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⑥①


「ですがわたくしは……っ」


「まさか……ワシや我々騎士団の実力を疑っているのか?」


「違います!」



低くなるネルバー公爵の声と圧は恐ろしく感じた。

やはり日々鍛えていたり、騎士達を率いる立場として騎士団に自信があるのだろう。


しかしずっと生死の瀬戸際を彷徨いつつ、病気と戦っていた桃華はその記憶から命の大切さを噛み締めていた。

誰もが自分がすぐに命を落とすはずがないと思っている。

だけど終わりは突然やってくるのだ。


だけどここで引いてしまえばセレニティは一生後悔してしまうだろう。

胸元で震える手をギュッと握りしめた。

これ以上どう言えばいいのかいい言葉が思い浮かばない。

俯いたセレニティは髪を耳に掛けようとして手を止めた。

傷に触れてあることを思い出す。


(もしかしたら怒られてしまうかもしれない。騎士団をクビに

なるかもしれない。でも一か八かで言ってみましょう)


セレニティは覚悟を決めて顔を上げた。



「わたくしの顔の傷は医師がすぐに適切な処置をしてくれたおかげでこの程度の傷で済んだと思っております」


「…………!」



その言葉にネルバー公爵は大きく目を見開いている。

しかし直ぐに怒りを露わにしているような気がしていた。

セレニティが怪我をしたきっかけはスティーブンが間接的に関わっている。

そのことを公爵に直接伝えれば気分はよくないだろう。


(でもネルバー公爵のためにはこれしかないわ……!)



「つまり何が言いたいかと言いますと、騎士の皆様が実力があるのはわたくしも間近で見て知っています。ですが、どんなタイミングで人が命を落とすのかは誰にもわかりませんし、どれだけ鍛えていても病にはなりますわ。気をつけて用心することで変わる未来があると思うのです!」


「…………」


「わたくしは幸いにも医師が直ぐに対処してくださいました。それにスティーブン様やブレンダ様、ハーモニー様、トリシャ王女、ナイジェル殿下がいつも側にいてわたくしを支えてくださいました。ですがこのような思いで苦しむ方がいると思うと居ても立っても居られないのです……!」



そう言ってセレニティはまだ痕が残る左頬を撫でた。

これならばセレニティの気持ちが伝わるだろうと思った。

今は無垢な子供のふりをして懸命に訴えかけた。

これくらいは不敬にならないだろうと怯えつつもネルバー公爵の様子をチラリと確認する。

無言の空間に心臓はドクドクと大きな音を立てた。


セレニティになったとしても剣の天才でもなければ、特別な力を持っていない。

あるのは少しの知識だけだ。

まだまだ人を守れるほど強くないことは自分でよくわかっている。

それでも自分ができることをと行き着いた結果がこれであった。


(ネルバー公爵本人に直接、気をつけてもらったなら)


そんな時、スティーブンが学園から帰宅したのか制服を着て疲れた顔でこちらを見ると大きく目を見開いている。



「セレニティ……?」


「スティーブン様、おかえりなさいませ」



スティーブンはカバンを執事に預けると、慌てた様子でこちらにやってくる。

そしてネルバー公爵から庇うようにセレニティの前に出た。



「スティーブン、何のつもりだ」



ネルバー公爵のその問いに、スティーブンは怯むことなく真っ直ぐ見つめている。

セレニティはピリピリとした雰囲気を感じてスティーブンの袖を引いた。



「お気遣いありがとうございます、スティーブン様。ですがネルバー公爵に話を聞いてもらおうと引き止めたのはわたくしなのですわ」


「セレニティが……?」


「明後日に控える式典についてなのですが……」



そう言って先程のセレニティの提言の内容をスティーブンに話していく。

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