12.閑話~土の妖精アーティアル~
僕の名前はアーティアル。土の妖精さ。
とは言っても下っ端も下っ端の端くれ妖精なんだけどね。
生まれたばかりは森の中で暮らしていたけどすぐに飽きちゃって。少し大きくなったら好奇心が抑えきれなくなって、最初は一番近くの街、そこを見尽くしたら次の街、果ては山・川・森・海といろーんな所を見て周ったさ。
そんな感じでもう随分長いことあっちこっちをフラフラしてたんだけど、とある町を飛んでいた時に出会っちゃったんだよね。素敵な光を持つあの子に。
いやね。最初に出会った時のあの子は酷いものだったよ?
ボロボロの格好にガリガリの体。今まで見てきたニンゲンって、なんて言うのかふつーの奴らばっかりだったからさ。見た目は気持ち悪いかもって思ったんだけど、どうしてもあの子がふわっと纏ってるあの光に惹かれずにはいられなかったんだよ。
それでなんとなーく離れがたくなって、たまに他の場所へ出かけても結局その子が気になって戻ったりしてさ。そんなの初めてだったから僕自身もビックリ。でも妖精って自分の気持ちに正直なところがウリじゃん? あ、僕この子の事が好きなんだーって分かってからはこっそりずーっと見守ってたんだよね。
それから、あの子が緑色の髪の女に連れられて町を出て、今のこの街で暮らし始めてさ。
少しずつあの子がふっくらしてきたり、きれいになっていくのを傍で見てたんだ。
しばらく経ってからは、緑髪女と一緒にあの子が魔石を扱い始めて!
え、僕の得意分野なんですけど!?
嬉しくって傍にいる僕の光がまぁまぁ漏れ出ていたのは仕方ないよね。うん。
そんでまたあの子といっしょにいる女も、捧げる祈りだったりお供え物だったりがすっごくきちんとしててさー。
たまーに気まぐれで覗いた他所の街の工房なんかだと、言葉が省略されてたり祭壇が汚かったりしてうへーって感じだったんだよ?
気分悪くて近寄りたくもないよね。いや、別にいいんだけどさ。僕には関係ないことだし。それでもきちんとした言葉やお供え物って心地いいもんだよ。うん。
ちょっと語っちゃうけど、まず僕たちが好きなのは当然綺麗な環境ね。散らかってるのはあり得ない。その点、緑髪女は店の中をいつもきれいに整えてる。自分の格好もそうしてくれたらよりいいと思うんだけど、まぁ及第点。清潔は清潔だからね。見た目だけしっかりしてるような薄っぺらい奴よりはマシさ。
あとは古木なんかも好きだからさ。女が買ってくる古い木で出来た家具なんかを見ると「お、こいつやるなぁ」なんて思っちゃうんだよね。古さも丁度よくって、あいつ妖精が好きなものを選ぶ審美眼みたいのもってると思うよ。うん。
んで、なくてもいいけどあると嬉しいのは白い花。これは妖精によって好みが違うかもしれないけど、僕たち土の妖精の奴らは基本的に白い花が大好き。実は、二人が住む店の半分くらい蔦に絡まれてるんだけど、毎年初夏になると白い花が咲き乱れるんだよ。しかもいい香りの! いやー、参っちゃうよね。妖精のツボ分かってるよね。
そしてお供え物ね。これは夜露がベスト。後は一緒に赤い飲み物…ってことでワインでも代用できるけど、実は一番好きなのは血だったりする。いや、難しいのは分かっているから。言うだけ言わせてね。
そんで、一緒にサンザシの実なんかもあると凄く嬉しい。実は、お店の中にある観葉植物がサンザシの木でさ。実がなる時期になると、毎日お供え物として出てくるんだよー。これは喜ばない妖精はいないでしょ?
え? 好みがうるさいって?
だって妖精だもん。
それから、段々とあの子も女に教えられて一人で僕たち祈りの言葉を伝えてくれるようになって。
女がいなくなってからは、大きくなったあの子がしてくれて。
心地いい光を持つ彼女がくれる言葉はやっぱり嬉しくて、ついつい傍に居続けたんだよね。
そんなある日、いつものように作業してたあの子の元に変な奴らがやって来たんだ。
紫髪の苦手な雰囲気の奴。多分、あれ、魔の力をうまく隠してるんだろうね。
茶色の奴や黒髪の奴は、分かりやすく火や水の仲間に好かれてるからか残滓が見える。
んで、問題は最後。
金色髪の奴がキョロキョロ店の中を見回したかと思うと、あいつ僕を見てにこーってしたんだ。
この! 僕を見て!
ふつーの奴らには僕たち妖精の姿は絶対見えない。今まで見つかったこともなかった。
すっごく驚いていると、
「初めまして、ノエルさん。とても素敵なお店ですね」
チラリと僕を見てから、あの子に向けてそう言ったんだ。
んで、分かった。金色髪の側で隠れてるの。あれ、大精霊様だって。だから僕みたいな下っ端妖精も見つけることが出来たんだって。いやー、ビックリだけど納得だよね。
僕たち妖精は数も多いし、気に入った子がいれば結構すぐに側にいようとするから、まぁ珍しくはあるけどなくはない。でも、大精霊様が気に入る子が現れるって。百年に一人くらい? 滅多にいないと思うよ。まぁ、あの子に害がないならいいんだけど。
そんな事を考えながら、僕は今日もこの店で彼女を見守っている。
大好きなサンザシの花に囲まれて、これからも見守り続けるよ。