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キャサリンは優しい笑顔でセレニティに「行きましょう」と声をかけて、乱暴に手首を掴むと歩き出す。
半ば引き摺られるようにして人気のない場所に向かっていく。
そしてピタリと足を止めてからそのまま背を向けていた。
「……あなた、転生者でしょう?」
令息と話していた時よりもずっと低い声に驚きを隠せない。
「転生者、ですか?」
「この世界とは違う記憶を持っているんでしょう?」
「あぁ、転生……!なるほど。そういう観点で見るとそうですわね」
「……やっぱりね。私もそうよ」
キャサリンから発せられる転生者というワードにセレニティは素直に頷いた。
「噂で聞いてるわ。物語とまったく違う行動を取っていると聞いた時からそうじゃないかと思っていたの」
セレニティは桃華として生きていた記憶を持っている。
そして物語のセレニティとは違う道に進んでいるし、顔の傷で何か言われることもほとんどない。
「あの小説を読んでいたんでしょう?」
「はい!読んでおりましたわ」
セレニティはあの小説と聞いて大好きだった『レオン』が出てくる小説のことだと思った。
キャサリンも小説のことを知っている。
キラキラ輝いていた瞳でキャサリンを見ていたセレニティ。
なによりこの境遇を理解している人ともっと話してみたいという気持ちが大きかった。
「キャサリンとセレニティは親友だった……小説の中では」
「え……?はい、そうですわね」
先ほどまで浮かべていた笑顔が消える。
そしてセレニティを睨め上げるようにして口を開く。
「でも今回は違うわ。私はあの小説のキャサリンとは別々の道を辿るつもり」
「……!」
「邪魔をしないでもらえる?」
キャサリンとは初対面だが、拒絶的な態度をとられてしまいセレニティも頷くしない。
「私はまた平民に戻ったりなんかしないわ。成り上がって金持ちになってみせる」
「お金持ち、ですか?」
「えぇ、だから友達ごっこをしている暇はないのよ。私は学園からが本番なんだから」
セレニティの問いかけにキャサリンは鼻で笑って答えた。
「あなたもお金で苦労したことないのね」
そんな呟きが聞こえて、わずかに目を見開いた。
「だからあなたの力は必要ない。この意味、あなたにわかるかしら」
セレニティを傷つけようとしているというよりは自分の目的を邪魔するな、あなたに興味がないと伝えたいのだと思った。
(わたくしとは関わっている暇はない、ということかしら)
セレニティは冷たく言い放つキャサリンの言葉を聞いて考えていた。
「昔の話も小説の話もするつもりはないから。無駄は必要ない。邪魔をしないでもらえる?」
「そうですか……それは申し訳ありませんでした」
「ハッキリ言わせてもらうわね。変な期待をされても困るもの」
「わかりましたわ」
セレニティはそう言われて笑みを浮かべながら答えた。
ハッキリと言ってくれるのなら、こちらも今後キャサリンに近づかないようにすればいい。
セレニティが思っていたようなキャサリンとは違うが、ハッキリと言うところが彼女に似ていると思った。
「ふっ……呑気な顔。それにしても随分と人気者なのね。どこ行ってもセレニティ、セレニティってうるさいくらいだもの」
「そうでもありませんわ。キャサリン様も令息たちに人気のようですが」
「あははっ!それって嫌味?」
「……何か失礼なことを言ってしまったでしょうか?」
キャサリンの言葉にセレニティは首を傾げた。
先ほど教室内で令息たちに囲まれていたキャサリンは人気に見えたが、何か気に触ることを言ってしまったのだろうか。
「天然?それとも計算なのかしら。まぁ、どっちでもいいけど」
「……?」
「あなたは今、幸せなんでしょう?」
「はい」
「なら、私に近づかないで……」
キャサリンは溜息と共に吐き捨てるようにそう言った。
そう言ってパチンと両手を合わせて音を立てる。
「この話は終わりましょう。セレニティ様」
「……!」




