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 バナナの木やハイビスカスのような南国の木々が生い茂る森――オレが参考資料に渡した南国の木の写真を、背景担当が特にアレンジせずそのままドット打ちした――を通っていると、何度かスライマルに襲われた。

 もちろんイベントの敵ではなく、通常モンスター。

 アッパルプイの火の魔法・ワータで焼き尽くされた。ちなみにワータは、ウォーターから。火なのにウォーターって面白いんじゃないかと思ったんだが……実際叫んでるのを聞くと、いまいちしっくりこなかった。奇をてらいすぎたか……。

 いずれにせよ、ザコモンスターなど相手にならない。

 問題なく森を抜けると、再び草原が広がっており、その中に小さな村が見えた。

 家の数は8戸と少ないが、他のゲームと比較すると多い方だ。

 文化レベルは中世の農村をイメージしていて、白い土壁の家が立ち並ぶ。最初の村のお約束として宿屋以外の店はない。

 しかし……なぜこんなド田舎に宿屋があるんだろう……? 

 村人以外が寄り付かないようなところに宿があるのは、実際にゲームに入って体感すると異様だな……。しかも、薬草が10ゴルドルなのに、この宿屋は5ゴルドル。どうやって経営してるんだ……?

 ……やめよう。自分の設定の甘さを見ているようでつらい。

「ワシの家はこっちじゃ」

 先導するアッパルプイに、通りすがりの村人たちが声をかけてくる。

「おー、どうしたアッパルプイさん、後ろの人は誰かの?」

「カレシー?」

 おじいさんから幼女まで興味津々だ。

「旅人じゃ。ちょっとモンスターに襲われたのを助けられたでな。礼をせんのもぶしつけじゃ。家に招いただけよ」

 その口調通り、まるでおじいさんと同年代のように軽妙に会話を交わす。

 いや、「まるで」というのは正確じゃない。

「それとチビスケ、彼氏などではない。ワシはちょーろーじゃぞ」

 そう、アッパルプイは見た目通りの年齢ではない。

 彼女は、長命で成長も緩やかな種族・エルフである。エルフは本来森の仲に住み、人とは暮らさないのだが、ともかく彼女の実年齢は70歳。

 本人が言うように、この村では長老衆の一人だ。

 そんなアッパルプイの家は、他の土壁の家と異なり、純木造建築だった。枝打ちした枝や倒木を組み合わせて作るエルフ建築である。パッと見は、日本料理屋の離れにも見えるような落ち着いた平屋だ。

 中も土のままの床の上に木製の家具が少しあるだけの殺風景なものだった。棚には木製のコマやヤジロベーがぽつんと置かれている。

「適当に座っておれ。水くらい出してやるでな」

 言われるまま、椅子代わりの切り株に腰かける。

 オレは知っている。

 出てくるのはホントに水だ。エルフは薄い味付けを好む種族なのだ。

「ホレ、水じゃ。今日は助かったぞ」

 アッパルプイは竹筒を質素なテーブルに置いた。

「お、おう」

 クッと一気に水を飲み干す。上半身にじんわり広がる心地よい冷たさが、生の実感を与えてくれた。

 ……ここは、ゲームの中だとは……思う。

 だが、やっぱりこの水の冷たさはゲームとは思えない。

 だからもう、割り切ろう。割り切って認めよう。

 自分が作ったゲームと全く同じ世界に、オレは入ったんだ。

「どうしたんじゃ? そんなに美味かったか? 妙にスッキリした顔をしてからに」

「……ああ。おかげ様でね」

「そうか。であれば一つ聞きたい。その剣……いやネギはなんじゃ? ネギでモンスターを倒せるなんぞ、聞いたこともない」

「これか……」

 腰に差したネギに手を当てる。野菜のひんやりした触感。

 ここでゲームでは、主人公は「わからない。体が勝手に動いて引き抜いて、振り回した」と答えるところだ。それを不思議がったアッパルプイから力試しに、隣村を悩ませるモンスター退治を頼まれる……というのが序盤の話の流れだ。

 ……待てよ?

 ここがゲームと同じ世界なら、ゲームと違うことをしたらどうなる?

 だが、想定外の操作で未知のバグが引き起こされて、例えば進行不能になって永遠にフリーズなんてことも……もしゲームだったら有り得ないことはない。

 そうは言っても、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。

 元の世界に戻るためにも、情報が欲しい。

 ……これは、賭けだが……

「これは、聖剣エイジングセイバーだ」

「ふぇ?」

 この時点ではわかるはずもない情報をブッ込んでみた。

 これは、ネギカリバーという名前だ。そういう風に主人公が名付けて持ち歩くことになる剣だ。

 だが、その正体は、伝説の聖剣エイジングセイバーなのだ。

 無限に成長する最強の剣。かつて魔王を倒したと伝説に語られるもの。

 成長という属性を獲得するため、植物の性質を与えて生み出された。それゆえにネギの形をしているのだ。

 その設定が明かされるのは、本来最終盤。

 さて、どうなる……?

「ふぇっふぇっふぇっふぇっ!」

 爆笑された。独特の笑い方で。

「そんなバカみたいなものが、聖剣なわけないじゃろうが!」

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