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第十七話 いざ領主邸へ!

 さて。それから一週間は結構忙しかった。

 毎日、テーブルマナー講習みたいなのと同じようにいろいろと指導を受けることがあって大変だった。最初の挨拶の方法とか、しゃべり方のルールとか。

 まぁ一夜漬けみたいなもんだから、ミスはあるだろうけど、それは許してもらえるようにオスカーさんも言ってくれるらしい。

 さすがにこの年齢でそこまで丁寧な内容を求めないと思うってばあちゃんも言ってくれたし、少しは気楽に臨んでもいいかなって思う。


 ただ、問題は手土産ってやつでさ。とりあえず、魔法陣鎧は持っていくけど、それは工房としての手土産。実際はどちらかというとばあちゃんからのものと考えたほうがいいみたい。

 俺も何か準備した方がいいという話をされたんだけど、俺は別に魔法陣鎧の製作には関わってないしね……。


 思いつくものと言えば、あの魔剣ぐらいかなぁ……。

 ただ、あれも外に出すにはまだ早いって言われてるんだよな。

 と思ってばあちゃんに相談したら、魔石粉で十分じゃないかという話になった。


 現状、魔石粉を作れるのは俺だけだし、その活用法としての魔剣をたとえ伯爵様が思いついたとしても貴重な素材をそういったものに使うとも思えない。

 試作段階の製品として見せれば、十分だろうということだ。


 製作方法も隠してお渡しすれば、製作方法の研究が行われて、俺以外に複合魔法を使える人が出てくるかもしれないという話もばあちゃんはしてくれて、それは願ったり叶ったりだから、それでいくことにした。


 学校では、なかなかミンクとの再戦が出来ずにいた。

 というのも、俺とミンクがゴーレムで戦ってしまうと、他の3人はただ観戦するだけになってしまってつまらないと話出したからだ。

 うーん……。とりあえず伯爵様との対面を終えて、放課後暇になったらミンクともう一度戦う日を作ろうかな。


 魔石粉を活用した魔法陣術の活用法もまだ検討中。

 いまだに複数の魔法陣を同時に作動させられるようにはなってない。

 思った以上に魔力を使うものなのか、それとも何かコツがあるのか、これも落ち着いたらばあちゃんに確認を取ろうと思ってる。


 というわけで、そんなこんなで一週間が経った今日、伯爵様のお屋敷でのお食事会の日がやってきた。


 俺とばあちゃんとオスカーさんの3人が招待客扱い。

 その他は、伯爵様、伯爵夫人のフローラ様、伯爵様の息子さんで俺と同じ歳だというアウレール様、更に伯爵の娘さんで王都の中等学院に通っていらっしゃるというフリーデ様の伯爵様一家、それとその日の護衛を担当されるというローレンツさん。

 全部で8人でのお食事会ということになった。


 貴族様と庶民がちょうど半々になるように少し気をつかってもらったような気もする。

 実際、俺とばあちゃんだけが庶民ってなると、緊張半端ないしね……。

 完全に初対面なのが伯爵様一家だけっていうのもありがたいところ。

 顔見知りかどうかってだけでも、こういう時の緊張感がだいぶ変わってくるからね。


「お待たせいたしました。ヴォルクス様、エリーゼ様。制服姿、大変よくお似合いですよ。ヴォルクス様」


「ありがとうございます。オスカーさん」


 制服に身を包んでいると、オスカーさんを乗せた馬車がやってきた。オスカーさんが分かりやすいお世辞を言うけれど、それに対して普通の反応でしっかり答える。

 お世辞だとしても、それに対して謙遜する必要はないと教わった。

 素直に受け取り、素直に礼を言う。これが貴族の礼儀らしい。

 日本人からすると謙遜したくなっちゃうんだけどなぁ……。


 そのまま、馬車に乗りこみ、何度目かの領都へと向かう。

 ただ、今日は今までの目的地とは違う。

 領都の中心にある、領主様のお屋敷に向かうんだ。


「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。ヴォルクス様」


「い、いや……。緊張なんてしてませんよ」


「ごまかせてないよ。ヴォルクス。笑顔が引きつってるし」


 ばあちゃんが笑いながらそう言ってくる。

 いや、そりゃ緊張するだろ。領主様だぞ。

 そんな立場の人に会うなんて機会、そうはないはずだし、無礼なことをしたら……。


「無礼を働いてもすぐに斬られるなどということはございませんから。本日はローレンツ殿しか騎士は控えておりませんし、自然に振る舞っても問題ありませんよ」


 オスカーさんが優しく言ってくれる。

 ずっと気遣ってくれるんだよな。オスカーさん。


「ありがとうございます。オスカーさん。しかし、そもそもおれ……私が領主様とお会いするなんていまだに実感がわかなくて……」


「ははは。急にきまり、そこからたったの一週間でしたからね。しかし、アウグスト様がそれだけ早くお会いしたいということですから」


 うーん。会うたびにオスカーさんはそう言ってくれるんだけど、本当に今もどうして俺なんかに会いたいのかさっぱりわからないんだよな。

 そりゃ製品は作ったけど、似たような発明をしてる人全員を招いてるってわけじゃないだろうし……。まぁ、気にしてもしょうがないかな?


 そこから道中は、俺の学校での話なんかをオスカーさんがいろいろ聞いてきてくれて、同級生の話なんかをしていたらいつの間にか時間が経っていた。みんなのすごさの話をしているところなんて熱が入りすぎて、「同級生がお好きなのですね」とかオスカーさんに笑われてしまった。

 まぁ、でも、こういうときに好きな話題を出して緊張を和らげるのも商人としての実力のたまものなのだと思う。やっぱし、優秀なんだろうな、オスカーさんは。


「さて、到着したようだよ。ヴォルクス」


 そんなこんなで、お屋敷に到着した。

 馬車から降りると、ずらっと使用人の列ができているのが見える。その使用人たちが一斉にお辞儀をする。いやいや、そんなお出迎えされても……。むしろ緊張感が高まるんだけど……。


「お待ちしておりました。魔法陣鎧開発者、ヴォルクス様。賢者エリーゼ様」


 その使用人の列の中で一番年を取っている様子の執事の方が声をかけてくれる。


「ああ、フォルカー。今日は世話になるよ」


 ばあちゃんがその執事の方に声をかける。本当にばあちゃんは慣れてるよな。俺もそのうちこうなるのだろうか……?

 それから、とりあえず客間へと案内される。そこに伯爵様ご夫妻がいらっしゃって、手土産などを渡してから食卓に招かれる流れになるはずだと事前に教えてもらっていた。


 出された紅茶を飲もうと思ってカップを手に持とうとするんだけど、手が震えてうまく持てない。その様子を見てばあちゃんが笑う。


「だから、緊張しすぎだって。ほら、茶菓子でも食いなよ」


 ばあちゃんが、そう言って焼き菓子を差し出してくる。茶菓子なんて普段この世界では食べる機会がない。そもそも甘味が珍しい。まだ、砂糖はそれほど出回っているわけではなさそうだし、養蜂なんかもしてないように思える。

 震える手を抑えながら、焼き菓子を食べると、その優しい甘さにホッとした。

 塩味の薄い食事は微妙だったけど、甘いものはこれぐらいの感じでも十分おいしいよな。

 甘いものを食べたら少しホッとする。少し震えが収まったところで、ゆっくりと紅茶を飲む。これもおいしい。やっぱし、貴族はいいもん食ってんな。


 そんなことを思ってると、突然扉が開いた。

 慌てて立ち上がると、ゆったりとした服に身を包んだ男性とそんなに派手ではないドレスを着た女性が中に入ってくる。後ろに続くのはローレンツさんだ。


「ああ、お待たせしたね。ヴォルクス君。アウグスト・カレンベルクだ。よろしく」


「フローラ・カレンベルクです。お会いできて光栄です」


「あ、お、お招きいただきありがとうございます。ヴォルクスと申します。本日はお食事をご一緒できるという身に余る光栄。た、大変嬉しく思っております」


 言わなければいけない言葉を頭の中で思い出しながら必死に口を動かす。

 はぁ……。つらい……。


「ははは。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。今日は普通の夕食に皆さんをご招待しただけだから。会食という感じでもないし、もっと普通で構わないよ」


「ええ、そうですよ。もっと自然な感じでいてくださいね」


 2人が優しく声をかけてくれる。でも……いやいや緊張するなって方が無理でしょ。


「アウグストもフローラも今日の服装はずいぶん地味だね。それもヴォルクスに気を使ってのことかい?」


「さすがはエリーゼ。よくわかってるね。あまりにも貴族然としてしまうと、ヴォルクス君を怖がらせてしまうんじゃないかと思ってね。今日は人と会うための服装ではなく本当に普段生活しているような服装にさせてもらったんだよ。エリーゼとオスカーには少し申し訳ないね」


 確かに言われてみると、貴族ってもっと派手な服装してるものだと思ってた。本当に普通の礼服って感じの服装だし、アクセサリーなんかもほとんどついてないな。


「構いませんよ。本日はヴォルクス様が主役ですから。ところで、いつまでこうしているのですか?早くお座りになったほうが話しやすいかと」


「ああ。すまないね。じゃあ、座ってくれ」


 そう言われて、ゆっくり座る。はぁ、一つ一つの行動が無礼に当たるんじゃないかと思えてうまく動けない……。


「じゃあ早いとこ、こちらからの手土産を渡しちゃおうかね。これが魔法陣鎧。アウグストのサイズに合わせて作っておいた。領地の見回りなんかに使ってくれるとありがたいよ」


 そう言ってばあちゃんが魔法陣鎧を渡す。既製品はもう手にされているらしいが、今日のは完全に領主様用に作り上げたオーダーメイド。宝石なんかもあしらって、領地の見回りや遠征の時に着ても問題ないように作ってある。


「ああ、ありがとう。感謝するよ。いやー、これは本当にすごいね。オスカーに聞いたんだけど、ゴーレムの体すら砕けるほどなんだとか?私もそのプレゼン見たかったなぁ」


 心の底から残念そうに言ってるのが分かる。本当に魔道具が好きな領主様なんだな。


 さて、次は俺の番だ……。魔石粉、どういう反応になるのだろうか……。


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