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───これは悲しい愛の物語。



セレニティ・シャリナは子爵家の次女として生まれた。

十二歳になり、初めて王家が主催するパーティーに参加することになった

毎年開催されているパーティーにセレニティはずっと憧れていた。

この日のために何度も何度も挨拶の練習しながらセレニティは期待に胸を膨らませていたのだ。


(もしかしたら運命の相手に会えるかもしれないわ……!)


セレニティは会場に着くと、何度か屋敷を行き来したことがある令嬢と共に談笑しながら広い会場を歩いていく。

華やかな場で精一杯のお洒落をしている子どもたちは色とりどりのドレスを着て、親の真似をしながら挨拶を交わしている。

セレニティは初めてのパーティーを心から楽しんでいた。


そんな時、笑顔溢れる会場に悲鳴が響く。


ある令息が後ろ向きに下がった際に背でぶつかり、令嬢はその場で躓いてグラスを持ったままうまく受け身を取れずに転んでしまう。

グラスは砕けて、不運にもその部分に顔を打ちつけてしまった。

刺すような痛みに悲鳴を上げることもできずにうずくまっていた。



「痛っ、だれか……誰か助けてぇ」


「きゃああぁ……!」


「セレニティ様!誰かっ、誰か……!」


「っ、大丈夫か!?」



掛けられた声と歪む視界から見えたカシスレッドの髪とバイオレットの瞳。

セレニティは打ちつけて痛む部分を押さえていた。

血が指の隙間から垂れてドレスが汚れていくのを見て、セレニティはパニックになり更に悲鳴をあげた。

騒然となるパーティー会場でセレニティは誰かに抱えられながら治療を受けるために医師の元へと向かった。


砕けたガラスが刺さったり皮膚が切れたりとセレニティの顔の左半分には頬の大きな切り傷や細かいものを含めるとかなりの傷があった。

刺さったガラスは全て取り除けたものの、皮膚を縫わねばならなかった。

セレニティは痛みとショックのあまり気絶してしまい、気づいた時にはもうシャリナ子爵邸のベッドの上にいた。


いつも笑顔で明るかったセレニティはその日を境に塞ぎ込んでしまった。


包帯で顔半分が覆われることとなり、適切な処理をしたものの、今の技術ではとても皮膚を元に戻すことはできない。

そして将来、顔に傷は残り続けるだろうと医師に言われてセレニティは悲しみに暮れた。

その絶望から錯乱したセレニティは医師の治療すらも拒んでいた。

泣いて暴れるセレニティを無理に押さえつけることもできずに、傷は膿んで雑菌が入ったのか皮膚は爛れ、セレニティは熱に浮かされてひどく苦しんだ。

セレニティが意識を失ってから治療が行われたほどだった。


そんなセレニティにとって三つ歳上の姉、ジェシーだけが心の支えだった。

ジェシーとの仲はそれほどよくはなかったが、この怪我をきっかけに仲は深まったように思う。



「大丈夫よ、セレニティ。わたくしが側にいてあげるから」


「……ありがとう、ジェシーお姉様」



毎日セレニティの部屋に通い、励ましの言葉をかけてくれた。

今思うと、それはセレニティを心配していたのではなく失墜を喜んでいたのだとわかる。

その証拠にジェシーはいつも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

しかしこの時のセレニティはジェシーを味方だと思い込み心の拠り所にしていた。

それがそもそもの間違いだったのだが、悪意に気づくことはなかった。


頭に巻かれた包帯に片方の目は暗闇に覆われている。

ズキズキと痛む傷がセレニティを蝕んでいく。

部屋にある鏡はセレニティを思い全て取り外された。


変色していく肌と共に心は悲鳴を上げた。

お洒落をして素敵な人とパーティーに行って結婚をして……そんな夢を見ていた少女は心に大きな大きな傷を残してしまう。


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