①①①
「すまなかった。私の責任だ」
「ベレット殿下、謝罪は不要ですわ」
「だが……」
こんなところで次期国王が軽々しく頭を下げていいはずもない。
セレニティは首を横に振る。
「ベレット殿下、わたくしを助けてくださりありがとうございます」
「セレニティ……」
セレニティの行動の意図が伝わったのか、ベレットは押し黙る。
髪をガシガシとかいたベレットの目の下にはパトリシアやセレニティと同じように深い隈が刻まれている。
「騒ぎを起こして申し訳ございませんでした。パトリシア様のことでご相談がありまして」
「──ま、まさかパトリシアが何かあったのか!?」
ベレットの必死な様子からパトリシアを心から心配していることがわかる。
セレニティはベレットに場所を移すように頼む。
ベレットは咳払いをした後にセレニティをこちらに来るように促す。
場所を移していると、先ほどの騎士が申し訳なさそうに距離を開けながらついてくる。
その後ろにはセレニティとも顔見知りの眼鏡をかけている髪の長い騎士が歩いてくる。
(第一騎士団副団長、クリーク伯爵だわ!)
主にベレットやパトリシアを護衛しており、ネルバー公爵と共に第一騎士団を率いている。
クリーク伯爵家の当主でもある彼はベレットと幼馴染だ。
女性のように細い線と白い肌、モスグリーンの長い髪と葉のような青々とした緑の瞳。
眼鏡をかけており、シワひとつない綺麗な騎士団の服を見ても几帳面さが窺える。
ベレットと共に先ほどのやりとりを見ていたのだろうか。
体格のいい騎士の頭を思いきり掴んで一緒に頭を下げている。
セレニティもそれに応えるように会釈をした。
遠くから二人が見ている中で、セレニティはあるものを取り出してベレットの前へ。
「これは……?」
「お忙しいところ大変申し訳ないですが、パトリシア様にお手紙を書いていただけないでしょうか」
「パトリシアに、手紙を?」
セレニティはベレットの言葉に頷いた。
「パトリシア様は今、ベレット様と離れていることもあり心が不安定です。ベレット様の温かい言葉を届けられたらと思いまして」
「そうか……!そうだな。少し待っていてくれ」
ベレットはセレニティから紙を受け取ると執事にペンを持ってくるように頼む。
セレニティはベレットが書き終わるまで待機していたのだが、三日ぶりの休日ということもあり立ちながらウトウトしていた。
壁にゴンと頭をぶつけたところでベレットから声がかかり、セレニティは大きく肩を跳ねさせた。
それをクリーク伯爵に見られていたとも知らずに、じゅるりと垂れそうになる涎を拭う。
「申し訳ございません!つい、居眠りを……」
「いや、構わない。白百合騎士団の人数も少なくセレニティには大きな負担を掛けていること申し訳なく思う」
「ベレット殿下……」
「パトリシアのために本当にありがとう。今回のことも感謝している」
ベレットはそう言って悲しそうに笑う。その表情がパトリシアと重なった。
立場的に周囲のことを気遣わずにはいられない。
今だってベレットは誰よりもパトリシアの元に行きたいに違いない。
「では、わたくしはこの手紙をパトリシア様に届けて参りますね。お忙しい中、ありがとうございました」
「いいや、こちらこそすまない。どうかパトリシアを頼む……!」
手紙と共にベレットは強くセレニティの手を握る。
「……はい。お返事はパトリシア様の体調次第ではありますが、また届けに参ります」
「ああ、ありがとう」
「では、わたくしはパトリシア様にこちらを届けてから休ませていただきますわ。失礼いたします」
ベレットの手紙を受け取ったセレニティはパトリシアの部屋へと急ごうとするが、目の前で先ほどの体格のいい新人騎士が目を真っ赤にしながら深々と頭を下げている。
隣にいるクラーク伯爵と目が合うと、彼はセレニティを引き止めるように声を掛けた。




