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伝えたい僕の気持ち

作者: 赤崎幸

以前投稿した

https://ncode.syosetu.com/n6280hq/

の別視点の短編です。

先に読んでもらえると話も分かりやすいですし、うれしいです。

祝賀パレードが終わろうとしている。

僕を筆頭に僕たちは結果的に英雄と崇め立てられている。

でもそれは間違っていると思う。

この戦いで多くの人間が戦い、そして命を落としていった。

その名前も知らない者たちのおかげで僕はここに立っている。

僕はたまたま戦いの終止符を打つために必要な敵を倒したに過ぎない。

祀られるべきは僕をそこまで運んでいってくれた者たちだ。決して僕ではない。


僕もまたこの戦いで多くのものを失った。とても大切なものを。知己の仲間を、そしてかけがえのない僕の妹だ。正確には本当の妹ではないけれど年も近く、よく懐いていてくれた。

元々僕らは孤児院育ちで学もないから傭兵として働いていた。

幸いなことに僕らのグループは特に大きな損害もなく大戦を生き残っていた。もちろん妹も。この戦いに特に信念を持っていなかったが、妹だけは命を懸けてでも守り抜こうと思っていた。


戦中にあって気になる人ができた。それは戦力の観点から途中で配属された衛生要員の女の子。後方要員だったけれど、いつも仲間のことを気にかけていた。時には前線に自ら出ることもあった。こんなクソみたいな戦争の中でも自分の使命を全うしようという信念を感じた。本当に強い人はたとえ泥にまみれても美しいのだと初めて知った。

妹にも恥ずかしいけれど相談してみたりした。そのたび妹はからかいながらも真剣に話を聞いてくれた。もちろんあの子には内緒で。

他の仲間には悪いけれど、もしこの戦争が無事終わったら3人で暮らすのも悪くはないなと思っていた。


それが悪かったのかもしれない。

妹が戦死した。

それは油断していたわけでも、無茶な攻撃をしたわけでもなく、僕らが今まで敵にしていたように単なる兵士の一人として死んでいった。


それからのことはあまり思い出したくない。無理な突撃を仲間に指示したり、僕自身も危険な攻撃を仕掛けたりした。妹の弔い合戦のように。

結果、知己の仲間は死に僕らのグループは補充要員だらけになった。後から来た者にも多くの犠牲が出た。そしてついに名前が分かる仲間は彼女だけになった。

僕は敵だけじゃなくて仲間も殺したんだ。僕が背負っている罪は大きい。人一人の人生をかけても償えるものじゃない。

でも、もしこの戦いが終わっても生きていていいと彼女が言ってくれたならその時は彼女にプロポーズをしよう。そして傭兵なんか辞めて失くしたものを弔いながら穏やかに過ごそう。


パレードが終わった。

僕は彼女に話しかけようと思っていたけれど、彼女の方から話しかけてきた。どうやら思い出話をしたいらしい。もちろん僕は快諾した。だけど、緊張して少し笑顔がぎこちなかったかな。

恥ずかしさから他の仲間も呼ぼうかと持ち掛けたけれど、彼女は古参メンバーだけで話したいらしい。つまり僕と彼女。

これは最初で最後の機会かもしれない。全部打ち明けよう。結果がどうなっても構わない。言わないと後悔すると思った。


僕は着々と準備を始める。いつも戦闘服しか着ていなかったから今持っているものの中で一番きれいなものを。そして、いつの日か無事に帰還したときに飲むと約束していたお酒を。


彼女の部屋の前に着いた。

やっぱり緊張している。でもどこか嫌じゃない緊張だ。こんな気持ちになったのは久しぶりかもしれない。

部屋の扉を開ける。そこに彼女はいた。


綺麗だ。


彼女は白いドレスとささやかな化粧をしているようだったけれど、それだけじゃない立ち振る舞いがとても綺麗だった。

声をかけようとした時、彼女は短刀で首を貫いた。

赤い飛沫が辺りを染める。

何が起こったのか最初は分からなかった。体だけが動いた。


血が止まらない。僕は大声で助けを呼んだ。

なぜこんなことをしたのか。何か辛いことがあったのか。そう聞いても彼女は何も答えなかった。

僕には伝えないといけないことがあるのに。


不意に彼女の目を見た。

悲しげでいて、でも何故だか満ち足りた目だった。


僕は全てを失った。


蛇足な気がしますが、そうじゃなかったんだよということを書きたかったのです。

連載にした方が読みやすかったですね。

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