレニティはスティーブンの手を取り会場に戻る。

幸せそうなハーモニーとトリシャの姿を見たいと思ったからだ。

セレニティは振り返ることなく前に進んだ。



「覚悟なさい……!絶対に渡さないんだから」



その声はセレニティに届くことはなかった。



* * *



パーティーは無事に終わり、セレニティはスティーブンにこの後、四人で集まることを伝えてブレンダから渡された紙に書いてある部屋へと向かう。

街で買ったプレゼントを両手に持って歩いていたのだが、ジェシーがいないか確認していた。

ここには護衛がいて貴族たちも許可なく入れない場所だ。

しかしスティーブンはジェシーがセレニティを追い回すのではと最後まで心配していたが、大丈夫だと説得しつつここまで辿り着く。


(確か、この辺りだったと記憶しているんだけど……あ、あったわ!)


その空き部屋はブレンダの休憩室になっているようだった。

セレニティに気づいた護衛が部屋の扉をノックする。

トリシャの返事と共に扉が開いた。


そこにはトリシャ、ハーモニー、ブレンダの姿があった。

セレニティは部屋の中に入ると荷物をその場に置いて、トリシャとハーモニーに思いきり抱きついた。

ブレンダはその様子を見つめて微笑んでいる。



「来てくれてありがとう。セレニティ」


「トリシャお姉様っ」


「この国で、こうして四人で話せるのはきっと最後になってしまうから……」



〝最後〟という言葉がセレニティの心を抉る。

今日はソフィーの言葉を胸に、ずっと我慢して泣くのを堪えていたのだが今になって涙が溢れそうになってしまう。


(笑顔、笑顔よ!わたくしが泣いたらダメよ)


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― 新着の感想 ―
[一言] 心配だけどいざとなったら自分で何とかできる実力があるからってことだよね。
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