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④⑨



もうセレニティに対して、スティーブンについてのマウントを取ることもない。

それよりも、どうすればスティーブンに近づけるか、周りの令嬢達を出し抜けるのかということに全力を注いでいるようだ。

自分の見た目に磨きをかけているようだが、明らかにおかしい方向に行っている気がするのに、両親が止める様子はない。

そしてスティーブンが振り向いてくれることもない。


一度、セレニティに差し入れという形でネルバー公爵邸を訪れたことがあった。

もちろんスティーブンに会うためだが、騎士の訓練に圧倒されて「野蛮だわ」と口にしてしまい、自分の首を絞めることとなる。

騎士達からも睨まれ、白百合騎士団にも刺すような視線を送られて居心地が悪い思いをしたのに、結局スティーブンに会えずじまいで、ジェシーはそれ以来訓練についてくることはなくなった。


相変わらずブレンダ、トリシャ、ハーモニーには全力で可愛がられているセレニティは自然な流れでナイジェルとも仲良くなり、スティーブンとも相変わらず友人のような良好な関係を保っている。


ネルバー公爵邸では幸せなセレニティだったのだが、彼らがいないお茶会やパーティーに参加するようになると、同じ年齢の令嬢達からなかなかに辛辣な対応を受けることになる。

噂はセレニティが知らない間に大きく膨らみ、そして様々な恩恵は大きな嫉妬も呼び寄せてしまう。



「まぁ……傷を使ってネルバー公爵家に取り入ろうとははしたない」


「あの傷、醜いわ」


「本当、見ていられない。トリシャ王女やブレンダ様にもいい顔しているらしいしね」


「騎士の真似事をしているらしいけど、もう結婚は諦めたんじゃない?」



顔の傷もそうであるが、騎士としての訓練をしているせいかセレニティは令嬢としては欠陥品に見られているようだ。

ハーモニーのように公爵家出身で王女の護衛を任されるレベルになれば違うのだろうが、セレニティのようにまだまだ新米で実績もなく子爵家出身となれば厳しい目で見られてしまう。


(致し方ないことですわよね……まぁ、全然構わないんですけれど)


色々な噂が飛び交っているようでセレニティは同世代の中では完全に浮いた存在になってしまったようだ。

そして当然のことながら令息達との距離も遠い。

これでは婚約者どころか恋をすることもできないだろうが、セレニティが十歳前後の少年に恋をすることもない。

そこで初めてスティーブンと他の令息達の違いを知ったくらいだ。

スティーブンやナイジェルが飛び抜けて大人びていて品位があることに改めて気づかされた。


セレニティは貼り付けた笑顔を作ったままパーティーを過ごしていた。

これはこれで色々な人を観察できて勉強になるからだ。


それでもセレニティに何人かの令息や令嬢達が話しかけてくる。

「お前が可哀想だから俺が一緒にいてやらないこともない。感謝しろ」

「大人しくしているのなら僕の家に招待してやってもいい!」

「一緒にいてあげるからハーモニー様やスティーブン様にわたくしの素晴らしさを伝えなさいっ」

「お母様があなたと仲良くしなさいって言うから……」

一部の賢い家の当主達はセレニティと親しくなるように指示を出している。

その理由もセレニティに筒抜けでは何も意味もないだろうが。


心ない言葉は慣れたもので、セレニティは適当にあしらっていた。

そうすれば「なんだよ、偉そうに」「信じられないわ」と言って令嬢や令息達は去っていく。

嫌な思いはしたがセレニティの心が折れることはなかった。

むしろ体を動かす喜びと自身の成長は自信に繋がっていく。


(いつかわたくしも強くなって、誰かを救う存在でありたいわ)


皆に助けられて生きていたからこそ、強くそう思うのだ。


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