表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/51

第8話「金魚の糞」

 神谷さん達にひまりを紹介して部室に行くのを見送ったあと、僕も鞄を持って教室を出ようとした時だった。


「なぁ、ちょっといいか?」


「うん、どうしたの?」


 そう声をかけて来たのは、バスケ部でエースの三鷹みたかくんだった。その隣に居るのはサッカー部でエースの木嶋きじまくん。

 この二人はスポーツの活躍ぶりも凄く、恵まれたルックスも相まって、女子人気が高くてとても有名だった。そんな二人が仲良いとなれば尚更のことだ。


「お前、掛川かけがわさんと幼馴染って聞いたんだけど、本当か?」


「うん、そうだけど……それがどうかしたのかな?」


 そう三鷹くんが言ってきたけど、それが僕に関係あるのかな?


「連絡先知ってるだろ? 教えてくれよ」


 それで僕に声を掛けて来たのかと用件については理解した。だけど、メッセージアプリには掛川さんの連絡先なんて入ってなかったから、僕は否定した。


「僕、掛川さんの連絡先知らないよ?」


「は? 嘘だろ? 幼稚園から一緒で金魚の糞みたいに付きまとってたとか聞いたけどな。その程度の関係だったのかよ……使えねぇな〜」


「ご……ごめん」


 僕はこういう風に威圧してくる人が嫌いで萎縮してしまう。

 掛川さんのことは周りにそんな風に見えていたのかと意外だった。


「まぁしょうがなくね。嘘ついてるようには見えねぇし。じゃあ花菱はなびしさんの連絡先教えてくれよ。さっきスマホで何かやってたの見てたから言い訳出来ねぇぞ」


 そう切り出して来たのは木嶋くんだった。


「えっと……()()()のは知ってるんだけど、やっぱり本人に許可取らないで勝手に教えるのはよくないと思うんだよね。それにおんなじクラスだから、直接本人に聞いた方がいいんじゃないかな?」


「……は?」


「何だお前」


 空気がピリッとしたのが伝わってきたと同時に、思い切り三鷹くんに胸ぐらを掴まれた。


 僕は何で二人が怒ってるのかが理解できなかった。


 わざわざ僕を間に挟んで連絡先を聞くなんて、女子人気の高い二人なら直接教えてもらえるだろうと、疑いすらしていなかったから。


 まだ教室には人も残っていたことから、そんな険悪なやり取りを感じ、静寂の中でみんなの視線は僕たちに向いていた。その時。


「おい、止めろよ」


 低く、相手を威圧するような声。その声だけで相手の戦意を喪失させてしまうような声色が教室に響き渡る。


 声の主は僕の席の真後から、その男の子は僕達に近付いてきて三鷹くんを睨み、僕の胸ぐらを締め付けている右手を掴んだ。


「お……お前には関係ないだろ? 士道」


「俺の前の席に座ってるこいつはこれから俺のダチになるんだが? 関係なくはないだろ?」


 二人はかなり萎縮していた。僕はこの人を知らないけど、たぶん有名な人なんだろう。


「とりあえず握り潰されたくなかったら、その手を離してくれないか?」


 血管の浮き出た士道くんの手に力が込められるのが見て取れたと同時に、苦痛の表情を浮かべて三鷹くんは僕の胸ぐらを離した。


「っ〜!? ってぇなぁ! これでバスケに影響出たらお前のせいだって、お前の顧問に言いふらすからな!」


「勝手に言ってろ。そん時は女に連絡先聞いたけど断られて、惨めに他の男を頼って暴力使って脅してるクソ野郎がいたから、気持ち悪くてついでてしまいましたって言ってやるから」


「〜てんめぇ!?」


「お、おい! 止めとけって」


 相手が()()()()と木嶋くんが三鷹くんを制して、二人は帰って行った。


*****


「あ……ありがとう! 士道くん!」


「気にすんな」


 そう言って優しく微笑みかけてくれた。

 カッコ良すぎて、一瞬男でも惚れてしまうと思ったその思考を振り払った。


「あの、士道くんがさっき言ってたのって……?」


「あぁ、そのまんまの意味だよ。掛川と花菱は絶対に男に連絡先を教えないって有名だからな」


「そ……そうなんだ。だから僕にわざわざ訊いて来たのか」


 だけどまた違う疑問が浮かび上がってきた。じゃあどうして、ひまりは僕に連絡先を教えてくれたのかな? 今度訊いてみようと思った。


「俺は士道拳生しどうけんせいだ、よろしくな」


「うん、僕は横峯修司です。よろしく」


「知ってるよ。お前は有名人だからな」


「え? そうなの?」


 僕が有名人なんて初耳だった。

 これについても今度詳しく訊いてみようと思った。


「修司の連絡先聞いてもいいか?」


「もっ、もちろん!」


 そして連絡先を交換したあと……士道くんは言い辛い表情を浮かべて……モジモジして照れてるような雰囲気をかもし出した……。


「あ……あのさ、修司……」


「うん?」


 士道くんが僕の耳にコソコソと耳打ちして訊いてきた。


「修司の姉さんの連絡先、俺に教えてもいいか訊いてみてくれね?」


「……え」


 僕の思考が停止した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 五十音順なのになんで、よの後ろがしなんですか? 神谷さんの席の後ろなら納得ですけど、士道の前の席ってはっきり言ってるから違いますよね?
[気になる点] 「掛川」という幼馴染がいる記憶はあるけれど、ホワイトデーの出来事や、「かけはる」名義でメッセージをやり取りするほど親しくしていた事実は記憶を失っているのでしょうか? 記憶を失っている…
2020/04/07 03:06 通りすがり
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ