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⑥③



「スティーブン様は優しい方ですから心が痛むのでしょう。けれど無理ばかりしては体調を崩してしまいますわ」


「…………!」


「辛い時は周りに頼ってくださいませ。わたくしも微力ながら、お手伝いいたしますわ。いつもスティーブン様に助けていただいているんですもの」


「……ありがとう。セレニティ」


「はい!」



はにかむように笑ったスティーブンは少しだけ表情が明るくなったように見えた。

いつもと立場が逆転しているが、いつだって完璧な彼の弱い部分があるのだと思って安心していた。


そして学園での話を聞きながら廊下を歩いていた。

ナイジェルにも「早く婚約者を作れよ」と言われたのだそうだ。



「スティーブン様は気になる御令嬢はいらっしゃらないのですか」


「……それは」



スティーブンのバイオレットの瞳がこちらを見ている。

顔が真っ赤になったと思いきや、すぐに視線が逸らされてしまった。


(ふふっ、スティーブン様は恥ずかしがり屋なのね)


スティーブンは話を逸らすようにセレニティに話題を振った。



「セレニティこそ、どうだろうか?」


「そうですねぇ……仲のいい令息はおりますが、なかなかそういう関係にはならなくて」


「そうか」


「はい」



スティーブンが足を止めたことを不思議に思い、セレニティは振り返った。



「スティーブン様、どうかされましたか?」


「俺は…………好意を寄せている人がいるんだ」


「え……?」



思わぬスティーブンの言葉にセレニティは目を見開いた。

言葉の意味を考えると何故か胸の辺りがチクチクと痛い。

しかしセレニティはすぐに表情を取り繕っていて問いかける。



「スティーブン様が好きな方はどんな方なのでしょうか?」


「危なっかしい、目が離せないんだ……俺が守ってあげられたらと思っている」


「そう、なのですね」



セレニティは懸命に口角を上げながら話を聞いていた。



「いつも一生懸命、頑張っているんだ。よく笑い、周囲を気遣い、素直で優しい彼女の姿を尊敬して……っ、すまない、その」



スティーブンが口元を隠すように手のひらで覆う。

カーッと赤くなる頬を見て、どうすればいいかわからなくなった。

慌てるスティーブンを見て「応援しています」そう言いたいのにその言葉が言えなかった。



「お気持ちは伝えないのですか?」


「彼女は今、自由を楽しんでいる。俺が足枷になるわけにはいかない」



いつも自分の意見をはっきり言うイメージがあるスティーブンだが、その女性に対する気持ちや本気度が窺える。

だが、スティーブンに何かを伝えるとするならばこれだろう。



「わたくしはスティーブン様のお気持ちをハッキリと伝えた方がいいと思いますわ!」


「…………!」


「お気持ちを胸の内にずっとしまっておいたままでいいのですか?相手に何も伝えられないまま、後悔しないと言いきれますか?」



スティーブンはセレニティを見て、バイオレットの瞳を大きく見開いている。



「だが、気持ちを伝えて相手の負担になった場合はどうする?苦しませたり、悩ませて、自由を奪い、悲しませてしまうことになってしまったら……?」



相手は誰かはわからないがスティーブンは立場ゆえの悩みもあるのだろう。

しかし我慢してセレニティになる前までは気遣い続ける日々を送っていたからか彼の気持ちを理解できる。

だが、こうして夢を叶えていくうちにわかったこともある。



「聞いてみなければ、相手がどう思っているかわからないではありませんか。それに失敗から多くを学び、次に進めたら成長できますから」



スティーブンはセレニティの言葉に頷きつつも寂しそうな顔をしている。

やはりセレニティにはまだよくわからないが恋心は難しいようだ。

簡単に諦められない……だからこそ臆病になってしまうのだろう。


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