①②②
その後にセレニティをじっと見つめながら口を開く。
「フルーツの方がよかったとは……すみません」
「……!」
クリーク伯爵の手にはカゴに入った可愛らしい花があった。
セレニティは色々と驚きすぎて口をパクパクと動かしていた。
クリーク伯爵は恐らく、セレニティが目を覚ましたと聞いてお見舞いにきてくれたのだろう。
そしてセレニティは今、お見舞いには花ではなくフルーツがいいと催促したことになる。
誤解を解かなければとセレニティは慌てて口を開く。
「もっ、申し訳ありません、クリーク伯爵!フルーツの件は誤解ですわ。今からデザートをと侍女のマリアナにフルーツならいいと言われまして……!」
「なるほど、食事中でしたか。出直します」
「いえ!大丈夫ですわ!」
そう言うとクリーク伯爵はテーブルに花を置く。
セレニティはにっこりと笑いながらクリーク伯爵に声を掛ける。
「お忙しい中、ありがとうございます。クリーク伯爵」
「いえ……具合はいかがでしょうか?」
「はい、だいぶよくなりましたわ」
「そうですか」
クリーク伯爵は眼鏡をクイとあげながら答えた。
すると横から感じるピリピリとした空気。
スティーブンを見ると何故かクリーク伯爵に対する厳しい視線を感じた。
クリーク伯爵もスティーブンの視線に気づいたのか、二人の間にバチバチと火花が散っているような気がしてセレニティは交互に視線を送りながら困惑していた。
第一騎士団の副団長を務めているクリーク伯爵と第二騎士団を率いているスティーブン。
不仲だという噂は聞いたことがないが、何故か今は睨み合っている。
「あ、あの……クリーク伯爵?」
「ああ、すみません。三日前は私の長話に付き合わせてしまったせいでセレニティ嬢が倒れてしまい申し訳ないと一言、謝りにきたのです」
「あっ……!」
熱のせいか記憶があやふやだったセレニティだったが、倒れる直前にクリーク伯爵と話していたことを思い出す。
(そういえば門の前でクリーク伯爵と何か話していたような……内容はあまり覚えていないけど)
セレニティはクリーク伯爵に事実を伝えるために唇を開く。
「申し訳ありません。正直、話の内容はほとんど覚えていないのです」
「いえ、構いません」
「もしかしてご迷惑を……?」
「私は倒れたあなたを医師の元に運んで、各所に連絡して回り、諸々の後処理を行っただけですので気になさらないでください」
「まぁ……!そうだったのですね。色々とありがとうございます」
「…………」
どうやらセレニティが倒れた後にクリーク伯爵にはだいぶ迷惑をかけてしまったようだ。
「元気になったのならいいのです。婚約者との逢瀬を邪魔してしまい申し訳ありませんでした」
「い、いえ……!」
「そういえば、私を公子と間違えて名前を呼んでおりましたよ?」
「……ッ!?」
セレニティは大きく肩を跳ねさせた。
クリーク伯爵を見ると珍しく唇が弧を描いているような気がした。
「申し訳ありません!わたくしったら……」
スッとクリーク伯爵の手がセレニティの少し濡れた髪に触れた。
「あんな風に名前を呼んでくれる婚約者なら私も欲しいと思ってしまいました」
「え……?」
セレニティが驚いていると、スティーブンがすぐにクリーク伯爵の手を叩く。
セレニティの髪がハラリと宙を舞う。
そして二人の間に入り込んでセレニティを守るように手を前に出した。
「セレニティに気安く触れないでいただきたい……!」
「失礼。髪に糸がついていましたので……」
そう言ったクリーク伯爵の指には白い糸がついている。
余裕な笑みを浮かべるクリーク伯爵と彼を睨みつけるスティーブンを交互に見つつ、一即触発の空気にセレニティがどうしていいのか戸惑っていた。




