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①⓪⑨


パトリシアは二十五歳でベレットとは同じ年だ。

結婚してからは三年経つのだが、なかなか子宝に恵まれずに肩身の狭い思いをしていたそうだ。

だから今回のことはとても喜ばしいはずなのに……。


(パトリシア様、苦しそうですわ……)


パトリシアを間近で見ていたことで、セレニティは学べることがたくさんあった。

悪阻は人それぞれ症状が違うと医師に聞いた。


体が弱るのと同じように心はすり減っていく。

セレニティは弱気になるパトリシアを何度も励ましていた。

容器を持って医師の診察を受けるパトリシアの顔は真っ青だ。

今も匂いに敏感に反応してしまい、食べられるものが限られている状態だ。


飲んだ水ですら吐き戻してしまった時にはセレニティもパトリシアも大きなショックを受けた。

ベッドに寝転びながら窓を見ていたパトリシアの肩が震えているのを見て、セレニティは恐る恐る声を掛ける。

侍女たちは今、温めたお湯や吐き戻したものを処理したものを片付けていた。



「パトリシア様、大丈夫ですか?」


「えぇ……ごめんなさいね」


「気になさらないでください」


「セレニティ、あなたにも迷惑をかけてごめんなさい。学園……楽しみにしていたのでしょう?」



セレニティは静かに首を横に振った。

 


「わたくしのことはいいのです。今はお体を……」


「ねぇ……セレニティ」


「はい、なんでしょうか?」



パトリシアは首を動かしてこちらを見ているが、その目元は真っ赤になり涙がポロポロと溢れている。

セレニティはサイドテーブルにあった布をとりパトリシアの元へと向かい涙を拭う。



「わたくし、こんな状態でお腹の子供は本当に大丈夫なのかしら?」


「え……?」


「もし、もしも元気に産んであげられなかったら?成長していなかったら……っ?わたくし、皆に迷惑をかけてばかりで情けないわ」


「そんなことありません!」


「わたくしはどうなってもいいからどうかこの子だけは……っ!じゃないとベレットにも申し訳ないもの」



セレニティは布を置いて、膝をついてからパトリシアの手を握る。

腰に携えているレイピアがカチャリと音を立てた。

真っ白な肌と骨ばってすっかり細くなってしまった手首と弱々しく握る手のひら。

綺麗な瞳から次々と溢れ出す涙を見て、セレニティは眉を寄せた。


(……パトリシア様は不安なんだわ)


満足に食事も食べられずに不安で夜も眠れない。

ベレットにもあまり近づけないとなると不安定になってしまうのも頷ける。

しかしこのまま「大丈夫」「頑張って」と声をかけたとしても気休めにもならないだろう。

それがベレットならまだしも、セレニティがどう励ましたらいいのかはわからない。


(お母様もこうして悩み考えながらわたくしを産んでくださったのかしら)


桃華が咳き込んで高熱を出すたびに心配そうにしていた母の姿を思い出す。

妊娠は知識として入ってはいるが、こうして間近で見ていると自分まで苦しくなってしまう。


(……どうしたら)


そこであることを思いつく。

忙しい母が具合が悪く落ち込む桃華にやってくれていたことがあった。


(そうだわ!これならパトリシア様とベレット殿下がうまく連絡を取り合えるかもしれない)


セレニティは涙するパトリシアの手を握り「わたくしに任せてください!」と笑みを浮かべた。

パトリシアはキョトンとしながらも小さく頷いた。


次の日、セレニティはエリーに護衛を代わってもらいベレットの元へと急いだ。

三日ほどセレニティが護衛してエリーに一日代わってもらい、その日はいつも泥のように眠るのだが今日はベレットの元へ。

エリーは「休まなくていいのですか?」と心配してくれた。

「私が明日も任務を変わりますっ!」と提案してくれたが、エリーには無理をして欲しくなかった。

エリーは十六歳でセレニティの一つ下。

他の三人の団員はまだ幼くて任務を任せられる状況ではないからだ。


(パトリシア様も頑張っているわ。わたくしも頑張らないと……!)


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