魔弾
「はあ?」
金髪の男は、訳が分からないと言った様子で首をかしげる。
「何言ってんだこのガキ、頭でも湧いてんのか? なあ?」
男は後ろに立つ二人の部下らしき男と、へらへらと笑う。
今更他人の反応なんて気にならない。俺は、こいつを俺のギルドメンバーとして向かい入れる。
ぐったりとした少女が、ゆっくりと俺の方を見る。
「なあ」
俺は少女に問いかける。
「俺と一緒に来るか?」
「えっ……?」
困惑した様子で、少女はオドオドと辺りを見回す。
しかし、他に言われていそうな人物が見当たらず、やっと自分に言われているということに気が付くと少女はハッと息を飲む。
「えっ……と……私……」
「俺はそいつとは違う。どうだ? そんな奴についてくよりよっぽど良いと思うぜ?」
すると、少女は一瞬躊躇する。
「三食寝床付きだ。ゆくゆくは働いてもらうけどな」
「そ、それは……」
怪訝な表情をする少女。
しかし、俺の目を見て本気だと悟ったのか目を見開く。
「い、いいんですか……?」
「あぁ」
「でも……」
少女は俺の顔を見た後、隣の金髪の男を見上げる。
どうやら俺がやられないか心配してくれているみたいだ。
「安心しな、勝つから。来るだろ?」
すると、俺の言葉が響いたのか少女は唇を噛みしめ、ゆっくりと頷く。
「承諾と見た。任せとけよ」
さて、後はこいつらから引き剥がすだけだ。
俺は男達を見る。
すると、金髪の男が笑いながら言う。
「はは、何ガキが粋がってんだ。面白いもん見させてもらったぜ。もうお助けごっこは十分か? 勝てるとふかした勇気は褒めてやるよ。満足したらとっとと帰りな。俺の気は長くねえぜ?」
「だから、俺はその子を連れて帰るって」
「喧嘩うってんのか? てめえ俺たちが誰だかわかってんのか?」
「知らねえけど」
「オルドランファミリーだぜ? 逆らったらどうなるか分かってんのか?」
金髪の男の表情が険しくなる。さっきまでの馬鹿にしたような笑いは消えている。
「…………」
「はっ、今更ビビってもおせえ。――よーし決めた。てめえはここでぶっ殺す。自分の立場がわかってなかったみてえだが、俺が今から教えてやるよ」
金髪の男の後ろに立つ二人の男が、ずいと前に出る。
全部で三人。その手には、ナイフや剣が握られている。
「今まで相当なぬるま湯に浸ってたみてえだな、だからこんなバカなガキが育つ。今回もなんとかなると思ってるのかもしれねえが、悪いが俺たちは本物だ。ガキでも殺すのが俺達の流儀さ。どこのガキか知らねえが、身の程を弁えさせてやるよ」
そう言って、金髪の男は片手を上げると俺に向かって振る。
「――やれ」
「「はい」」
後方の二人が、ナイフを持って一斉に走り込んでくる。
「逃げて!!」
少女が、必死の形相で叫ぶ。
「ふははは! 大人の世界の怖さを教えてやるよ!! ガキが大層な正義感で調子乗って良い世界じゃね――」
瞬間。
俺の目の前に駆けていた二人の男は、金髪の男の後方に吹き飛んでいく。
ものすごいも音を立てて壁に激突し、ぐったりと項垂れている。
「……はぁ?」
金髪の男は唖然とした表情で眼を見開く。
「な……んだ今……何をした?」
「魔弾だけど」
すると、金髪の男はワナワナと震え叫ぶ。
「魔弾だと……? 初級魔術だぞ!? そんなもんで人間が吹き飛ぶわけねえだろうが! なめてんのか!」
「わかってねえなあ。魔術戦闘なんて初級魔術だけあれば勝てる」
「冗談……」
しかし、倒れた男を見てその身体に衝撃以外の外傷が見当たらないことを見て取ると、金髪の男の顔が一気に険しくなる。
俺が嘘を言っていない。それを理解したようだった。
得体のしれないものを見るような目で、男は後ずさる。
「てめえ……何者だ……?」
「ギルドマスター」
「ふ、ふざけろ!! 俺は……俺はオルランドファミリーのロイだ!! ガキなんかに邪魔されてたまるかよ!!」
男は剣を抜き、一気に突っ込んでくる。
それはもう馬鹿正直に。大人の力でねじ伏せれば、子供など押さえつけられると。そう信じているかのように。
「なめんじゃねえええ!」
金髪の男は剣を振り上げると、斜めに振り下ろす。
俺はそんなもの気にも留めず、まっすぐに手を翳す。
「――“魔弾”」
眩い閃光が視界を覆う。
極大のその魔弾はロイの身体を剣ごと押し返すと、そのまま身体を浮き上がらせる。
「ぐぅあああ!」
次の瞬間、ロイはその圧に後方に吹き飛んでいく。
それはまるで大砲のようで、誰が見ても初級魔術とは思えないだろう。
数十メートルも吹き飛び、激しい衝突音を上げロイは壁に激突する。
ズサッと地面に落ちると、カクっと項垂れる。
一瞬の決着。あっという間にその場を制圧してみせた。
「ふぅ……」
「す、すごい……!」
少女は目を輝かせて俺を見上げる。
安堵と興奮が入り乱れている。
良く見ると少女の口の端が切れ、僅かに血が出ている。
俺はそっと近寄ると、服の裾で血を拭う。
「ん……た、助けてくれてありがとうございます……!」
少女は何度も頭を下げ、俺にお礼を言う。
「いいって。こっちの都合で助けただけだし」
「それでも……私どうなることかと……」
少女の目には涙が溜まっている。
そりゃ怖いだろうな。この年であんな奴らに売られそうになるなんて。
「す、凄い魔術でしたね」
「あんたもあれくらい出来るようになるぜ」
「わ、私も……?」
「あぁ。あんたには魔術の才能がある」
少女はキョトンとしている。
今まで魔術など使ったことも無いのだろう。
「――はは、まあ、俺に付いてくれば大丈夫だ。悪いようにはしねえよ」
「はい……! 約束は守ります……!」
「名前は?」
「ルーナ……。ルーナ・エルドラード」
黒い髪の隙間から紫色の瞳を宿した少女は、そう力強く答える。
「ようこそルーナ」