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3.ノエルの仕事



 ガラガラガラガラ……。


 店の前を通る荷台の大きな音に、突っ伏していた顔を上げ、気持ちを切り替えようと立ち上がるノエル。


『うだうだしていても仕方がない……』


 そう心の中で自分に言い聞かせ、己を奮い立たせる。依頼者が来るまでにはまだ時間はあった。片づけられそうな仕事を頭の中でいくつか並べ、ノエルは動き始めた。




 まずは、仕事を始める前に必ず行う祈りの儀式から。


 早朝、井戸の水を汲むとき一緒に集めてきた朝露数滴と、酒屋で購入したワインを、それぞれ小皿に入れて仕事場の奥に作られた小さな棚の左端と右端に並べる。小皿にワインを継ぐとその渋い香りが工房の中に広がり、ノエルの頭の中が仕事用へと切り替わっていく。


『朝露は右、ワインは左。朝露は右、ワインは左』


 いつも間違えると師に厳しく叱責された為か、頭の中で手順を何度も呟いて確認するのもいつもの事だった。


 更に、庭から採ってきた赤くて丸い実と緑の葉が付いたルーボルの短い枝三本を麻紐でまとめて縛り、中央に置かれた土の精霊像の前に置く。


 そうして完成したのは小さな祭壇だ。その前に片膝を立ててしゃがみ、胸の前で手を組むと、ノエルは目を閉じて静かに祈りの言葉を捧げ始めた。静かな工房に彼女の落ち着いた声がそっと響き渡る。


 加工師の大半は土の精霊を信仰している。師から何度も厳しく教えられた仕事前の祈りの言葉は、ノエルにとって今では言わなければ気持ちが悪いくらい当たり前の日課となっていた。


 言葉を言い終えて顔を上げると、ちょうど窓から朝日が当たる位置に置かれている像がその光に柔らかく照らされている。それを見て、今日も精霊様に見守られて仕事が始まるのだと、どこか安心するのであった。




 そして次は頼まれているクリスタ作りの下準備に取り掛かる。必要なものを工具立てから取り出し作業台に並べると、ノエルは壁につけられた棚の上から二つの木枠を大事そうに持ち出した。


 次に作成するのは、肉屋の双子ルトとロイ。翡翠月に生まれた二人の為に、彼らの両親が用意した魔石は若草色の四角い形をしたものだった。最初は少し歪だった形も、ノエルが何度か整えたおかげで安定した物になってきているが、更に魔力を通してより良い形に仕上げていく。


 似ているけれど、少しずつ違う性格の彼らの為に。二人を思い浮かべながら魔力を入れると、石の輝き方もなぜか変化してくる。


『……よし、出来た』


 ある程度まで完成させると、最後の仕上げは依頼者と一緒に行う必要があるので、使う道具の確認を終わらせ、木枠に全てをまとめ入れて片づけた。




 それが終わってようやく二の鐘が鳴り終える。約束の三の鐘までまだ時間は残っていた為、一袋だけと決めてノエルはワクワクしながら小粒魔石の仕分けを開始した。勿論、顔はいつもの無表情だが。


 小粒魔石は別名屑魔石とも呼ばれている。採掘や魔物を退治した際に出てくる、魔石の中でも小さめの石だ。本来なら使い道が無く、昔は処分されていた物だったが、十数年前に研究者が再利用の方法を考案し今に至る。


 その使用方法はいたって単純。種類ごとに仕分けして、それぞれの使用目的ごとに使うだけ。豆粒くらいの魔石ともなると、採掘場では一緒くたに集められる為まずはそれを仕分けることが一番大変な仕事となる。


 武具に力を入れている店舗では、その他の魔石の補助として使ったり。装飾に力を入れている店舗などでは、石の色合わせなどに工夫した宝飾を作り販売したり。今では、百人いれば百通りの使い方があると言われているくらい、幅広く使える魔石という評価だった。


 ノエルは棚から年代物のガラス瓶を取り出して並べ、ゴーグルにルーペガラスをはめてから、ザッと机に勢いよく広げた魔石を一つずつ種類ごとに分けていく。とても地味な作業で、どの工房でも新人加工師が担当する面倒くさい雑用の一つだが、ノエルはこの作業が好きだった。


 小さく輝く魔石を丁寧につまんで確認して、ガラス瓶に入れていく。色とりどりに仕分けられた魔石が少しずつ増えていく様子や、山となっていた魔石が片付いてく様子に幸せを感じつつ。そうやって仕事に取り組んでいると、時間はあっという間で。




 三の鐘が鳴るころ上級冒険者パーティーのメンバーが店にやって来た。

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