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第二十五話 対決を終えて……

「さて。対決を終えてみて、みんなどうだったかな?」


 ダニエル先生が俺たちに尋ねる。


「自分たちの傲慢さ、力のなさを実感しました」


 アウレールが悔しそうにそう言う。


「自分たちのやっていることの幅の狭さを実感いたしました」


 俺は答える。結局、対決という意味では3勝2敗。俺たちの勝ち越しではある。

 ただ、そのうちの一勝は俺だし、もう2勝は俺たちが普段からやっていることの成果だ。自分たちが慣れていて、得意なことでは領都の学院性とでも渡り合えることは分かった。けれど、今回、慣れている形式の対決が一つもなかったら?正直、全敗だった可能性もあると思う。

 結局、俺たちはもっとやることの幅を広げなければいけない。もうすぐ、学院でも高学年と呼ばれる時期に入る。そうなったら、今のままではなかなか大変だろう。実戦的な訓練も多くなると聞いているし、課外での演習も増えるらしい。正直、今のままではすべてに耐えられるかと言われると自信がない。


「お互い、いろいろと課題が見つかったようで、今回の試みは成功と考えていいかな?」


『はい!』


 ダニエル先生の言葉に俺たちは全員で声をそろえた。



「ヴォルクス殿。僕は、君に正式に謝罪したいと思う」


 話が終わると、アウレールが俺にそう話しかけてきた。


「僕は、自分たちが学院で教わっていることこそが領土の学院の中で一番だと思っていた。田舎の学院、それも生徒が五人しかいないような学院の生徒に自分たちが負けるはずはない。そう思い込んでいた。本当に傲慢だったと思う。申し訳ない」


 頭を下げるアウレールに俺は初めてあった日のことを思い出す。


「2回目ですね」


「え?」


「俺に謝るのがです。あの時は、貴族が庶民に謝罪をするということ自体に驚きましたが……」


「いや、あの時の謝罪は父に言われて形式的に行っただけだった。今では、本当にあのときの発言について反省している。何が、一回うちを見に来たらこっちに来たいと思えるだ。むしろ、今日は僕の方が君たちと一緒に学びたいと思わされたよ」


 そう言って笑う。


「申し訳ありませんが、俺たちには俺たちの学院がありますから」


「そうだね。いや、それがよく分かった。お互い、自分たちのいるべき場所で学問に励もう。ところで、本当に中等学院は王都のところを目指しているんだよね?それも地元の……という話には?」


「……それはさすがに全く考えていません。王都の中等学院は憧れですから」


「それならよかった。じゃあ、ヴォルクス殿……いやヴォルクス。お互い頑張って、王都の学院で会おう」


 アウレールがそう言って手を差し出してくる。俺は、しっかりとその手を取り、強く握りしめる。

 中等学院に進むのも楽しみになってきたな。


「アウレール。ヴォルクス様を独り占めにするなんてよくないと思いますよ」


 そう、クララが膨れ面で言ってくる。


「そんなつもりはなかったんだけどね……。クララも話したかったのかい?」


「当然でしょう。私はそもそも今日こうしてここにいるのはヴォルクス様にお会いしたかったからなわけで……」


 ん?どういうことだ?ここにいるのはって。そもそもここの学院の生徒なんだからここにいるのは当然じゃないのか?


「あ、お話ししていませんでしたね。私は普段、ここではなく王都の学院の方で学ばせていただいているんです。今日は同学年に優秀な方がいると伺って、お願いをして参加させていただきました」


 え……?王都の学院……?そんなところから、俺に会うためにって、どういう話だよ。


「お会いできてよかったです。だけど、先ほどの話は本当ですよね?王都の中等学院を目指していらっしゃるというのは」


「は、はい……。それはそうですが、えーっと、王都の学院に通われているということは……」


 領土を持っているような貴族の子女は大抵地元の学院に通う。そんな伝統の中で、初等学院から王都の学院に通うような子どもは相当なエリートだと聞いたことがある。通う可能性があるのは、他には、俺と同じ立場の賢者の一族や、大商人の家系。それと王都を守る軍の一家に、学者一族。とにかく、初等学院のうちに王都の学院に通うということは相当な魔法の力を持っているか、権力者かのどちらかだろう。

 クララは一体……。


「私のことはいいじゃありませんか。王都の学院でお待ちしていますね。その時には、学友としていろいろとお話ししましょう。それでは。ヴォルクス様、またお会いしましょう。アウレールも。頑張ってね」


「はい。クララ様もお元気で」


 アウレールは複雑そうな表情でうなずく。

 けど、クララ様?この中で一番偉い人の子どもはアウレールだと思ってたんだけど、実は違うってことか……?


「今日はクララでと言っておいたでしょう。アウレール。まぁいいわ。それじゃあ」


 そう言ってクララは去っていく。アウレールの方を見るけれど、何も言わない。


「申し訳ない。口留めされているんだ。そのうち自分から話すと。そういうわけだから」


 そう言って、アウレールは俺の元を離れる。

 最後になんか大きな謎が残ったんだけど……。マジで、どういうこと?



 それから、俺たちは村に帰るために馬車へと乗り込んだ。

 俺とアウレールが話をしている間に、みんなそれぞれ、他の生徒たちと交流を持っていたようだった。行きの楽しそうな雰囲気とは違い、柔らかな空気だ。

 中でも、ミンクは色々な生徒から話を聞かれたという。


「ぼ、僕のゴーレムと一緒に修行したいっていう人が何人かいてね」


「あぁ、それはライナーが俺と話してるときにも言ってたな。あのスピードを出せるゴーレムはそうはいないって。俺がミンクのゴーレム相手に普段訓練してるって言ったらうらやましがられたよ」


 へぇ。俺たちにとっては普通のことでも、意外とそうでもないってことは多そうだな。


「ただ、やっぱり村から領都は遠いしさ。さすがに、領都にそんなにたくさん行くわけにはいかないって言って断らなきゃいけないのは申し訳なかったよね……」


 ミンクが複雑そうな表情でそう言う。

 自分が必要とされるってことがあったおかげで、ミンクの自信にもつながったことだろう。今日のことは本当によかったな。


「私とアンリは、一緒に訓練しないかって何人かの男の人から誘われちゃった!」


 セルファが嬉しそうに言う。貴族様のご子息は色々と手が早いらしい。

 アンリの対戦相手はスマートな貴族様だったしな。


「だけど、みんな領都の人だから距離も遠いし、アンリが全然乗り気じゃないし、断るしかなかったのが残念!私、中等学院は領都の目指そうかな!」


 とかそんなことを言っている。


「へぇ、アンリは乗り気じゃないのか。貴族の男性と交流を持てば、いいことあるかもしれないぞ?」


 こっちの世界では身分違いで結婚するなんていうのはそれほど珍しくない話だと聞く。それこそ、学院で出会って恋愛結婚なんてこともあるみたい。

 まぁ、そういうとき、庶民側は当然どっかの貴族家の養子に入ることにはなるみたいだけど。


「きょ、興味ないから。そんなこと、私は」


 へぇ。玉の輿は女の子みんなの憧れだと思っていた。まぁ、アンリは真面目だからなぁ。


「それよりも、正式にカルラから一緒に訓練しないかって誘われたことの方が驚いたかな。私、全然かなわなかったのに」


 それぞれ、対戦相手を中心にいろいろと交流があったんだな。

 それこそ、みんながこうして自分たち以外の人と交流することで向上心が出てくるのはいいことだよな。

 やっぱり、俺たちみたいな村出身だと、普通に地元の初等学院から中等学院に進んで、そこからは当たり前のように地元で暮らして……っていうのが普通だけど、それだけじゃつまらないしね。

 俺が王都の学院を目指すのと同じように、みんなもさっきセルファが言っていたように領都の学院とかを目指すようになってくれたらめちゃくちゃ嬉しい。


「だけど、みんな、本当にお疲れ様。ひとつ、私からも感謝を伝えさせてもらうね」


 先生がそんなことを言って話に加わってくる。


「私と先輩……ダニエル先生は教師の専門学院の先輩後輩だったんだけどね。やっぱり、領都の学院に配属が決まるような人と村の学院に配属されるような人では扱いが違うの。専門学院時代の仲間が集まるときでも、キャリア自慢みたいなのが多くてね……」


 先生は面倒くさそうに言う。


「だけど、今日のことで、先輩が私に謝ってきて。場所は関係ないんだなって。優秀な生徒はどこにいても育てることができるということがよく分かったって。私が何年も訴えてきたことがようやく分かってもらえた感じ。全部あなたたちのおかげ。本当にありがとう」


 先生が俺たちに頭を下げる。こっちの世界の大人もいろいろと面倒くさそうだな。

 まぁ、先生が評価されたならよかった。


「そんな。今後もよろしくご指導ください!」


「そうだよ。先生がいなかったら私たちもこんな風になってないんだから」


 俺の言葉に続くようにセルファがそう言う。

 その後もみんな口々に先生への感謝の言葉を伝える。


「あ、そう言えば、ヴォルクス、これで転入しなくてすんだよね?私たちの勝ちだったもんね?」


 アンリが思い出したようにそう言う。

 いやいや、転入の話はアンリしか聞いてなかったのに……。


「は?転入ってなんだよ。そんな話俺は聞いてないぞ!」


「私も!なにそれ!」


「僕も……え?ヴォルクス君、転入する予定だったの?」


 ほら、みんなその話を聞いて突然責めてくるじゃん。


「い、いや。アウグスト様からそんな話をもらったのは事実だけど……俺は転入なんてするつもりなかったって!それに、さっき正式にお互いの学院で頑張ろうってアウレールと話したとこ!」


 それからも、村に到着するまでみんなから責められっぱなし。

 そういう話があったらすぐに言えとか、そんな賭けみたいなことしてたんだったらもっとやる気出したのにとか……。

 まぁ、みんな俺と一緒にいたいんだってことが分かってよかったけど、もう少しお手柔らかに頼むよ……。


本日より、『極振りユニークスキルは俺のユニークスキルで『調整』してやる パーティを追放されるようなダメスキルの俺たちだけど、全員そろえば負け知らず』という作品の投稿も始めております。


そちらの作品共々よろしくお願いします。

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