①①②
セレニティはマリアナを抱きしめた。マリアナもセレニティの背に腕を回す。
どうやらかなり心配させてしまったようだ。
(なんだか息苦しいような……)
何故かセレニティを抱くマリアナの腕が次第に強くなっていくことに気づいて問いかける。
「マリアナ……?」
「私はあれほど〝無理をなさらずに〟〝異変があればすぐに報告してください〟と申し上げたのに、セレニティ様は体調が悪いことを黙っていたのではありませんか!?」
「マ、マリアナを心配させたくなかったのよ」
「食欲がないのは夕食を食べすぎたからなんて嘘をついて……二度と同じことをしないように今回はキッチリと言われていただきますからねっ!」
その後、マリアナから今までで一番大きな雷が落ちた。
スティーブンも「セレニティが目を覚ましたことを報告してくる」と言って部屋から出て行った。
その間にマリアナに説教を受けながら体を綺麗にして着替えを行いサッパリとした気分だった。
セレニティはマリアナが持ってきてくれた水分をとりつつ、胃に優しいリゾットを食べていた。
味は美味しくて頬が蕩けそうなのに、マリアナの鋭い視線がチクチクと肌に刺さって痛い。
戻ってきたスティーブンもセレニティを庇うことなくマリアナの言葉に同意するように頷いている。
眉根を寄せながらこちらを見ているではないか。
(マリアナとスティーブン様をこんなに心配させてしまって、反省しなければなりませんわね……)
体が弱くて体調を崩すことで周囲を心配させてしまうことは知っていたはずなのに、またやってしまったと反省モードである。
しかしパトリシアの事情もあり致しかたないことも理解しているのか、いつもより怒られる時間は長いが甘口だ。
スティーブンもナイジェルとの遠征帰りにセレニティが倒れたことを聞かされて急いで城に来てくれたそうだ。
そしてセレニティが目を覚ますまで付き添い、マリアナと共に看病してくれたらしい。
スティーブンとマリアナの目の下に隈がある理由も理解した。
「マリアナ、スティーブン様、心配を掛けて申し訳ありません……」
「わかればいいのです!セレニティお嬢様は毎回毎回っ」
「マリアナ、まだ病み上がりだ。それに……」
セレニティはマリアナに空っぽのお皿を見せる。
するとマリアナは「もう一杯とデザートでよろしいですね!?」と言って怒りながらも確認を取る。
セレニティはパァッと表情を輝かせて何度も頷いた。
「暫くは安静に大人しくなさってくださいね!」
マリアナはトレイを持ってセレニティの食事を取りに向かう。
入れ替わるようにして、セレニティが目を覚ましたと聞いたのか深刻そうなベレットが部屋の中に入ってくる。
セレニティはベレットを見た瞬間にパトリシアの悲しそうな顔が思い浮かぶ。
咄嗟にある言葉が頭に浮かぶ。
「ベレット殿下、この件はパトリシア様には言わないでくださいませ!」
三日前にはセレニティはマルク邸に帰る予定だった。
しかし体調を崩してしまい城に滞在していることで折角前向きになったパトリシアの気を煩わせたくない気持ちの方が大きかった。
「セレニティ……」
「わたくし、パトリシア様に心配を掛けたくないんです!」
ベレットは額を押さえた後に困ったように笑った。
「君の優しさに私たちは助けられているよ。ありがとう」
「え……?」
「パトリシアにはセレニティが体調を崩したことを黙っているんだ。このことを知ればパトリシアは気に病んでしまうだろうから。だが、セレニティにそう言ってもらえて気が楽になった」
「そうだったのですね……!ああ、よかった」
セレニティはベレットの言葉を聞いて手を合わせた。
パトリシアはセレニティが倒れたと知れば、間違いなく自分を責めてしまうだろう。
折角、気持ちが上向きになっている時にこのことを伝えてほしくはなかった。




