S級パーティ
「ここが冒険者ギルド本部ですか!」
ルーナは目の前に聳え立つ冒険者ギルド本部を見て感嘆の声を上げる。
冒険者は、基本的に冒険者ギルドに所属する。
【白銀の斧】、【百鬼夜行】、【戦乙女の涙】……S級以上の冒険者がギルドマスターとしてギルドを設立し、そこに冒険者が参加してクエストを受ける。
そして、ここ帝都にある冒険者ギルド本部はそんな冒険者ギルドの総本山で、冒険者試験なんかもここで行われている。
「凄いですね、冒険者っぽい人がどんどん中に入っていきます。……あっ、魔術師も結構いますね」
「魔術師は意外と多いんだよな、冒険者に。遠距離攻撃ってのは便利だし、一パーティに一人は欲しいんだろうな。サポートも出来るしよ」
「なるほど」
冒険者はその実力に応じてランクに分かれている。
一番下のE級から、最高峰のSS級まで。SS級ともなるとかなり人数が絞られる。
確か、数か月前に南の方で復活したというB級の魔族をS級冒険者パーティ二つで討伐したという話があった。魔族は魔神の眷属。その力は人智を超えている。それをたった二パーティで討伐したというんだから、S級の強さが伺える。
今回の狙いはエレッタの情報にあった【烈火の息吹】だ。
パーティの不和が認められる、S級パーティ。
メンバーは炎帝ガレウス、リリエル、ジャック、アーシェの四人組。
リーダーは炎帝ガレウス。数年前から急激に力をつけ始め、多くの高難易度クエストを達成してきた。
現在冒険者ギルドには無所属。
うちのギルドに招き入れるにはうってつけの冒険者パーティだが……。
「冒険者はただでさえプライドが高い。正攻法じゃ傘下に加わるという選択はしてくれないだろうな。無所属なら尚更なにかこだわりがあるんだろうし」
「そうですね……」
「まあ、まずはどんなものかこの目で確かめないことにはだな。情報を疑う訳じゃないが、結局俺の下で俺の代わりに働いてもらうんだ。俺がこの目でチェックしねえと」
仮に四人全員いれたとして、反発されるのも面倒だからな。
しっかりと見極めねえと。
「じゃあ入るとすっか。情報だと今の時間にクエストの達成報告をしているらしいからな。さて、どんなもんか。じゃあルーナ――」
とルーナの方を振り返ってみると、ルーナがじーっと何かを見ている。
「……どうしたルーナ」
「い、いいえ! 別に欲しいとは……! 気にしないでください、冒険者ギルドに行きましょう!」
なんだ……?
ルーナの目線の先を辿ってみると、カラフルな飴が売られた出店が出ていた。
なるほど……。
「食べるか?」
「い、いえ。これから大事な用なので……!」
「あんま遠慮すんなよ。余計な我慢はストレス溜まるぜー」
「うっ、す、すみません……」
「で、どれにする?」
「あ、青いやつ! 左から二つ目の!」
俺はさっさと出店へ行くと、ご所望の飴を買う。
ルーナはワクワクした表情でその綺麗な青色の飴を見つめている。
子供だな、こう見ると。
俺はぐいっと飴をルーナの口に突っ込む。
「むぐっ! ……甘い!」
「美味い?」
「はい! 美味しいです!」
ルーナは目をえへへっと垂らしながら言う。
ルーナはニコニコと笑みを浮かべている。まったく、飴くらいで幸せそうなもんだ。こんなんで感謝してくれるなら安いもんだな。
「さて、中に入ろうぜ」
「あい!」
ルーナは飴をちろちろしながら俺に続いてギルド本部へと入る。
中に入ると、一気に熱気を感じる。
見回すと、至る所に冒険者が居る。
鎧を着た剣士、極限まで軽さを求めた武闘家、古びたローブを着込んだ魔術師、大剣を背負った狂戦士――。どこを見ても、かなりの実力がありそうな強者だらけだ。
一方で、新米冒険者も居たりして、さすが本部という感じだ。
冒険者試験受験者はこちらという看板も出ている。
中は吹き抜けの二階建てになっており、左右に大きな階段が付いていた。
正面には受付があり、中では冒険者ギルド職員がせわしなく働いている。
「さて、【烈火の息吹】は……」
すると、急にどよめきが上がる。
「おいあれ……炎帝だぜ!?」
「てことはあれが、【烈火の息吹】か! 初めて見たぜ」
さっきまでの喧騒がピタリとやみ、全員が受付の方を見ている。
「さっそくおでましか」
ルーナは飴をなめながらコクリと頷く。
受付前には、四人の集団が居た。
ローブを纏った赤髪の男、かなり露出の激しい白髪の女、長身の眼鏡をかけた茶髪男、そしてその後ろに立つ軽装鎧を付けた蒼髪の女。
情報通りなら、あの先頭の赤髪が炎帝……。
だが、何だろうかこの違和感。
俺はルーナを見る。
ルーナは飴をなめながらきょとんとした顔で俺を見つめ返す。
「それでは、これが今回の報酬です」
「助かるよ、ありがとう」
「い、いえいえ」
受付嬢は炎帝のお礼に顔を真っ赤に染める。
「そ、それにしても……今回はアーシェさんがご活躍だったみたいですね」
「え、いや……いいえ……そんな」
蒼髪の女性が、苦笑いをして否定する。
すると、その声に周りの冒険者たちが小声で囁きだす。
「あれ、炎帝のところのお荷物女じゃないか?」
「活躍? あぁ、炎帝のおこぼれでも貰ったのか? はは、まあゴミみたいな冒険者を入れておくのも恥ずかしいしな、花を持たせたんだろう」
「羨ましいぜ、炎帝に気に入られればS級になれるってんだから」
男たちはケッと恨めしそうに炎帝のパーティを見る。
なんだ、随分と評判が悪いやつが居るみたいだな。
「お荷物女って?」
俺は三人で集まって炎帝の話をしていた冒険者に話しかける。
「なんだ兄ちゃんしらねえのか?」
「まあね。教えてくれねえ?」
「あの蒼い髪の女いるだろ?」
男は青髪の剣士アーシェを顎で指す。
良く見ると鎧はボロボロだ。表情も暗い。
とても炎帝と同じパーティとは思えない恰好だ。
「炎帝の愛人って話だぜ」
「愛人? 冒険者じゃねえの?」
「一応戦えはするらしいけどな。前任の剣士が抜けて代わりに入った女だよ。でもよく見てみろよ、顔は相当美人だが、鎧も剣もボロボロ。噂では全く使い物にならない剣士だって話だぜ。それでもS級パーティとして戦えるってんだから、炎帝は相当な実力者だよな」
「はは、剣士じゃなくて炎帝の愛人だろ? ったく、いいよなあ女はよ。俺も愛人にしてもらおうかな」
「お前じゃ無理だ!」
ガハハハと男たちは笑う。
「炎帝の愛人……」
俺はもう一度彼らを見る。
炎帝は爽やかな笑みを浮かべながら、蒼い髪の女をねぎらうように背中をポンポンと叩いている。
彼女の筋肉の付き方からしてスピードタイプの剣士か。佇まいも所在なさげだが常に周りを警戒している。
お荷物と言うにはあまりにも……。
「炎帝さん! うちのパーティと合同で霊峰のクエストにいかないっすか!?」
バンダナをした若手の冒険者らしき男が無謀にも炎帝に声を掛ける。
「申し出はありがたいが、僕たちはソロパーティでね。誰とも組む気はないんだ」
「そんなあ……」
「悪いね」
炎帝たちはまったく相手にもせず、そのまま冒険者ギルドを後にする。
冒険者ギルドは、さっきまでの静かさが嘘のようにまた一気に騒がしくなる。
「S級パーティ……さすがに凄いオーラでしたね」
「そうだなあ。どうだった、ルーナから見て炎帝は」
「凄そうなオーラがありましたよね。でも、魔術師としての強さを見せつけないようにしているというか……あれって魔力総量を上手く隠してるんでしょうか。凄い技術ですよね。レヴィン様もいつもしているし」
「……いや、多分あいつはしてないよ」
「え?」
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