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セレニティの世話はマリアナがしていた。

マリアナはセレニティが幼い頃から世話をしてくれていた信頼がおける侍女だった。

彼女はセレニティを心から心配していた。

涙は枯れ果ててセレニティはまるで人形のようにベッドで天井を見つめているだけ。

医師から治療も受けていたが、暴れることもない。

もうどうでもいいと投げやりな気持ちだった。

引き裂かれるように皮膚が痛むたびに絶望感に苛まれていた。


一ヶ月ほど月日が経った頃、一人の令息が部屋を訪ねて来た。

謝罪をするためと、傷を負わせた責任を取るためだった。

カシスレッドの髪とバイオレットの瞳はあの時に視界に映った。

そう思った瞬間に吐き気と同じで今まで感じたことがない怒りが込み上げてきた。



「あの時は、本当にすまなかった。それから……」


「出てって!!」


「あ……」


「──嫌ァアアァァッ!」



令息の顔を見た途端、今まで何も反応を示さなかった人形のようだったセレニティは怒鳴り声を上げて泣き叫んだ。

その拍子に塞がりかけていた皮膚が切れたのか左目の包帯には血が滲む。

少女はその場に座り込んで痛む皮膚を押さえた。


令息は悲しげに眉を顰めてこちらを見ていた。

理性などどこかに吹き飛んでしまったセレニティはベッドの近くにあるものを令息に向けて力任せに全て投げつけていた。

久しぶりに溢れてくる涙……少女は呼吸を忘れるほどに令息を罵倒したのだった。


「大っ嫌い!大っ嫌い……!二度と姿を見せないでぇっ!」


幼い頃からセレニティの侍女をしているマリアナがセレニティを必死に止めていた。


その数日後、セレニティにとって信じられないことが起こる。

申し訳なさそうな両親が部屋に入ってくる。

そしてその令息と婚約する運びとなったことを告げたのだ。



「え……?」



最初は両親が何を言っているかわからなかった。

しかし理由がわかるのと同時に喉の奥が焼けるように痛んだ。

もちろん嫌だと泣き叫んでからマリアナに両親を部屋から追い出すように頼んだ。


部屋から出た後も両親は「あなたのためなのよ!」「こんなチャンス滅多にないのよ」と言ってセレニティを説得した。

「絶対に嫌だ」と言ってセレニティは自分の命を断とうとしたこともあった。


何故、自分を傷つけた相手と添い遂げなければならないのか。

謝罪も受け入れたくなかった。

その令息に憎しみだけを募らせていたセレニティにとっては地獄のような宣告だった。


令息の名前はスティーブン・ネルバー。由緒正しきネルバー公爵の嫡男だった。

ジェシーと同じでスティーブンは三つ歳が上だった。


子爵家出身であるセレニティが公爵家と縁を持てるなんてと両親はセレニティの気持ちとは裏腹に浮かれているように見えた。

公爵家の申し出を子爵家が断れないこともわかっていたが、セレニティに確認も取らずに結婚を受けたこともだ。

両親がセレニティの気持ちを考えてくれなかったことにショックを受けて傷ついていた。


スティーブンが傷物として扱われ嫁ぎ先がなくなるセレニティを選んで結婚しようとするのはセレニティのためでもあるのだろう。

彼が誠実なのだろうと頭ではわかっているものの、セレニティの未来を奪ったスティーブンがどうしても許せなかった。


そしてこの日からジェシーのセレニティに対する態度が変わった。

今日もセレニティの部屋にはジェシーがやってきた。

セレニティを見る瞳に優しさはなく、憎しみがこもっていた。



「ずるい……ずるいわ、セレニティ」


「ジェシー、お姉様?」


「スティーブン様と傷物のあなたが婚約するなんてありえないでしょう!?卑怯だわ……!ずるいっ」


「そんな……わたくしはっ!」


「絶対に、絶対に許さないからっ」


「……っ!?」



目の前で優しかった姉のジェシーがセレニティを睨みつけて血が滲むほどに唇を噛んでいる。

そこでジェシーが幼い頃からずっと言っていた愛する人がスティーブンだったことを知ったのだ。


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