①①⑨
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体が熱いような寒いような不思議な感覚。
思い出すのは熱に浮かされていた幼い頃だ。
(ああ……わたくしはいつまで寝てればいいのかしら)
こうして苦しみながら生きていることに何の意味があるのだろうと考えたこともあった。
どれだけ耐えたとしても、解放されることはない苦痛。
(このまま心配をかけるくらいなら、もう……)
呼吸が苦しくて長い夜は明けることなくずっと不安に苛まれる夜は辛い。
どうしようもない現実に涙が溢れてくる。
ふと頬を伝う涙を止めるように滑る冷たい指が心地よく感じて、もっとと意味を込めて手を握る。
ゴツゴツとした手のひらには覚えがあるものだった。
それと同時に一人ではないと思うと安心感から息を吐き出す。
いつもセレニティのことを想い、気遣ってくれるスティーブンの姿を思い出してセレニティは縋り付くようにして服を掴む。
「スティーブン、様……」
『……セレニティ嬢!?しっかりしてくださいっ』
驚いたようなスティーブンの顔を不思議に想いながらも、スティーブンが来てくれたことに安堵していた。
いつもセレニティのピンチにやってきて助けてくれるスティーブンを頼もしく思っていた。
婚約者になったばかりの頃はパーティーでダンスする時も、エスコートを受ける時も、いつも表情が変わらないスティーブンが照れて頬を赤くしていたことを思い出す。
(スティーブン様ったら、また照れているのかしら)
セレニティはヘラリと笑いながら、安心感からか瞼を閉じる。
(でも呼び方が違うような……?)
そんな疑問を抱えていたが、気持ちが落ち着いていく。
真っ暗な中でセレニティは意識を失った。
次の瞬間、強烈な渇きを感じてセレニティが瞼を開くと、そこには真っ白な天井が見えた。
何度か瞬きを繰り返すとカシスレッドの髪が視界に広がっていく。
(やっぱりスティーブン様がそばにいてくれたんだわ)
嬉しさから手を握り返すと、スティーブンがセレニティが起きたことに気づいたからか目を覚ます。
「スティーブン様、申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」
「セレニ、ティ……?」
「はい、スティーブン様」
返事を返すとスティーブンの表情がみるみるうちに強張っていくのがわかる。
スティーブンをよく見ると目の下には隈があり、疲れているのか顔色が悪い。
不思議に思いながらも言葉を待っていると……
「高熱で倒れたんだ。三日も寝込んでいたんだぞ!?」
「誰がですか?」
セレニティがそう問いかけると、スティーブンは小さな溜息を吐いた後に低い声で呟いた。
「セレニティ、君がだ」
「わたくしが、ですか!?そういえば、とてもお腹が空いているような気がします……!」
「はぁ……」
スティーブンは体から力が抜けたのか体を預けるようにして壁にもたれかかる。
セレニティは起きた瞬間から強烈な空腹に襲われていた。
もちろん喉は渇いているが、それよりもギュルルと音を立てるお腹は痛いほどだ。
三日寝込んでいたとは信じられない気分だが、まずは話を聞く前に何か食べたいと言おうとした時だった。
パタパタと足音と共に乱暴なノックの音が聞こえる。
セレニティが返事をすると勢いよく扉が開く。
片手にトレイを持ったマリアナがスティーブンに恐ろしい顔をして立っていると思いきや、セレニティの方へと近づいてくる。
ガチャリと音を立ててサイドテーブルに置かれた水や布、コップを眺めつつ、マリアナの行動を目で追っていた。
その表情は明らかに怒っている。
「マ、マリアナ……あのね、今起きたばかりで」
マリアナは震える手でセレニティをそっと抱きしめる。
表情と行動が一致しないことで混乱していたセレニティだったが、マリアナの体が微かに震えていることに気づいて声をかける。
「マリアナ?」
「セレニティ、お嬢様……とても心配いたしました!」
「……ごめんなさい」




