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シスターズアルカディアSideC-妖獣ハイスクール物語-  作者: 藤本零二
第1章~妖狐のプライド~
8/15

第7話「特訓開始」

*


 ユイちゃんがボク達の“妹”(ただしユイちゃん的には『アキラさんのことは“姉”と認めてません』ということらしいが… なんでこんなに嫌われてるんだろ?)になった日の翌日から、ユイちゃんの特訓の日々が始まった。


 特訓と言っても、山にこもって滝にうたれたりとか、巨大な鉄球をクレーンで吊るしてそれに体当たりするとか、そこまで過激なものじゃない。

 学校の放課後、運動場の端にあるテニスコートくらいの広さの“戦闘場”を一区画借りて(申請すれば誰でも放課後や休日に借りていいらしい)、そこで簡単な基礎トレーニングなどを行い、家に帰れば“ワールドフラワレス”のイツキちゃんの屋敷で“シスターズアルカディアVR Ver.2(バージョンツー)”を使って、簡単な模擬戦を行う、といった感じの内容だ。


 それらの特訓には、ボクとアカリちゃん、ノゾミちゃん、キョウカちゃん、リンちゃん、そして放課後特訓のみ、何故かタユネちゃんが参加している。

 ショウちゃんとアキホちゃんは、「特訓なんて“妖猫ようびょう”のガラじゃないからニャ~」と言って特訓には参加していない(そのわりにリンちゃんは参加しているけど)。



 特訓初日、すなわちボク達が編入した翌日の放課後は、ノゾミちゃん指導のもと、妖力のり方についてのトレーニングを行った。



「ユイは、昨日のVRの件で分かったと思うけど、実戦においては、妖力のり方がとても大事になる。

 どれだけ妖力を込めて強力な妖術を放ったとしても、妖力にムラがあれば、そこに弱所が生まれ、そこをつかれれば、相手の弱い術で簡単に相殺されてしまう」


「はいっ!!」



 実際に身をもって体感したユイちゃんが元気よく返事をした。

 

 一方で、二人の模擬戦のことを知らないタユネちゃんがボクにこう言った。



「妖力にムラが出来るとか、普段考えたことなかったです」


「まぁ、普通はそこまで考えないよね。

 ボクも細かいことはあんま考えずに妖術使ってるしね」


「ですよね!」


「あー、タユネ?アキラの言うことを真に受けちゃダメよ?」


「え、そうなんですか?」


「アキラは無意識で妖力をって術を使ってるから、普段からムラが無いのよ」


「そ、そうなんですか!?」


「あー、うん、そうみたい」


「アキラ姉たん、スゴい…、です!」


「いやー、スゴいと言われても、それが普通だからよく分かんないんだよねー」



 そう、ボクは気付けばノゾミちゃんの言うムラの無い妖術というのを使っていた。

 それが普通だと思ってたから、スゴいと言われてもピンと来ない。



「ま、とりあえず分かれて練習しましょうか。

 私はユイとキョウカとリンを見るから、アキラはアカリとタユネさんをお願いしていい?」


「りょーかい!…と言っても、ボクは何を教えればいいの?」


「普段やってることを二人に見せてあげる感じで。

 あんたの場合、言葉で説明するよりやって見せた方が早いでしょうからね」


「りょーかい!」



 というような感じで、放課後特訓は始まった。




*


「あー、というわけで、アカリちゃんとタユネちゃんには、これから妖力をる特訓をしてもらうわけだけど、とりあえずはー、そうだな、基本の『雷撃拳らいげきけん』と『風刃拳ふうじんけん』をしてもらおうかな」


「「はい!」」


「じゃあ、まずはタユネちゃんから!」


「はい!」



 ボクに言われて、タユネちゃんは拳に妖力を集め始めた。



「『雷撃拳らいげきけんっ!『風刃拳ふうじんけん』っ!」



 タユネちゃんは右手に雷を、左手に風の刃を纏った。

 でも、その纏う妖力に違和感を感じたボクはタユネちゃんに尋ねた。



「タユネちゃんのランクって何だっけ?」


「Bランクですよ」



 Bランク!?

 あれ?でも、編入試験で見た『雷華豪風拳らいかごうふうけん』は、少なくともAランク相当の威力は出てたような…?



「あ、あの時のことは自分でもよく分からなくて…

 何故かいつも以上の力が出せたんです」


「なるほど…

 ということは、あの時のあの妖力、あれがタユネちゃんのりあげられた妖力だったわけだ!」


「え、あ、そうなんですか?」


「うん!

 実技試験の威力テストにおいて、タユネちゃんがAランク相当の実力を出せたのは、妖力の収束にムラがなくて、術を無駄なく完璧に的に当てられたからだよ、多分!」


「な、なるほど…!」


「だから、あの時のことを思い出しながら、もう一度術を発動してみて?」


「あ、あの時のこと、ですか…、で、でも、あの時は……、」



 自信なさげな表情を見せるタユネちゃんを励ますために、ボクは術を解いたタユネちゃんの両手をギュッと握りしめた。



「大丈夫だよ!タユネちゃんならきっと出来るよ!!」


「ア、アキラさん…っ!!はいっ!!」



 一瞬顔を赤らめたタユネちゃんだったけど、すぐに真剣な表情に戻ると、再び術を発動させた。



「『雷撃拳らいげきけんっ!!『風刃拳ふうじんけん』っ!!」



 すると、今度の術は、明らかに先程よりも両手に纏った雷と風の刃の質が違っていた。

 んー、何て説明したらいいのか分からないけど、よりスパーク感が増し増しで、ビュンビュンッ!と風切り音が増し増しで、見た目のスゴさが増していた。



「こ、こんな感じですか?」


「うんうん!!いい感じだよ!!明らかにさっきより強そうだもん!!

 さすがタユネちゃんだね!ボクが見込んだだけあるよ!!」


「あ…、えへへ♪ありがとうございます!」



 そう言って、頬を赤らめながらにっこり笑ったタユネちゃんはとてもカワイかった♪



「アキラ姉たん、やっぱり天然たらし、です…!」


「ん?アカリちゃん、何か言った?」


「何でも、ない、です」


「そう?じゃあ、次はアカリちゃんだけど……、」



 とまぁ、そんな感じでボク達の特訓は続いていった。




*


 アキラ達“妖犬ようけん”チームと、ノゾミ達“妖狐ようこ”+リンチームに分かれて放課後特訓をすることになった初日、まずは妖術使用時における、妖力の無駄遣いを無くすトレーニングを行うことにした。



「まず、ユイもキョウカも妖力をコントロールする方法を覚えましょう。

 ただ、その目的は異なるわ。

 ユイは、一度に使う妖力を抑えながらも妖術の威力を増すために、

 キョウカは、威力範囲をより正確にコントロールするために」


「はい!」


「威力範囲のコントロール?」


「キョウカの場合は、一撃の威力が大きすぎて、下手するとこの世界ごと破壊しかねない。

 かといって、手加減した攻撃だと…、それでも大概の敵には十分なんだけど、相手によっては抵抗されて、逆に大技を打った直後の隙をつかれかねない。

 例えば私や、ヨウイチ、ヒカリ、イツキやセイラみたいな相手ね」


「さすがはノゾミ姉ぇや、あに様達だぞ!」


「私なんかはキョウカお姉さまに加減してもらったとて、勝てる気がしませんが、さすがはノゾミお姉さま達です…!」


「まぁ、セイラに関してはキョウカが本気の本気で相手したところで敵うか分からないような底知れなさがあるけど、あれは正直例外中の例外の生物ということで…

 ともかく、キョウカは本気を出しつつも、被害をピンポイントに抑え込めるだけのコントロール能力を身に付けないと、世界も自分も危ない、ということね」


「りょーかいだぞ!」


「それとユイ」


「はい!」


「あなたの特訓の目的はさっきも言った通りだけど、それとは別に潜在能力の覚醒も特訓の目的の一つになるのは言うまでもないわね?」


「はい!」


「VRで見せたあの“銀のオーラ”の力、あれを現実でも引き出せれば、きっとそれだけで()()S()()()()()()じゃ太刀打ちできない程の強さを手に入れられると思う。

 その上で、妖力のムラを無くせれば…、後は言わなくても分かるわよね?」


「…はい。

 でも、具体的に何をすればいいでしょうか?」


「まずは地道な訓練しかないわね。

 何がきっかけであの力に目覚めるか分からないし、とはいえ、具体的な力のイメージはあなたの中に残ってると思うから、その力を意識しながら、妖力トレーニングをするのが一番かもね」


「あの時の力を意識しながら…、分かりました、やってみます!」


「うん、頑張って!」



 最後のアドバイスに関しては、私自身にも言えることだ。

 前世では無意識のままに覚醒して、忘れてしまっていたあの“真紅しんく六尾ろくび”の力、あれをはっきりとした意識下で使えるようにしなくちゃいけない。

 あの力は、きっと今後において姉妹達を助ける手助けになるハズだから。


 すると、今度はリンが元気よく「はい!はい!」と手をあげながらこう言った。



「リンは!?リンは何をするにゃ!?」


「リンは…、特に何もすることは無いわね」


「にゃにゃー!?」


「だって、リンはアキラと同じで、無意識に妖力をって使用してるから、術にムラが無いし、そのコントロール技術もずば抜けてるし、むしろ私が教わりたいくらいよ…」



 リンが編入試験の実技試験で見せた『水竜降来すいりゅうこうらい』は見事の一言だった。

 あれだけの妖力と術のコントロールテクニックは、一朝一夕で身に付くようなものじゃない。

 生まれもったセンスもあるのだろうが、前世でアキラ(サキ)によく懐いていて、アキラのしていたことを目で見て肌で感じていたから、かもしれない。



「じゃあ、リンは何をすればいいにゃ~…?」


「リンは基礎体力の向上が目下の課題かしらね?

 あとは、“猫又ねこまた”には“猫又ねこまた”にしか使えない秘術もあるかもしれないし、その辺りの研究というか、資料探しとか、かしらね?」



 “妖猫ようびょう”、特に“猫又ねこまた”に関しては、歴史の表舞台に出てくることがほとんど無いために、その詳細な能力や独自の術に関するデータが少ない。

 とはいえ、“真紅しんく六尾ろくび”のような例もあるので、かなり古い文献(資料価値としては低いと言われている物なども含めて)にまで遡って、一度調べてみるのも面白いかもしれない。



「にゃ~…、調べ物は苦手だにゃ~…」


「その辺はショウやアキホに頼んでみるのもいいんじゃないかしら?

 特にアキホなら絶対に断らないと思うけど」


「にゃ!その手があったにゃ!

 今日帰ったらアキホねーねに頼んでみるにゃ!」



 と、そんなこんなでユイとキョウカ、そしてリンの特訓が始まるのでした。




*


「ねぇ、ショウ姉さーん、何で私達は特訓に参加しなかったんですか~…?

 はぁ…、参加したかったな~…、妹達の頑張る姿…、それに特訓でしたたる汗とそのかほり…、はぁ…、はぁ…、あぁ、想像しただけで濡れちゃう…♪」


「ニャぁ…、アキホちゃんはどうしてそうなっちゃったのニャ…

 前世ではもっと()()()()()だったハズニャ…」



 隣でそんなド変態発言をする妹にドン引きするウチは、思わず溜め息をついた。

 確かに、ウチ(イシス)ヒカリ(イーディス)ちゃんに服従してからのアキホ(イリス)ちゃんは、変態(ドM)に覚醒してたけど、転生してからさらに超変態(シスコンドM)に進化してしまった。



「どうしてこうなったニャ…」


「ショウ姉さーん、今からでも皆の所に戻りませんか~?」



 そう言いながらウチの腕にすり寄ってくるアキホちゃんは、まるで猫みたいだった。

 いや、“妖猫ようびょう”なのだから、猫なのは間違いないけど…


 …まぁ、こんな風にアキホちゃんから素直に甘えられるのも、悪い気はしないのニャ♪



「まぁまぁ、ウチらにはウチらでやることがあるんニャ」


「やること?」



 ウチはアキホちゃんの頭(特に猫耳の裏側辺り)をなでなでしながら言葉を続けた。



「そうニャ。

 というわけで、目的地に到着ニャ」

 

「目的地って、ここ図書室、ですよね?」



 そう、ウチらがノゾミちゃん達と別れた後に向かったのは、ここ、妖獣高校の図書室だった。



「…はっ!?まさか、ショウ姉さん、放課後の図書室は人が少ないからって、私を襲う気なんじゃ…!?もっ、勿論、私はいつでも襲われる覚悟は出来てますけどッ!!」


「さすがに不特定多数の人がいるようニャ場所で、妹を襲うようニャ趣味はウチにはニャいニャ。

 そうじゃニャくて、ここに来たのは古い文献を調べてみようと思ったからだニャ」


「文献、ですか?」


「そうニャ。

 アキホちゃんも昨日、レイさんから聞いたでしょ、超ドマイナーニャ文献のことを」


「ああ、歴史資料としての価値が低くて、所々史実と異なる表現もある上に、明らかに創作と思われる箇所もあった、とかいう文献の話ですね?

 まさか、その文献を探すつもりですか?」


「いやいや、同じ文献を探すつもりはニャいよ、というか、その文献ニャらユイちゃんかレイさん経由でアリスガワ家から借りればいいことだしニャ」


「それもそうですね。

 では、何を探すつもりなんですか?」


「ウチら“妖猫ようびょう”、特に“猫又ねこまた”、もしくは“猫又ねこまた”とは別の進化種に関する記述があるかもしれない文献を探してみようかニャって」


「あ、それってもしかしてリンちゃんのためですか!?」


「それとアキホちゃんの、ニャ♪」


「私の?…あ、そうか!今の私は“妖猫ようびょう”でもあるんでしたね!」



 アキホちゃんは前世では純粋な魔人だったけど、ウチのクローンとして作られた肉体に魂を転生させられたから、“妖猫ようびょう”と魔人のハーフとなったのだが、時々そのことを忘れることがあるようだ(厳密には、さらに魔獣ガモスとの合成獣キメラにもなるのだけど)。



「恐らく、ノゾミちゃんも同じようニャことを考えているだろうから、先んじてウチらで調査を進めておこうと思ってニャ」


「ノゾミちゃんの考えていることが分かるんですか?」


「というか、リンちゃんやアキホちゃんが今以上に強くニャるには、それしかニャいからね」



 リンちゃんの妖力や妖術の扱い方に関しては、ウチら姉妹の中でもずば抜けてる。

 そして、それは自覚が無いだけで、アキホちゃんも同じだ(“妖猫ようびょう”としてはビギナーだけど、前世でウチ(イシス)アキラ(サキ)ちゃん、ノゾミ(イザヨイ)ちゃんの戦い方を見てきたことで、潜在的に妖力や妖術の効率的な使い方を理解しているのだろう)。


 なので、今ユイちゃん達がやってるような特訓では、リンちゃんとアキホちゃんの実力が伸びることはほぼ無い。

 だから、ウチらは特訓に参加しなかった(ただリンちゃんに関しては、ウチらに比べて基礎体力の低さという問題点があったから、特訓に参加するのを止めなかった)。


 その辺のことはノゾミちゃんも分かってるだろうから、次に考える特訓内容は、と考えると…、



「“猫又ねこまた”のみが扱える秘術とか、“真紅しんく六尾ろくび”のようニャ失われた進化の可能性がニャいかを調べることニャ」


「な、なるほど…!さすがはショウ姉さんにノゾミちゃんです!

 あ、でもそれならアイツの作ったVRゲームをやってみるのが一番なんじゃないですか?」


「勿論、それも試すと思うニャ。

 だけど、ウチらにはキスによるパワーアップという魔王様からのギフト(チート)があるニャ」


「…そうか!私達は、姉妹と仲を深めれば深める(キスをすればする)程にパワーアップしていく!

 そうなると、潜在能力もどんどん上がっていくから…!」


「そう、ウチらの可能性は無限大ということなのニャ♪」



 勿論、キスをしてパワーアップする度にVRゲームを起動して…、ってのを繰り返せばいいだけの話だけど、それより先に情報としてその先の可能性がある、というのを知っておくのは悪くない。



「ま、高校の図書室にそんニャ貴重な文献が眠ってるとも思えニャいし、

 仮にあったとしても、有益な情報が得られるかどうかも分からニャい。

 それでも、この先ウチら姉妹にどんニャ厄介事が起こるか分からニャいから、その時にニャって後悔だけはしニャいように、やれることはやっておきたいからニャ」


「ショウ姉さん…!」



 前世では色々悲しいことがあって、今世でも転生してすぐは陰謀に巻き込まれて、しなくていい姉妹喧嘩で皆に迷惑かけちゃったからね…


 だから、今のこの平和を、幸せな日々をくさないためにも、ウチは…!



「そう言うことなら、全力で資料を見つけ出しましょう!

 そして、見つけられたなら、リンちゃんに『アキホねーねスゴいにゃ!大好きにゃ!ねーねのお嫁さんにして欲しいにゃー!』って言われたりなんかしたりして…っ!ぐへへへ…♪」



 アキホちゃんが気持ち悪い顔をしながら妄想世界に飛び立ってしまい、しばらく帰ってきそうに無かったので、ウチはその場にアキホちゃんを放置して文献探しを始めるのでした。

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