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①①


(ここは……?わたくしは、助かったの?)


目覚めたら……知らない場所に寝ていた。

明らかに病院でもなく、ベッドの上でもお屋敷でもない。

違和感を感じた桃華は固いベッドから起き上がり、鏡を確認する。

 

日本人離れしたピンクベージュの髪と蜂蜜のような金色の大きな瞳が見えた。

明らかに『桃華』ではない顔が映っている。

左側には包帯が巻かれて血が滲んでいる。


(十歳前後の子供?どうしてここにいるのかしら。左の顔に包帯にこの髪色と瞳の色、さっき読んでいた小説のセレニティ様にそっくり……)


どこかで聞いたことがある状況。

見覚えのある顔を見ながら驚き目を見開いた。



「痛っ……」



皮膚が引っ張られるような痛みに包帯を押さえた。

セレニティの痛みが、まるで自分のことのように感じる。

眉を顰めながら顔を上げる。

セレニティはパチパチと瞬きをしてから感覚を確かめるように一回り小さい手で頬に触れた。



「まぁ……!」



そう声を上げて考え込むこと数十秒、ある答えに辿り着いた。


(わ、わたくしセレニティになっていますわ……!)


まさかの直前まで読んでいた小説の登場人物、セレニティになっているとは思いもせずに愕然としていた。


(この痛みは……本当にわたくしがセレニティになってしまったのかしら?それにわたくし、このような展開をよく知ってますわ!これは流行りの異世界転生というやつですわよね?)


桃華だった時の記憶は鮮明に引き継いでいる。


(まさか、わたくしが本当にセレニティになるなんて)


記憶を思い出した桃華は……〝セレニティ〟は目を輝かせた。

何よりベッドから立ち上がって鏡を見ても息切れすることがない。

これがどれだけ素晴らしいのか、今こうして実感できる。

ベッドに座りながら唯一、外の世界に行ける方法。

それが小説の世界だった。

一日中、本を読んで時間をつぶしていた桃華はみんなのように元気に外を飛び回れたらと夢見ていたのだ。


(まだ包帯を巻いているし、まだセレニティ様が怪我をしたばかりなのかしら……ということはあのお茶会の後で、セレニティ様は十二歳ということね!)


セレニティが状況を把握しようと考え込んでいると、扉をノックする音が聞こえてくる。

「はい」と、返事をするとゆっくりと扉が開いた。

しかしセレニティが鏡の前にいることに気づいたのか、侍女の表情が悲しげに歪む。



「セレニティお嬢様、様子はいかがでしょうか?」


「…………え?」


「やはり鏡は撤去したほうがいいのでは?」


「あっ、そうだわ!あなたはたしか……マリアナでしょう!?」


「え……?あ、はい。マリアナですが……」



セレニティを幼い頃から支えてくれた侍女のマリアナは栗毛の髪を綺麗にまとめて不思議そうにセレニティを見ている。

セレニティはもう一度、鏡を見つめながら左側の包帯を押さえた。

ジンジンと焼けるようなこの痛みが、ここが現実だと教えてくれる。


それからいい匂いに惹かれてセレニティはマリアナの後ろにあるワゴンを覗き込む。

温かい紅茶とサンドイッチをじっと見ていると、マリアナから声が掛かる。



「セレニティお嬢様、もう目を覚ましてからずっと食事をしていませんよ。そろそろ何か召し上がりませんと……」


「あら、そうだったのね」


「はい。なにか食べられそうですか?」



マリアナが心配そうにセレニティに声を掛ける。


セレニティは意識した瞬間、強烈な空腹を感じてお腹を押さえた。

以前は薬の影響や体を動かさないためか食欲がなく、こんな風にお腹が空くことは今までなかった。

初めての感覚に何が起こったかわからなかったがマリアナの言葉を聞いて納得したのだ。


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[一言] ハッピーエンドになって欲しい
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