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セレニティはベレットの護衛に声を掛けるが、何故か冷たい視線を感じていた。
新しく入った騎士たちはネルバー公爵の件も知らずに、まだまだ若いセレニティにパトリシアの護衛を任せていることが気に入らないらしい。
それと貴族出身ではないものは、セレニティが子爵令嬢ということも知らない人もいるようだ。
「ベレット殿下はいらっしゃいますでしょうか。そろそろ会議が終わる頃だと思うのですが……」
「ベレット殿下はまだ会議中だ」
「そうですか。残念ですわ」
「くだらないことでベレット殿下を呼び立てるな。これだから女は……」
体格のいい騎士にぐちぐちと嫌味を言われ続けてしまう。
いつもなら軽く流すのだが睡眠不足もあるからか久しぶりにカチンと頭にきてしまう。
スティーブンが率いる第二騎士団とベレットや国王を護衛するネルバー公爵が率いる第一騎士団は関わっている頻度が違うので致し方ないとは思いつつも、内心は穏やかではいられない。
「女だから……とおっしゃいますけれども実際に今、パトリシア様を護衛しているのはわたくしたち白百合騎士団ですわ」
「何……?」
「女も男も関係ありません。わたくしは白百合騎士団として責任を持ってこの仕事をしております」
「……っ」
「本日もパトリシア様の件でベレット殿下に協力していただくために参りました。きちんと予定を確認いたしましたわ。本日は他の団員が任務にあたっております。それでもわたくしは〝これだから女は〟などと嫌味を言われなければならないのでしょうか」
「それは……だがっ」
困惑する騎士に笑顔を絶やさぬままセレニティは言葉を続けた。
「そのような油断や慢心はよくありませんと騎士団長に教わりませんでしたか?」
「黙って聞いていれば好き放題言いやがって……!」
セレニティの胸元を掴み上げた騎士を見て、正当防衛だと判断したセレニティは反撃をしようと手を伸ばした時だった。
「──やめろっ!」
ベレットの厳しい声が響き、体格のいい騎士の手が止まる。
すぐにセレニティから手を離して、声を掛けられた人物を見てすぐに頭を下げている。
「すまない、セレニティ……大丈夫か?」
「ベレット殿下、お疲れさまです」
セレニティがよれた胸元を直しながらベレットに挨拶をする。
ベレットは体格のいい騎士に厳しい視線を向けた。
「セレニティは白百合騎士団の団長であるのと同時に、子爵令嬢でもある。それにネルバー騎士団長の息子、スティーブンの婚約者だ……その意味がわかるか?」
ベレットの言葉にセレニティが貴族の令嬢であるのと同時に、スティーブンの婚約者だと知ったのだろう。
ガクガクと震えながら「申し訳ございません」と深々と頭を下げている。
やはり扉を護衛していたのは平民出身の新人の騎士だったらしい。
セレニティとも顔を合わせるのも初めてなので、こうなってしまうのも仕方ないと思いたいが、この国では男性騎士が大半だ。
女性が剣を持つことに偏見を持つ人はまだまだ多い。
確かに白百合騎士団に所属しているメンバーは貴族の令嬢だけではない。
さすがにハーモニーのことは知っていたそうだが、抜けてからは誰が率いているかを知らなかったようだ。
(はぁ……わたくしも大人げなかったかもしれません。お父様が感情を出した人から負けていくと言っていたのを思い出しましたわ。わたくしもまだまだですわね)
セレニティは新人騎士を叱りつけるベレットに許すように頼む。
「わたくしも冷静さに欠けておりましたわ。申し訳ございません」
セレニティがそう言って笑みを浮かべると、体格のいい騎士は涙ぐみながら再び申し訳ありませんと頭を下げていた。
「下がれ」というベレットの言葉に新人騎士は慌てた様子で去っていく。




