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本格始動

 ルーナが来てから、数か月の月日が流れた。


「レヴィン様、先ほどユガ様が探していましたよ」


 エレッタは言いながら俺の部屋へと入ってくる。


「まったく、何したんですか今度は」


 俺は読んでいた本から視線だけをエレッタの方に向ける。


「逃げただけだけど」

「何でまた……」

「だってあいつ残って復習しろってうるせえんだもん」


 はぁ……と、エレッタのため息が漏れる。


「そんなことだろうと思いましたが……。いいんですか、いくら面倒くさがりだからとはいえ、ユガ様が教えて下さる地理や歴史は重要なのでは?」


 エレッタは俺のことを心配するように言う。


「もう全部覚えたし、適当に聞き流すのも面倒なんだよ」

「もう、だからちゃんと覚えないと――って、ええ!? もう覚えたんですか!?」 


 エレッタは仰天のあまり持っていた洗い立ての服を落としそうになり、慌てて抑え込む。


「ユガ様の授業は先週から始まったのでは……」

「面倒だったからな、毎日毎日あのおっさんに決まった時間教えられて拘束されるくらいなら、一気に自分で覚えた方が早いだろ」


 そう、俺はさっさと独学で全てをマスターしたのだ。


 面倒くさがりとはなにも無知でいい訳じゃない。教養の大事さは分かっている。効率よく、先の楽のために今を生きることこそが重要なんだ。


 知識も必要不可欠。だが、毎日二時間拘束されてゆっくり教えられるくらいなら、短期集中で全部覚えた方が早い。あとはまあ、別に本があれば調べればいいしな。


「通りでまた図書館に籠っていると思ったら、そんなことをしていたんですか……。まあさすがというか、ブレないというか……。そんなことが出来るのはレヴィン様くらいですよ」

「そうです、レヴィン様は凄いんです!」


 視界の端で黒い髪がバサッと揺れる。

 それは満面の笑みで腕を組み、ふんふんと鼻をならす。


「ルーナさん」

「レヴィン様は凄いんです! 強くて優しくて、頭もいいんですよ!」

「まあ概ね同意ですが……優しいかは疑問かと……」

「優しいんです!」


 ルーナの目はキラキラと輝いている。

 その圧がエレッタを超越する。


「ま、まあ否定はしませんが。ルーナさんを助けたのもレヴィン様ですし……」

「その通りですっ! わかってるじゃないですか!」


 ルーナは興奮気味に両手の拳を胸の前で握る。


「おはようルーナ」

「おはようございますレヴィン様!」


 ルーナは小動物のようにるんるんと俺の元へと駆け寄ってくる。


 以前着ていた薄汚れた布はもう既に捨てられ、今は何故かエレッタと同じ侍女の制服を着ている。ぼさぼさだった黒髪は綺麗に洗われ、緩くおさげのように二つに結ばれている。


 見た目はこうも変わるのかと驚いたものだ。


 食事もしっかりととり、すやすやと眠れる環境。痛んでいた肌もツヤっと輝き、やせこけていた身体は標準的な体型へと戻っていた。


「魔術の修行は順調か?」

「さっき午前の分が終わりました! いやあ、楽しいですね魔術!」


 ルーナは大魔術師の卵だ。その才能は計り知れない。

 のほほんとしているがその才能は本物だ。


 俺が試しに訓練場に連れ出して魔弾を撃たせてみると、まだ特訓すら始めていないのに既に的を貫通する威力を持っていた。


 俺の目は節穴ではなかった。


 ここ数か月は、俺が図書室から拝借してきた魔導書を読みながら、少しずつ魔術を習得していっている。


 ルーナには家がない。

 唯一の肉親だった母親も死んでしまい、その後はずっとオルランドファミリーの経営する店で住み込みで働かされていたらしい。そして丁度良い年齢になったから売りに出されるところだった……と言う訳だ。


 だから、ルーナには帰るところがないんだ。


 だからという訳じゃないが、街はずれにエレッタ名義で家を買った。

 そこをアジトにし、そこで暮らしてもらっている。


 だが、余程この城が気に入ったのかすぐに会いたいと言ってくる。

 面倒だからやめろと言ったが、眼をウルウルとさせて迫ってくるから俺が根負けした。このまま平行線で面倒を続けるなら要求をのんだ方が楽だからな。


 国の中枢であるこの城に部外者が立ち入ることは出来ないのだが、そこは俺の“瞬間転移”の出番だ。一回転移して来たら数日はこの部屋に籠り、勝手に一緒のベッドで寝てくる。まあバレなければ別に問題ではないから適当にしろという感じだが。


「今は戦闘系の魔術はだいたい初級、中級は覚えて……結界とか範囲系の魔術も学び始めました!」


 ニコニコしながら報告し、ルーナは俺の方に頭をよこしてくる。

 これがルーナの合図なのだ。ネコかこいつは。


「はあ……まあ、がんばってんな」


 俺はやれやれと溜息交じりにルーナの頭を撫でる。

 ルーナは嬉しそうに目を瞑る。


「そろそろ本格的にギルドメンバーを集めていきてえな」

「おお、いよいよですね! 私が先輩になるときが来たという事ですか!」

「まあそうですねえ。そうなると、私が一番の先輩ということになりますが」

「うっ……」


 エレッタはニヤニヤとルーナを見る。

 何でここで張り合ってんだ……。


「世話役兼秘書のエレッタ、大魔術師の卵のルーナ。次に欲しいのは……即戦力だ」

「即戦力……」


 現在のギルド構成員はルーナとエレッタの二名だ。

 ルーナ以降まだ増えてはいない。皇子もいろいろと忙しいんだ……。早く抜け出してえが、ここは我慢だ。


 一応エレッタの下には何人かの使える人員を整えて貰った。仕事が出来る奴で怖い……いつか俺の寝首をかくんじゃねえかこいつ。


 まあ冗談だが、これで出歩かなくても街の情報はある程度入ってくるようになった。ただ、表層的なものだから最終的には俺が出向く必要があるんだが。


 エレッタの集めた人員はエレッタの上にいる人物が皇子であることを知らない。俺のことを知っているのはトップのギルドメンバーのみ。それ以外は、基本的に各メンバーをトップとし、組織内で完結させる。これが理想形だ。


 あまり俺を知っているメンバーが多いと面倒だからな。


「ルーナは魔術師だがまだ修行の身だ。ここから先は本格的に動き出すんだ、俺の護衛もできて、資金の調達も出来る人材が欲しい」

「となると……冒険者ですか?」

「その通り。冒険者を入れて、そいつに冒険者ギルドのギルマスになってもらう」

「なるほど、冒険者ギルドを抱え込むんですね」


 俺は頷く。


「ギルマスとなると、相当な手練れが必要なのでは? ギルマスになれるのはA級以上。なかなか難しいですよ」

「まあなあ。既存のギルドを入れてもいいんだが、それだと内部の反発がある可能性がある……それは面倒だ。だから、やるなら一からギルドを立てるしかない。まずは、旗印となる強い冒険者が一人欲しいな。残りのメンバーは後々試験でも設けて選抜していけばいい」


 そして彼らが上手く回れば、俺は何もしなくても冒険者の収益が入ってくる。

 最高だな。


 そいつを中心に、俺達のギルドが全面バックアップした冒険者ギルドを作り、依頼をこなしていく。実績が上がれば、恐らく自動的に世間の評価も上がるだろう。


 まあそのためにはこちらからの見返りも必要だが……それは追々だな。うちのギルド内で武器の調達や修理、旅の準備などが出来るように整えるのが理想だが、一気に何でもはできないからな。

 

「私も手伝えればいいんですが……」


 と、ルーナはしょぼくれている。

 自分が即戦力ではなく育成枠なのが不甲斐ないんだろうか。


「いいんだよ、お前はこれから強くなってくれれば」

「そうでしょうか……」


 ゆくゆくは魔術学院にもいかせたいし、最終的には魔術協会で活躍してもらいたいところだが……今言うのはプレッシャーになるな。


「そうだな、んじゃルーナの杖でも買いに行くか」

「え……えぇ!?」

「まあ杖何かなくても魔術は発動するけどよ、杖あった方が何かと便利だからな」

「いいんですか……?」


 ルーナは恐る恐る言う。


「もちろん。貴重な人材だからな。ご機嫌とっとかねえと」

「も、もうそんなこと言わないでくださいよ!」


 ルーナは怒ったようにいーっと歯を見せる。

 だが、にやけているのが丸見えだ。


「――よし」


 俺は仮面をつけ、ローブを羽織る。


「エレッタ、留守を頼むわ」

「承知しました。一応こちらで冒険者について調査は始めておきます」

「助かる」

「気を付けて行ってきてください。夕飯までには帰ってきてくださいよ」

「お母さんか! んじゃいくぞルーナ」

「はい!」


 俺はルーナの腰にガシっと手を回す。

 ルーナは小さく、「んっ」と声を上げる。僅かに頬が赤く染まっている。いい加減慣れて欲しいんだけど……。


「んじゃエレッタ、後は頼んだ」


 そうして俺は、街へと転移した。

「続きが気になる……」「面白い!」と思ってもらえたら、


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どうぞよろしくお願いいたします。

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