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①①⑦


「ありがとう、ございますっ!」


「ほらエリー、もう泣き止まないと家族が心配するわ」


「はいぃぃっ!申し訳ありませんっ、でもセレニティ様の優しさに感動してしまってぇ」


「あらあら……」



扉が閉まってもエリーの鼻を啜る声が聞こえていた。

窓から身を乗り出しながらセレニティに感謝を伝えるエリーを最後まで見送ったセレニティはホッと息を吐き出した。


(あとはパトリシア様と城にいる間にお世話になった方にお礼を言わないといけませんわね……)


パトリシアにつきっきりで三ヶ月もの間、城で部屋を借りて暮らしていた。

セレニティはたくさんの人たちに支えられてここまでこれたのだ。


気が抜けた瞬間、一気に体が重く感じた。

だが周りに心配をかけたくなくて平気なフリをしていた。 

しかしここにきて一気に熱が上がったような気がする。

あと少しでマルク邸に帰れるし、明日からまた学園に通える……そう考えて気持ちを上向きにして無理矢理に震える足を動かそうとしていた時だった。



「セレニティ嬢」


「……っ!」



突然、名前を呼ばれたことでセレニティは肩を跳ねさせた。

セレニティが振り向くとすぐ近くにモスグリーンの長い髪が見えた。



「クリーク、伯爵?」


「今日で任務が終わりだと聞きましたが、本当なのですか?」


「はい、そうですわ」



セレニティは咄嗟に笑みを作って返事をするてクリーク伯爵は眼鏡をカチャリと揺らした。

相変わらず誰に対しても敬語で、なかなか距離感が掴めない。


休憩時間にベレットによく手紙を届けていたセレニティはクリーク伯爵と顔を合わせること多かった。

ベレットの護衛なので近くにいるのは当然なのだが彼はいつも観察するようにセレニティをじっと見つめている。

あの一件でベレットにセレニティのことを紹介してもらい第一騎士団内に顔を覚えてもらったので最初のように絡まれることはなかった。

こうしてクリーク伯爵からベレットのこと以外で話しかけられることもなかったのでセレニティは驚いていた。


一見、冷たく見える彼だが無表情なだけで剣の腕も確かで子供にも優しく、若くしてクリーク伯爵家の当主ということで密かに狙っている令嬢たちも多いそうだ。

つまり令嬢たちの憧れの的なのだと、城で働く侍女たちに聞いた。

平静を装いながらセレニティは問いかける。



「どうかされましたか?」


「ここまで彼女を気遣う必要があるのですか?自分の方が遥かに大変だったのでしょう?」


「……え?」



頭が重たいせいかクリーク伯爵が何を言っているのか理解できずに戸惑ってしまう。

どこから見ていたのか、彼女というのがエリーを指しているのだとわかった時にはクリーク伯爵が口を開いていた。



「今回、セレニティ嬢は我々よりも激務だったはずです。正直、蝶よ花よと育てられた令嬢にここまで成し遂げられるのは予想外でした」


「……」


「今回の業務はあまりにも過酷だった。音を上げないのは素晴らしいですが無理をしすぎては本末転倒ですよ。手紙も侍女に預ければ済んだはずです。わざわざ苦労をすることもないのでは?」



淡々と話すクリーク伯爵が何を言いたいのかサッパリである。

若干、棘のある言い方に感じるが三カ月間、関わって思うことは合理的なだけであること。本人に悪気はないことだ。

毎回、セレニティが来るたびに怪訝そうな視線を送っていたクリーク伯爵を見てセレニティが困惑しているとベレットは『悪い奴ではないが、少々頭が固くて誤解されやすいんだ』とセレニティに言っていた。

それを聞いていたクリーク伯爵は『効率が悪いことが嫌いなだけです』と話していたことを思い出す。



「ハーモニー隊長に鍛えていただきましたので」


「そうですか」


「…………」


「…………」




重苦しい沈黙が流れたことでセレニティは笑みを張り付けながら考えていた。


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