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塔の王女と金色の術  作者: 立花柚月
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塔の王女のその後

その後、あたしはクロードさんとナテロ国へ向かった。近くに馬車が停められていて、それに乗って束の間の旅をした。戦場近くの丘で再会した後、あたしはしばらく泣き続けていたのだが、クロードさんはそれについては何も言及しないでいてくれた。非常にありがたい。ナテロへ向かう道中は意外と楽しかった。ナテロ国の一部はリネー国から逃げてきた人が居住できる場所になっているらしい。元々そこには誰も住んでいなかったそうだが、現在はとても賑やか。馬車の中から覗いただけだけど、皆楽しそうに農作業をしていた。何だかその様子を見たら安心した。今、ここに住んでいる人がこの後どうするかは分からないけれど…、少なくとも彼らには生活できる場所や仲間がいる。そして、そんな様子を眺めていたら、あっという間に市街地に入り、ナテロの王城が見えてきた。段々とその姿が鮮明に、大きくなっていく。

…そういえば、これからあたしはどうなるんだろう。クロードさんに何も聞いていなかったし、何も言われていなかった。なので、今更だけど、あたしは尋ねてみることにした。

「あの、クロードさん、今、あたしたちはどこに向かっているんですか?」

「アシュリアの母君の実家。事前に知らせてあるから大丈夫だ。というか、そもそもアシュリアを助けるっていうのは、母君の依頼だったんだよ」

元々クロードさんがリネーに来たのは敵情視察と、あたしのことを可能であればリネーから連れ出すことが目的だったそうだが、当のあたしがそれを断ってしまった。そこから戻った後で改めて依頼を受けたため、わざわざ作戦を立てて戦地のすぐそこまで来てくれたそうだ。つまり…、数年ぶりにお母様に会えるということだ。そう考えると何だか急に緊張してきた。窓に映る自分を見て、慌てて髪を整えた。意外とぐしゃぐしゃになってしまっている…。壁の上は風が強かったからかな。そして、そんなあたしをクロードさんはどこか楽しそうに眺めていた。


しばらくすると、馬車はゆっくりと大きな屋敷が並ぶ道へと入り、そのうちの一つの前で止まった。…ここ?すると、クロードさんが早速馬車から降りてあたしに手を貸してくれた。な、何だかありがたいけど緊張する…。あたしはそっと馬車から降りた。…と、その瞬間、屋敷の方から誰かに名前を呼ばれた。

「アシュリア!まあ、こんなに大きくなって…。無事で本当に良かった…!」

そこにお母様が立っていた。前に手紙と一緒に同封されていた絵姿通りの…、いや、それ以上に綺麗な姿。それに、絵と違って動いている。後ろにも大勢の人がいたが、お母様はそれを気にせず、強くあたしを抱きしめた。あたしはもう何も言うことができなかった。そして、少ししてお母様が離れてから、ようやくこれだけ言えた。

「お久しぶりです。…お母様。あたしも…、またお会いできて嬉しいです」

もう、二度と会えないと…、そう思っていたから。だから、言葉では言い表せないくらい嬉しくて。こんなほんの少しの会話だけでも幸せで…。それを少しでも伝えたかったのに、それ以外に何も言葉が思い浮かばなかった。お母様も安心したように何度も何度もうなずいた。…と、そこでクロードさんが後ろに控えていた人たちの方を見て驚いたような声をあげた。その目はそのうちの一人に向けられている。

「ちょっと待て、何であんたが王城でなく、ここにいるんだ。仕事はどうした?」

その言葉に、後ろの人々の中から一人の青年が出てきた。ものすごく整った顔立ちをしている。…けれど、どこかクロードさんに似ているような気がする。…一体誰なんだろう?雰囲気的にはクロードさんの知り合いみたいだけど…。あたしが戸惑っていると、その青年は華やかな、それでいて感情の読めない不思議な笑みを浮かべて答えた。

「こんな日に王城に籠っているなんて勿体ないことをしたくなくてね。それに、王女様に会ってみたかったから。それで、こっそり抜け出してきた。たまにはいいだろう?いつもは真面目に仕事しているし」

飄々とクロードさんにそう言ったその人は、その後であたしの方に向き直った。

「はじめまして。アシュリア王女。私の名はレナード。この国の王で、クロードの兄だ」

正直、その言葉に驚いた。しばらく何も口が聞けないほど…。そんなあたしの反応を見たナテロ国王はとても楽しそうな表情をする。いたずらが大成功した時の子どものような表情…。というか、王城にいなくて本当に大丈夫なのかな…。とかなり心配になった。…けど、そっか。レナード様がクロードさんとどこか似ていると思ったのは間違いではなかったみたい。血のつながりがあったのだから。

……と、そこであたしは不意に気付いた。それは、どうして最初に気付かなかったのか分からないくらい衝撃的なこと。今までずっと気になっていた、クロードさんの正体。クロードさんが国王であるレナード様の弟ってことは…、彼も王族ということになる。思わず絶句した。でも、だから、あまり敬語を使っていなかったのか…。普段、彼は使われる立場にいるから。

「クロードさん!?どうしてそのことを言ってくれなかったんですか!」

しばらく経ってからようやくそれだけ言えた。あたしの言葉にお母様を含め、周囲の人たちがぎょっとする。もう少し丁寧な言葉遣いをした方が良かったかな、と後から思ったけど、この際そんなのは放っておく。レナード様は「言っていなかったんだ?」というように少し驚いたような表情をし、クロードさんは苦笑した。

「言おうかと思ったけど、黙っていた方が面白そうだったから?後で種明かしした後の反応も気になったし。でも、そんなに驚くんだったら、全く反応してなかった最初の頃に言っておけば良かったかな」

なんてつぶやいた。でも、たぶん、そう言われても信じなかっただろうな…。どうやらクロードさんはあまり政治などの表舞台に登場することはないらしく、顔はほとんど知られていないそうだ。そのため、こうして直接あちこちに行って、その場所の状況をレナード様に報告するのがお仕事だという。確かに、「転移」という力も持っているし、クロードさんには最適かもしれない…。でも、それにしたって、言ってくれていたら良かったのに…。微妙に不満に思ったが、クロードさんは、

「隠していたことは悪かった。でも、まあ、取りあえずアシュリアをここに連れてこられて良かったよ」

そう言って、いつも通りに笑ったのだった。


それからしばらくして。リネーとナテロの戦いは、ナテロ側の勝利で幕を閉じた。現在はナテロがリネー領を統治している。荒れ果てた土地の復興に向けてレナード様は既に動き始めているようだ。完全に元に戻るには時間がかかると思うけど、大きな一歩だと思う。どうやら、戦争自体はあたしが壁を破壊した後、すぐに終わってしまったそうだ。リネーの多くの兵が逃げたそうだが、ナテロ側はそれを追わせるようなことはしなかったという。そのため、その戦いではほとんどの人が命を落とさずに済んだそうだ。人が死ぬことは嫌だったので、それを聞いて安心した。

そして、王女としてのあたしは戦いで死んだことになっている。まあ、実際にあの壁の上から落ちたわけだし…。こうして今も生きているのは、クロードさんのおかげだ。あの場所にいた人も、あたしは助かっていないと思っているだろう。なので、今のあたしは公には王女ではない、別人として扱われていて、お母様の実家の遠縁ということになっている。

基本的には新しい家で色々と勉強をすることが多い。独学で学んできたことが多すぎたせいで、違っていた知識や新しい知識を覚えるのは非常に面倒だ。「破滅」の力に関しても学んでいるけれど、非常に難しいし、厄介。でも、好きな分野については更に深く学べているのでとても満足。ただ、熱中しすぎてお母様…、というよりは、クロードさんに怒られることがよくある。何故かクロードさんは、時折お屋敷に「転移」でやって来ては、あたしを驚かせていた。そして、その際、お母様やこのお屋敷の当主様にあたしの様子を聞いて、あたしの勉強を手伝ってくれる時もある。

この日も、あたしはお屋敷の資料室で調べ物をしていた。上の方の棚にある本が、届きそうで届かない。そんな時に不意に現れて、取ってくれた。背が高いっていいな…。そう思いつつ、お礼を言って受け取ろうとしたら、本を持つ手を更に上に挙げた。そのせいで全く取れそうにない…。さっきよりも取るのが困難になってしまった。あたしは文句を言った。

「ちょっと……。クロードさん、何で渡してくれないんですか。その資料、ものすごく大事なんですけど!」

クロードさんの正体が分かった後、あたしは今までのように接して良いのか分からずにしばらく悩んでいたのだが、本人がそのままでいいと言ってくれたのでそうしている。本当はあまり良いことではないのだろうけど…。なので、公の場で話すことになったらちゃんとした口調で話すつもり。

「アシュリア、また本に夢中になっていただろう?知識をつけるのはいいことだが、やり過ぎると良くない。母君が心配していたから、ちょっと出かけようかと思って誘いに来たんだ」

そう言って、自分で取ったはずの本を元の場所に戻してしまった。どうやらクロードさんの中では出かけることは既に確定しているらしい。あたしの返事も聞かずに、机にあった書物なども「転移」で一気に片付けてしまった。こういう時に便利そうだな…。けれど、そこまでされてしまっては、勉強は諦めるしかない。資料室から出て廊下を歩きつつ、クロードさんに尋ねた。

「それで…、出かけるって言ってもどこに行くんですか?」

「前に、湖に行こうって話をして結局行っていなかっただろう?今日は天気もいいし、ちょうど良さそうだからそこに行こうと思って。アシュリアも魚釣りしたいとか言っていたし」

その話を聞いた瞬間、勉強に関することは全て頭の中から消え去った。そう言えば、確かにそんな話をしていた。魚釣り、楽しそう!けど、お母様に言わなくても大丈夫かな。そんなことを心配したけれど、既にクロードさんが言ったらしい。しかも、あたしがいた資料室に来る前に。行動が早い。そのことに驚きつつ、お屋敷の外に出た。本当にいい天気。今までとはまるで違う世界。広くて、とても自由。だからこそ、時折何をするべきか迷うこともある。けれど、ここに来られて良かったな、と改めて思った。

「クロードさん、改めて、あの時あたしを助けて下さって本当にありがとうございました」

「……急に改まってどうしたんだ?別に、礼を言われるほどのことではないし。まあ、でも、どういたしまして」

と、何故か微妙に早口で言う。そして、そんな会話をしながら歩くあたしたちを、お屋敷のメイドさんたちが、どこか微笑ましそうに見送ってくれている。…何でだろう?色々と気になる点があるけれど…。クロードさんはすぐにいつもの調子を取り戻し、エスコートするようにあたしにその手を差し出した。

「それじゃあ、行こうか、アシュリア」

あたしはうなずいて彼の手に自分の手を重ねる。

――少し前までは、窓枠で四角く切り取られ、有限だった空。それが、今はあたしたちの頭上に、青く、どこまでも広がっていた。

〈了〉

最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

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