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②①


セレニティはマリアナに言われた通り、部屋に戻ろうとした時だった。



「セレニティ、いいかしら?」



急いで追いかけてきたからかジェシーは肩を揺らしている。



「あら、ジェシーお姉様。どうかされましたか?」


「本当にその顔でスティーブン様に会うつもり?」


「えぇ、謝罪をしたいとのことでしたから」


「セレニティ、鏡を見てからよく考えた方がいいわ」


「どういう意味でしょうか?」



ジェシーの言葉にセレニティは首を傾げた。

グッと唇を噛んだジェシーに対してセレニティは笑顔を崩さない。


(ジェシーお姉様は随分と必死なのね。スティーブン様に会わせたくないなにか他に理由でもあるのかしら)


物語ならまだまだセレニティは部屋に閉じこもっていた。

ジェシーに励まされていると思っていたが、本当はスティーブンに会わせないようにしていたのだとしたら腑に落ちる部分がある。

『無理しなくていいのよ?』

『このままでいればいいの。大丈夫』

セレニティにとって甘い言葉はジェシーにとっても都合が良かった。


それが自分の思い通りにならなくなった。

だからセレニティを引き止めようと必死なのだろうか。



「だ、だって包帯でぐるぐる巻きよ?顔だってまだまだ腫れていて……わたくしだったらそんな状態でスティーブン様の前に出られないわ」


「そうかしら?」


「考え直した方がいいわ!絶対にっ」


「ふふっ、お気遣いありがとうございます。ですが予定を変えるつもりはありませんわ」


「……っ」



ニッコリと笑いながらジェシーにそう告げると、彼女は手を握り込んで震えている。

話は終わりかと思い、背を向けると後ろからすごい力で肩を掴まれる。

ジェシーがセレニティの耳元で小声で呟いたのは予想通りの言葉だった。



「……そんな汚い顔をスティーブン様に見せるんじゃないって言っているのよッ!」



皮膚に食い込む爪、血走った目を見ながらもセレニティは表情を崩さなかった。


(あらあら……随分と簡単に本性をお見せになるのね)


小説の中でもジェシーには短慮で欲望に忠実な性格だと思っていたが、こうして間近で体感してしまえば、なんとも言えない気持ちになった。


(こんな風に曝け出してしまえば弱味を握ってくださいと言っているものだけど……大丈夫なのかしら)


セレニティは心が弱っていて、ジェシーの悪意に気がつかなかったのだろう。

しかし桃華もセレニティになる前に、この手の人間とはたくさん戦ってきた。


(どこにいたって同じね……こんな風にしか考えられない人を見ると窮屈で息苦しいわ)


資産を狙うためだけの道具にしようとする者、父と母に媚を売り利用しようとする者。

表向きでは病を憐んで不幸を喜ぶ者、友人のふりをして搾取しようとする者。

幼い頃から騙されて傷つきながら戦ってきた。


ベッドの上で知識をつけて対抗できるようになる頃には善意なのか悪意なのか、それに対してどうすればいいのかを笑みを浮かべながら反射的に対処できるようになった。

これ以上、迷惑をかけたくない、そんな思いからたくさんのことを学んだ。

ただの弱者でいるのだけは絶対に嫌だった。

今では体は弱くとも心は随分と強くなり、並大抵のことで心が折れることはない。


セレニティは掴まれている手を思いきり振り払ってから、ジェシーと目を合わせるように近づいていく。

そして手を引いてからそっと体を寄せて逃がさないように腰を掴んでジェシーを抱き込んだ。


ジェシーはセレニティの反撃が予想外だったのか体を引いてしまうのを押さえるようにして腕に力を込めた。


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